わたしらしい数字
それをする時は大抵決まり切っていて、ちょっとセンチメンタルになった時や、下校中の夕暮れだとか、隙間風みたいな気軽さで入り込んでくる。
そうしてふと浮かぶ、一つの考え事。
――「わたしらしい数字」って、何だろう?
たとえば、生年月日とか。
たとえば、生きてきた歳月とか。
たとえば、好きな数とか。ちなみに2。
挙げるとキリがないけど、ともかくそんな、わたしについての色んな数字。
どれがわたしの個性で、どれが持ち味なのかなと、そんなとめどない、けれど中々踏ん切りが付かないことを考えてたりする。
でも今日は、帰り道のひぐらしがうるさいから、また今度にしよう――かな。
ちょっと肌寒くなってきた。
羽織ったカーディガンの袖を目いっぱい伸ばしてみると、あったかい。
そういえばこの服の、このサイズを着てるわたしにも、身長って数字があるのか、とか思った。
足の大きさも、思春期なら気になるウェストも、立派なわたしの一部だ。
あと、一部って言葉も、一つだ。
――わたしの全部って、何だろう。
あ、胸囲で人の価値は決まらないと思うので除外してます、はい。
手にはこないだの模試の判定結果。
これで一喜一憂しちゃいけないとは言われてるけれど、それでも芳しくない数字を突き付けられたら、やっぱり凹むのが人道ってもの。多分そんなもの。
国語だけは、いっつも図抜けて良かったりする。他は目を背けたいけど、偏差値っていうこれまた「数字」が、首根っこから掴んでくる。
わたしらしい数字――これが最も、らしいといえばらしい、のかな?
「ねえねえ、模試どうだったー? あたし日本史学年十八位だったよ!見て見て!」
ボーッとしてたら、横合いから声がした。
眼前には、幼馴染のゆなちゃん。恥ずかしげもなく歪な偏差値グラフを広げて、ふふんと鼻を鳴らしていた。
「ねえ、ゆなちゃん……」
「ん、なになにどしたの?」
「……今度英語、一緒に勉強しよっか」
「…………うん」
やっぱ訂正したい。
偏差値で人って決まらないと思う⋯⋯思いたい。
だってそこで人を見ちゃうと、わたしはゆなちゃんをそういう人として見てるってことになっちゃうし。
何がわたしらしいんだろうって、また考えてみる。
でも考えても行き詰まるし、息も詰まるし、というか息が白くなってくるくらいに寒いから、足早に家に帰った。
まずはお風呂でぬくもって、ご飯も食べて、お母さんと他愛ない話をしてから、勉強机に向かってテキスト片手に唸る。
年甲斐もなく、過不足のない生活をさせてもらえてるんだなって小生意気なことを思ってから、布団に潜った。
潜ってしばらくしてから、お父さんが帰ってくる音が聞こえた。
起き抜けに、LINEを開いて通知を見てみる。
のべ八十二件のメッセージが一晩で溜まったのを、スマートフォンのディスプレイが教えてくれた。
久々に、メールフォルダも開いてみた。
未読の迷惑メールが百三十四件あった。
いっぱい、暇さえあれば考えてる。
生涯であれを何回したとか、これを何回したとか、そういうまどろっこしいことは抜きにしてるけど――それでももしかしたら、そこまで考え尽くす日も来るのかもしれない。
どれがわたしの指標になってて、どれがわたしらしいのか。
それは考えてみても、あるいは人様のおかげだったり、目を背けたくなったりする現実だったりして。
だからといって好きな数字を挙げてみても、そんなのユーモアに欠けた自己紹介程度にしかならないことは、やっぱりひしひしと感じていて。
どうにも、答えは出ないまま、こうして今日もとぼとぼと歩くわたしがいる。
けど、最近はちょっと足が軽い。連日の寒空を乗り越えたからかもしれない。
――そういえば、春を迎えるのはこれで十九回目になります。
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