第15話 余計なことは言わない

 次の日になりましたよ。


 朝日が昇ると、帝は密かに董承を召された。


「一体何ごとであろうか?」


 理由を思いつかぬ彼は急いで参内した。

 彼が面前へと来ると、帝は仰られた。


「よく来てくれた。体は健やかかね?」


「かくの如く、すこぶる元気、エナジー全開でございます。」


「それはなによりめでたいことだ。―――でだ。お前を呼び寄せたのは、昨夜、伏皇后と長安での苦労話をし、お前の功労を思い出したからだ。」


「・・・・・・・」


「思うに、朕が幾たびの困難を乗り越えることが出来たのも、お前のような忠節な臣のあるおかけだ。・・・董承よ。今日まで朕の元を離れず、朕を支えて来てくれたことに感謝の言葉を述べよう。そして、これからも朕の側で支え続けてくれ。よろしく頼む。」


「もったいない御意を・・・」


 帝の謝礼に、董承は酷く恐縮して、身の置くところも知らなかった。


(・・・しかし、なぜあの時の礼を今頃?)


 そして同時に、過去の苦労を賞する帝の態度に疑念を抱いた。


(・・・これは何かあるな。)


 古くより帝に付き従っている彼は、直ぐに帝の異変に気付いた。

 しかし、それを口には出さない。

 抱いた疑念は自身の勘に過ぎないからだ


『余計な言葉は相手を侮辱することに繋がる。』


 董承は帝の言葉に感激しながらも、帝の真意を探ろうとした。


「少し場所を変えたいな・・・ついて参れ。」


 さらに帝は、彼を伴ったまま、閣の廊下を歩み始めた。

 その歩みは少し駆け足、気がっている様に感じる。

 焦燥にも似た歩みがしばらく続くと、やがて、とある場所にたどり着いた。


(ここは・・・霊廟か。)


 二人が着いた場所。

 それは漢家の祖宗そそう(=歴代の君主)がまつってある霊廟であった。

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