第23話 初依頼


 場所は変わり、クロケットから南西に1キロほど離れた森。

 そこは人々の楽しげな声で満ちた街中とは打って変わり、鳥のさえずりだけが木霊する静かな空間。喧騒から離れて癒しを求めるには、最適な場所と言えるだろう。


「―――ぎぃぃいいいいぁあああぁぁぁぁあああああああああッ!!」


 だが、そんな静けさをぶち壊す者が一人。

 涙で顔をくしゃくしゃにしながらも、それを気にする余裕などないというように少女は全力疾走する。

 美しい金髪を振り乱し、絶叫を上げて走るのは風を操る魔術師―――フェリスだ。


「ちょッ!? これ洒落にならない! 死ぬ! ホントに死ぬ!!」


 ちらっと肩越しに後ろを見るが、直ぐに後悔する。

 視線の先にいたのは、ヴヴヴヴヴ! と耳障りは羽音を響かせる昆虫。2対4枚の羽根に、特徴的な黄色と黒の体色を持つそれは、虫の中でも特に忌避されているであろう蜂だ。

 だが、当然ただの蜂ではない。ギルドでは初心者向けのF級として認定される魔獣、キラーホーネットだ。

 その全長は、一般的なオオスズメバチの凡そ10倍。腹端にある針もそれに見合った大きさであり、これで身体を刺されようものなら、易々と風穴が開く事になる。


「おいおい、逃げてんじゃねぇよ。これじゃ特訓にならねぇだろが」


 そんな魔獣に追われ、戦々恐々とするフェリスとは真逆に、同行したカイトは落ち着いていた。


「ひ、他人事だと思ってぇぇええええぇぇぇええええッ!」

「他人事ですが何か?」


 時折彼の方にもキラーホーネットは向かっているが、それらは適当にあしらわれている。

 微塵も脅威とは感じていないらしく、呑気にお茶まで飲む始末だ。


「ほれ、足掻けー。足掻いてみろフェリス。お前ならやれるはずだフェリス」

「物凄い棒読みで言われても腹立つだけなんですけど!?」

「んじゃ、You can do it」

「それはそれで腹立つ! 無駄な発音の良さに腹立つ! あとそれの答えは I can`t do it!!」


 無理!! と叫びながら、必死になって毒針の恐怖から逃れようとするフェリス。

 だが、そんな事で相手が待ってくれるはずもなく、尚もキラーホーネットは追ってくる。


「何でこんな事にぃぃいいいいぃいいいいいいッ!?」


 その問いに対しての答えを知るには、1時間ほど時間を遡る。






「それでは、こちらがギルドカードになります」


 そう告げて、ギルドの女性職員が掌サイズの小さなカードを手渡す。


「再発行は出来ますが、その際は手数料が掛かりますので、なくさないようにお気を付けください」

「はい、ありがとうございます」


 渡されたカードを受け取ったフェリスの顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

 此処は冒険者ギルド。先程までいたカビと酒の匂いが鼻を突く傭兵ギルドとは違って清潔に保たれており、冒険者が花形職業であると改めて理解させられる。

 そんな中で異質な、全身黒尽くめという不審者同然の格好をしたカイトの下に、フェリスは駆け寄る。


「カイトさん、無事にギルド登録完了しましたよ! ほら、私のギルドカード!」

「ンな近付けなくっても見えてるっての。ってか割とマジで近い。食い込んでる、顔に食い込んでる」


 よほど興奮しているのか、カイトですら引くレベルで、フェリスはグイグイと顔にカードを押し付けてくる。

 角の部分が突き刺さり、若干血が出ているが、今の彼女には見えていないようだ。


「いや~、ギルドカードなんて今までお客さんのを何枚も見てきましたけど、自分が持つとなると何だか感慨深いですね~」

「トリップしてるトコ悪りぃけど、さっさと依頼見にいけよ。早くしねぇと初心者に手頃な依頼がなくなるぞ」

「は~い。ちなみに、お手頃じゃない依頼だとどんなのがあるんですか?」

傭兵ギルドウチと冒険者ギルドじゃ依頼の種類が違うから一概には言えないけど……やっぱり低ランクの中でも、厄介な魔獣の討伐依頼とかだろ。トロールとかミノタウロスとか」

