第14話 大事は密かに行うこと

なぜなぜ帝は泣いてるの~?♪

それはね、とても悲しいから♪

なぜなぜ帝は悲しいの~?♪

それはね、権力ちからをとられたから♪

だれだれだれに~とられたの?♪

それはね、覇王『曹孟徳』♪


 「ママ~悲しいよ~~!!」と帝が伏皇后に泣きつていると、カツッ!カツッ!とくつの音がした。


 「「はっ!?」」


 帝、伏皇后、両名共に即座に口を閉じた。曹配下の者に今の話を聞かれたとあらばゲームオーバーである。―――が、幸いなことに、話を聞いていたのは伏皇后の父の伏完ふくかんであった。


「話は聞かせてもらいました!漢王朝は滅亡します!」


 帝を前にし、伏完は声を上げて断言した。


「やはり我々は滅びゆく一族なのか・・・そんなのアリエッティ(;ω;) 」


 ついに身内からも能無し扱いされたと思った帝はガックリと項垂うなだれてしまった。

 しかし、それは早計である。

 項垂れる王を前に、伏完は次いで言葉を発した。


「帝・・・私だけですかね?まだ曹操に勝てると思っているのは?」


「・・・えっ!?」


「まだ勝てますよ。彼から権力を奪い返すことは出来ます。諦めなければ試合は続行。終了のホイッスルはまだ鳴っておりませぬ。このように思っている者は、私以外にも、少数ですがまだ宮廷内におりますぞ。」


「・・・真か?」


「真にございまする。―――『曹丞相、帝より弓を奪う』。先日の狩場での、曹操のこのジャイアニズム的行動に、朝廷内では皆が怒りに燃えています。―――曹操を討ちましょう!!」


 手を大きく広げ、打開案を述べた伏完であったが、帝は慌てて、


「こ、これっ!声が大きいぞ!密かに申せ!この馬鹿ッ!! 禁中には曹配下の者がたくさんおるのだぞ!!壁に耳あり障子にメアリーの精神を忘れるでない!このアホウが!!」


「ははははは!ご案じ遊ばしますな!今宵は従者、付人、側近、侍女、妾、ダメ人間を遠ざけて、わずかな忠良な者だけを近くに残しております。」


「・・・ならば良い。―――では、続きを述べよ。」


 安堵した帝は、先ほどの態度とは打って変わり、椅子に深く腰を掛け直すと、伏完の言葉に耳を傾けた。


「ではでは続きを述べさせて頂きますが・・・第一に、大事なことを冒頭で先に述べさせて頂きます。私は曹操討伐の中央に席を置きませぬ。臣は年も衰え、若かりし頃に比べて威名もありませぬ。そのため、中央より外れた席で討伐の援助を行うつもりです。」


「では誰を中央の席に置くのか?ということになりますが・・・私は車騎将軍の董承とうじょうを推薦いたします。」


「彼は古くより漢王朝に仕え、その人望たるや宮内随一でしょう。彼に親しく密書を下し給えば、必ず御命を奉じましょう。」


 事は重大である。秘中の秘を要する。

 伏完の提言を聞いた帝は、直ぐに密書をしたため始めた。

 自らの御指を薄く切り、滲み出た血で文を認めるその覚悟。

 本物。まさに本物の決死の覚悟である。

 こうして作成された詔詞みことのりは、紫錦しきんの裏に重ねると、用意された玉帯の芯に、見た目では分からぬように細やかに縫いこまれたのであった。

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