まさくん、3

わたしが将来の夢ってなにかとまさくんに質問した時の事。

なんとなくで、特別深い意味もなく聞いたつもりだったけど、予想外にまさくんは難しい顔になった。うーん、そうだな、どーなんだろうか、など呟いた後に「1日だけ考えさせて」と言われ、そんなに悩んでくれなくていいのにと思いながら、「分かった」と返事をした。

次の日、晩御飯のアジフライを食べて、お風呂から出た時にまさくんから将来の夢ってなにかの答えが返ってきた。

「自分がこうなりたい、ああなりたいと思い描くものが『将来の夢』だよ」

キメ顔のドヤ顔を私に向けている。

1日経っての答えがそれなの?そうだけど、その通りだけど、そうじゃなくない?

その答えを聞いて、なぜか湯冷めしそう気分になったから1時間追加で湯に浸かり直した。

洗濯ではお風呂の残り湯を使っていて、いつもより1時間遅くに回り始めた洗濯機に「夜遅くまでお前も大変だな」とまさくんは声をかけていた。


もうすぐ、テストがあるため時計の針が12を超えてからも勉強をしていた。意外とマメに復習して、黒板にかかれた板書もしっかりノートに取っている。それでも、なかなか成績は伸びない。伸びしろはあると自分に言い聞かせて頑張ってきている。

夜の世界は静かで近くを流れる川の音と時を刻む時計の針の音だけだった。こういうのもたまにはいいなと、その雰囲気に浸っていると階段を登ってくる足音が聞こえた。ゆっくりで1段1段踏みしめている。この音はまさくんだろう。

トントンと私の部屋の戸をノックして、まさくんは部屋に入ってきた。

「勉強大変だね。お茶入れてきたから飲んでよ。」

「ありがとう」

だんだんと瞼が重くなってきてたので、ありがたい助っ人だ。部屋の中心にある円形のピンク色した机に、持ってきている金色の装飾をされたティーカップを置き、花柄のティーポットから注いでいる。

「へえ!そんな、綺麗な食器があったんだ。しらなかった。」

「棚の奥の方で眠ってたんだよ。中身は普通のお茶なんだけどね。」

オシャレなティーカップには見慣れた色のお茶が注がれていて、その和と洋のアンバランスが少し可笑しかった。

「なに勉強してるところなの?」

私は広げている教科書を、そのまま、まさくんに見せた。

「うわぁ!数学か......。僕は苦手だったな。微分や積分とか習わない高校に通ってたから、てんでダメだな。」

「そんな、ところがあるんだ。私はところは1年の終わりにするらしくって、そこで点を落としてしまう人がいるみたい。部活の先輩も落としたみたい。」

「偉い学校に通っているんだね。」

まさくんは理数系が苦手で、一番得意なのは英語なんだよと話した。英語は単語の意味さえわかれば、後はポンポンと入れ替えたりして和訳すれば簡単なんだよと生き生きした目で言ってたけど、私にはちっとも理解出来ない。

気付かないうちに勉強で張り詰めていた気がやんわりと軽くなり、一息つくことが出来た。


「じゃあ、あんまり邪魔するのも悪いからこれでおさらばするね。」

時計は1時を過ぎていた。

「まだ、テスト本番じゃないから、早めに寝てもバチは当たらないと思うよ。......あ、そうだ。渡すものがあったんだ。」

まさくんはドアノブに伸ばした手をスボンの後ろのポケットにいれ、中から紙を取り出し、私に差し出している。

「今日、掃除する時に見つけたんだけど、捨ててもいいのか分からなくて......」

「うん?なんだろう、私の?」

受け取ってみると手紙が2通ある。その両方に身をぼえがあった。

「え、これってどこにあったの!?」

「リビングだよ。」

まさか、そんな所に落としてたの?ひとつはゴミ箱に捨てたはずなのに。

1通は薄桃色の手紙で、もう1通はノートの切れ端。薄桃色の手紙は私が書いた渡せなかったラブレターで、ノートの切れ端は貰ったラブレターだ。

「誰の物か分からなくて、ピンクの方はちょっと読んじゃった。」

「え!うそ!読んじゃったの!?」

「ごめんね。まさか、あんな内容だとは思わなくて......」

「もういいから!それ以上は!」

2通ともくしゃっと手で潰してゴミ箱に投げすてた。

「分かったよ。じゃあ、降りてくるね。」

まさくんはそそくさと去り、部屋の中で1人「まさか、そんな。」と頭がいっぱいになっていた。手紙の内容はしっかりと覚えている。そのくらいの期間しかあれから空いていないのに。

忘れて勉強し直そうと思いペンを持つけど、どうしよう勉強が手につかない。

どうやら、まさくんの早めに寝たらいいよっていう作戦に引っかかってしまったようだ。これ以上続けても時間が勿体ないだけだから、仕方なく部屋の明かりを消してベッドに横になってみる。だけど、捨てた手紙のことが頭から離れない。

だめだねれない。気づくと時計の針は3時を超えていた。まさくん、勉強をやめさせて休ませるのはうまくいったみたいだよ。でも、残念だけど睡眠はとれないみたいだよ!!

まさくんの馬鹿!!仕返しに明日は冷たい反応してやるんだからと眠れない布団の中で思った。

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