「見事にガチなパワー系魔獣ばっかり……」


 直接熱や冷気などのダメージを与える火属性や水属性とは違い、風属性の威力は弱い。故に、カイトが言ったようなパワー系統の魔獣には中々有効打が与えられず、彼女にとっては鬼門なのだ。

 だが、冒険者として活動するからには、今後はそうも言っていられない。

 基本的にギルドの依頼は、各自が掲示板に貼られた依頼書から自由に受けたい仕事を探し、受付に申告する事で受注される。だが、時に並みの冒険者の手には負えないような高難度の依頼が出れば、その依頼に見合った人間を招集して任に就く事になる。大抵そういったものは高ランクの人間が選ばれる為、登録したばかりのフェリスには当分縁のない話だが、先を見据えるなら苦手も克服しなければならないだろう。


「う~ん、初心者向けの依頼は残ってるみたいですけど……どれがいいかなぁ」


 幸いな事に、この辺りに凶悪な魔獣は出ないのか、掲示板に貼られている依頼はどれも簡単なものだ。

 もっとも、数が多いのも考え物。り取り見取りともいえる状態で目移りしてしまい、どれを選べばいいのか分からないようだ。


「軽めのにしとけよ。今日は依頼を受けてからの大まかな流れを知れりゃいいんだから。それが終わったら、宿探しもしないといけねぇし」

「分かってますよ。でも、記念すべき初仕事だから、何か思い出に残るような相手がいいんですよね~」

「あぁ~。何となく分かるわ、その気持ち。俺も初めて依頼受けた時はそうだった」

「カイトさんの初めての依頼って、どんなのだったんですか?」

「………………(ガタガタガタガタ!)」

「無言で震え出した!?」


 どうやら、この話題は彼にとって禁句らしい。何事にも軽口で返すカイトの珍しい、というか尋常ではない反応に、流石のフェリスもこれ以上問うのは止めた。

 そして、改めて掲示板に向き合って依頼探しへと戻る。だが、やはり依頼数の多さから中々決められない。

 う~ん……、と尚も首を捻っていると、唐突に横から声を掛けられた。


「ねぇ。君って魔術師だろ?」

「え?」


 声のした方を見ると、そこに居たのは如何にも冒険者然とした格好をした3人の男達。

 一人は動き易さを重視しているらしく、胸当や手甲などの最低限の防具のみを装着した、腰に剣を差した爽やかな笑顔を浮かべる男。

 その後ろには、弓矢を手にした少し太めな小男と、両手大剣グレートソードを背負う筋骨隆々の大男が控えている。


「そう、ですけど……」

「丁度良かった。俺はアラン。実はウチのパーティの魔術師が風邪で休んでるんだ。良かったら俺達と一緒に来てくれないかな」


 見たところ、弓矢の男後方担当はいるようだが、全体的に攻撃よりのパーティに思える。

 このパーティの実力を知らないので確かな事は言えないが、後方担当はもう一人くらい欲しいかもしれない。主に回復要員として。

 一応フェリスも回復魔術は修めているし、何も初の依頼を一人でこなす必要はないと、その誘いを承諾しようとする。


「わ、分かりました。私で良かったら―――」

「悪りぃな、もう先約があるんだ。誘うんなら、また別の機会にしてくれ」


 だが、それは今まで成り行きを見守っていたカイトによって阻まれた。

 今まで黙していた、見るからに怪しげな彼の介入に、アランは眉をひそめる。


「な、何だよアンタ」

「ただの薄汚い傭兵さ」

「傭兵? 何で傭兵がこんな所にいるんだ?」

「別に。訳あって、コイツのお守を任されてるだけさ」

「お守ねぇ……。その格好といい、何か怪しいね。何か碌でもない事考えてるじゃないの?」


 全身黒尽くめな上、顔を隠す為に目深に被ったフードに、その奥に輝く紅い眼光。

 確かに、以前から思っていたが、カイトの格好は教科書に載せてもいいレベルの不審者ぶりだ。国の追跡を逃れる為とはいえ、もう少し何とかした方がいいかもしれない。

 そして明らかに怪しげなこの人間の下に置いておく訳にはいかないと判断したのか、アランはフェリスの腕を取って、そのまま連れて行こうとし、


「ほら君、こんな怪しい奴なんかとじゃなくて、俺達と一緒に―――」

「怪しい奴で悪かったな」


 寸前、カイトの手がアランの腕を掴んだ。

 突然の事に驚き、彼は腕を引こうとするが、全くびくともしない。それなりに鍛えているにも拘らずだ。

 そんな彼の心情を察したのか、カイトは更に腕の力を強めながら告げる。


「見た目怪しくても、これでもA級なんでね。お守はしっかり務めるさ」

「え、A級……!?」

「マジかよ……」

「流石に今はヤバいか」


 カイトの階級を知った途端、アランは目に見えて狼狽える。否、彼だけではない。

 彼の後ろにいた2人も動揺し、ボソボソと小声で話している。

 彼等の奇妙な反応にフェリスは頭に疑問符を浮かべるが、カイトはと悟った。


「わ、分かったよ。魔術師は別の所で探すと―――」

「見え透いた嘘はもういいっての」


 この場に留まるのはマズいとでも思ったのか、直ぐに此処から離れようとするアラン。

 だが、寸前でカイトは彼の襟元を掴み、ぐいっと自分の下に引き寄せる。


「……いくら洗ったところで、血の匂いは消えねぇぞ?」

「ッ……! く、くそ……」


 耳元で囁かれたその言葉に、アランは明らかに顔色を悪くする。

 そして反論する事もなく、ただ捨て台詞だけを吐き、仲間と共にそそくさと立ち去った。


「花形職業の中にも、ああいう連中はいるんだな」

「あ、あの、血の匂いって……それ、本当なんですか?」

「多分な。良くも悪くも嗅ぎ慣れてるし、間違いねぇよ。それに、アイツ等の目は人間も獲物としか見ちゃいないものだった。大方、新人ルーキー狩りとかだったんだろ。ま、信じるか信じないかはお前次第だけど」


 100%信じられる訳ではないが、カイトは傭兵として、罪人として多くの命を奪っている。彼の『嗅ぎ慣れている』という言葉は真実だろう。

 そして彼は、自分にメリットがない事は基本的にしない。この場合、彼が自分に対して嘘を吐いても得られるものは何もない。であれば、彼が嘘を吐いているとは考え難い。

 だが、そうなると、フェリスにはこの件を誰かに報告した方がいいのではと思えてきた。


「でも、それなら職員の人に言った方がいいんじゃ……」

「ほーう。ちなみに聞くけど、何て言うつもりだ?」

「えっと……血の匂いがしたから、取り調べた方がいいですよ?」

「却下。ンなの信じる馬鹿がいるかっつうの」


 確かに、自分で言っておいて何だが、そんな言葉だけで誰が信じるだろうか。

 犯罪を見過ごすようで嫌な気分になるが、証拠はないので今回は引き下がるしかなかった。


「それより、いい加減決めろよ。ほら、ハリーハリーハリー」

「え、ちょ……! もう急かさないでくださいよ」


 そして、無駄に消費してしまった時間を取り戻すかのように、掲示板の前に戻ったカイトはフェリスを急かす。

 だが、アラン達に絡まれていた張本人である彼女が、当然依頼を決めているはずもなかった。


「ったく……もう待ってられるか。俺が勝手に決めちまうぞ」

「いいですけど、あんまりトンでもないの選ばないでくださいね。お手頃な報酬で簡単なのをお願いしますよ」

「分かってるっての。お、これなんていいじゃねぇか」

「え! もう見つけたんですか」


 流石に、自分よりも長く仕事をこなしてきただけはある。こういった判断は早い。

 自分も見習わなくてはと思いながら、フェリスは彼が持つ依頼書に視線を向け、


 階級:B

 依頼内容:魔獣ヴェノスネーカーの討伐

 報酬:50万G

 備考:依頼中に負った傷や損害について、当方は一切責任を負いません。


「人の話聞いてました!?」


 直ぐ様彼の手から依頼書を剥ぎ取り、元あった場所に貼り直した。


「何だよ? ちゃんと手頃で簡単なの選んだじゃん」

「カイトさんを基準に考えないでくれませんか!? 私、まだ登録したばっかりのF級! これB級! ランク違いにも程があります!」

「馬鹿野郎! やる前から諦めるな! どうしてそこでヘタレるんだ! もっと熱くなれよ! 男だろ!」

「女です!」


 ちなみにヴェノスネーカーとは、全長が優に50メートルを超す巨大な毒蛇だ。有する毒が猛毒なのは勿論の事、その巨体を活かした締め付け攻撃は、城であろうと易々と破壊してしまう。

 ホワイトウルフを相手取った経験こそあるが、それでもいきなりそんな魔獣の相手をする気にはなれない。この時、『自分のランクと同ランクの依頼しか受注出来ない』という規則がある事に、フェリスは心底感謝した。


「まぁ、冗談はこの辺にして。本命はこっちだ」

「あ、ちゃんと見付けてはいたんですね」


 改めて目の前に提示された紙を見ると、今度はちゃんとF級の依頼だった。


 階級:F

 依頼内容:魔獣キラーホーネットの討伐、及び巣の破壊

 報酬:1万G

 備考:現在確認されている巣の数は10個


「これなら大丈夫そうですね」

「F級だからって甘く見るなよ。低ランクでも魔獣は魔獣。下手したら死ぬぞ」


 魔獣討伐は何が起こるか分からない。以前カイト自身が言ったように、その環境に適応しようとして生態が変わる事も有り得るからだ。

 それに、と彼は何かを企むような笑みを浮かべる。


「言っておくけど、俺はただ依頼こなすだけで終わらせるつもりはねぇ。依頼中は俺が出した課題もクリアしてもらうぞ」

「課題、ですか?」

「誘拐同然で連れてきちまったからな、俺には村に戻るまでお前の身の安全を確保する義務がある。けど、俺はずっとお前と一緒にいられる訳じゃねぇ。なら、お前を無事に生きて家に帰す為にはどうしたらいいと思う?」


 いくら顔がバレていないとは言え、いつまでも此処に留まる訳にはいかない。カイト自身もこれからの路銀を稼がなければならない為、精々此処に留まれるのは一週間程度だろう。

 言葉にすれば長く感じるが、実際過ぎるのはあっという間。そんな短い期間で彼に出来る事といえば、


「答えは簡単。生半可な魔獣じゃ相手にならないレベルに、お前を鍛えればいいんだ」

「そうきますか!?」


 いや、確かに戦闘職の彼が出来るのはそれくらいだろうが、それでも脳筋的な考えではないだろうか。

 僅かに顔を曇らせるフェリスに対し、彼はポンと優しく肩を叩き、


「安心しろ。一週間で、お前を新米から大賢者レベルの冒険者にランクアップさせてやる」

「それ何段飛びしてるんですか!? せめてノーマルにしません!? 1ランクアップで十分です!」

「この俺がそれを認めるとでも?」

「Oh……!」


 唯我独尊を地で行くこの男が、他者の意見を聞くはずもなかった。

 この瞬間、フェリスの地獄は決まったと言ってもいい。


「そんな重く考えるなよ。課題って言ってもそんなキツくはしねぇよ」

「あ、あはは。そうですよね。いくらカイトさんでも、そんな無茶ぶりはしませんよね」

「おうよ。精々ベリーイージーのクソゲーが、ノーマルになったくらいだよ」






 そして現在。


「カイトさんの大噓つきぃぃいいいぃいいいいいいいッ!!」


 場面は、再びフェリスの全力疾走に戻る。

 最初から彼の行動はトンでもなかった。依頼書にあった目的地に着き、巣を見つけたかと思えば、『プレイボール!』と叫びながら手近にあった石を投擲。弾丸と見紛う速度で放たれたそれは、人間の身長ほどはある巣を直撃し、ズズン……! と地響きと共に巣は地面に落下した。当然そんな事をされれば、中の蜂が黙っているはずもない。

 巣から飛び出したキラーホーネットは、瞬く間に2人の方に襲い掛かってきた。だが、ここでフェリスにとって予想外だった事が一つ。それは、いつの間に彼女の腰に、蜂蜜を入れた瓶をカイトが括りつけていた事だ。

 突然の事態に混乱して絶叫を上げた事と、その蜂蜜の所為で、キラーホーネットは一斉にフェリスに群がる事となった。しかも、その間にもカイトは更に石を投げ、他の巣も刺激してキラーホーネット達を表に引き摺り出し、そして現在に至る訳だ。


「何言ってんだ、こんなのノーマルだろ。ベリーベリーベリーノーマルだろ」

「何処が!? ハード以外の何ものでもないんですけど!?」

「ハハッ、懐かしいなぁ。俺もクソ師匠に無理難題押し付けられた時、同じ事言ったっけ」

「その師匠から、『自分がやられて嫌な事を人にしてはいけません』って教わらなかったんですか!?」


 呑気に茶々を入れるカイトに怒声を上げるフェリスだが、それで戦況が変わるはずもない。

 口ではなく手を動かすべきだと判断し、彼女は迫り来る群れに掌を向ける。


「―――《風矢ウィンド・アロー》!」


 直後に風が渦巻いて一本の矢を形成し、高速で放たれたそれはキラーホーネットを穿つ。

 だが、所詮形状は矢なので、倒せたのは一匹。まだ大量の敵が追ってきている。

 そこに、状況を見ていたカイトの叱責が飛ぶ。


「大軍に点で攻撃しても意味ねぇだろうが。槍で弾丸の雨を撃ち落とすなんて曲芸でもするつもりか?」

「くッ……!」 


 確かに彼の言う通り、咄嗟の事だったとはいえ、こんなものは焼け石に水。それどころか、更に相手を刺激してしまい、もっと多くのキラーホーネットが集まる事となった。

 ここまでくれば、《暴嵐の隼テンペスト・ファルコン》などの広域殲滅型の魔術で仕留めればいいかもしれないが、今回それは出来ない。


「か、課題が無茶苦茶過ぎますよ! 『汎用魔術だけでコイツ等を倒せ』だなんて!」


 それが今回カイトから出された課題だ。

 ホワイトウルフ戦のように極力使用控えるのではなく、完全なる使用禁止。

 固有魔術オリジンを編み出してからは、威力が高いそちらばかり使っていたので、これは中々キツい。常に大軍の脅威に晒されているのだから尚更だ。

 ちなみに、もしも固有魔術を使おうものなら、蜂を巣を落とした剛速球が飛んでくる。それを告げられた時、フェリスは絶対に使わないと心に誓った。


「バーカ。そういう基礎をしっかりやらねぇと、後々後悔するぞ?」


 手の中の石を弄びながらそう指摘すると、『は~い……』とフェリスは涙ながらに返事をする。

 もっとも、彼女にこのような課題を出した理由はそれだけではない。


(今のアイツに必要なのは即決力……。パターン化した動きを直すのもそうだが、どんな危機的状況でも直ぐに次の行動に移れるようにならなくちゃ意味がねぇ)


 キスク村にはゴブリンやスライム程度しか出なかったから仕方がないとはいえ、パターン化された動きというのは冒険者や傭兵にとって致命的だ。

 いつしかそれが本人の必勝パータンとなるかもしればいが、それは逆に敵にその動きを対処されたら、次の行動に移れない事を示している。

 それを回避する為に、今までとは違う相手を用意し、また冷静に思考する暇がないほどの危機的状況を作り上げた訳だが、


「さてさて、どうなるかねぇ」


 彼女なら無事にクリア出来ると信じているのか、それとも単に他人の不幸を面白がっているのか。

 どちらなのかは分からない。ただ彼は、ニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべて状況を見守る。

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