第5話 乱闘
心底下らないといった調子で呟かれた言葉。
それにより、ハッ! と2人の騎士は我に返った。同時に、自分達の仲間が頭から荷車に突っ込んでいる惨状を、改めて認識する。
いくら頭で否定しようとも、変わる事のない現実を前に、彼等は思わず絶叫を上げた。
「な……何してるんだテメェはぁあぁぁあああッ!!?」
2人は素早く腰の剣を抜き、切先をこの事態を引き起こした少年に向ける。
対するカイトは、今にも斬り掛かってきそうな勢いの騎士達を前にしながら、涼しい顔で、
「殴った」
「それは見りゃ分かる! 何でこんな事しやがったんだって聞いてんだよ!?」
「撃たれる覚悟もない馬鹿が、ようやくありつけた真面な飯を盛大に吹っ飛ばしやがったからだろうが。当然の報いだ。寧ろ、この程度で済んで有り難いと思え」
「あれぇ!? 皆の為じゃなくて、ご飯の恨み晴らしただけ!? っていうか、下手したらこれより酷い事になってたの!?」
理不尽な悪意に晒される人々を憂い、この場に居る全員の気持ちを代弁して一撃を見舞ってくれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
夕食を台無しにされたという理由だけで騎士を殴り飛ばすとは、どこまでも自分勝手な男だ。これには流石のフェリスでさえも言葉を失い、今の状況も忘れて額に手を当てる。
そんな呆然とした様子の彼女に向け、カイトはニヒルな笑みを浮かべて応えた。
「生憎、『俺の味方は俺だけ』ってのが信条でな。見ず知らずの人間の為に振るう拳は、持ち合わせちゃいないんだ」
この地を訪れたのも、魔獣に怯えて暮らす人々を助ける為ではない。仕事をこなす事で得られる、報酬の為だ。
カイトにとって、他人の事情など知った事ではない。そんな無償の善意を出したところで、自分が得られるメリットは少ないと、これまでの経験で彼は学んできた。もっとも傍から見れば、個人的な恨みだけで暴挙に走った方が、遥かにデメリットが大きいと思うのだが。
「それに、自分が生きる為に培った力を、何でタダで貸してやらないといけないんだ?」
「……人でなし」
「褒め言葉として受け取っておくよ」
人間性に多少問題があるという事は、カイト自身がよく分かっている。だが、分かっていても、直す気は毛頭ない。唯我独尊こそが自分の歩むべき道だと彼は決めている。
だが、他人からすれば、それは理不尽以外の何ものでもない。この場においては、仲間を殴り飛ばされた騎士達からすればだ。
「て、テメェ……! 飯の恨みとか、俺達を嘗めてんのか!?」
「誇り高き帝国騎士である俺達にこんな狼藉を働いて、タダで済むと思ってるのか!?」
ふざけた態度の相手に怒声を上げる2人だが、当の本人は何処吹く風。
ただ悠然と、それでいて楽しげに微笑みながら見据えるだけだ。
「帝国騎士? 狼藉? 知らねぇな。そもそも食事の場で、身分も何も関係あるかよ。例えばテメェ等、餓死寸前まで追い込まれた状況で目の前に食べ物を置かれ、それを肥え太った貴族様に横取りされてもヘコヘコしてられるのかよ?」
力を持つ者が全てを奪い、持たない者が搾取されるのが現実。だが、本来ならそんな事が起こるはずはない。
何故なら、食欲とは全ての生物が持つものだからだ。それを満たす行為、食事は皆が同じ机を囲んで行い、本来なら平等なものであるはず。その和を乱すというのなら、そちらの方が狼藉だろう。
「俺からすりゃ、テメェ等はただの迷惑な酔っ払いだ。さっさとその薄汚ねぇ豚足引っ込めろ」
「このガキ……! 言わせておけば……!」
「学のない平民風情が……! 立場というものを、その身に刻み込んでやる!」
遂に堪忍袋の緒が切れたのか、2人は
カイトの動きから見て、腰に剣を差している事は分かっていた。だが、今から剣を抜いたところで、2人の同時攻撃を防ぐ事は不可能。加えて、彼等が持つ剣の長さは約1.5mほど。軽く後ろに跳んで回避しようが、余裕でその刃は届く。
「死ねッ!」
相手を両断する為、叩き付けるように剣を振り下ろす。
あとはそこに、不様な平民の三枚おろしが出来る―――はずだった。
「ッ……!」
妙に硬い感触が、彼等の手に伝わる。それは、彼等が何度もその手で味わってきた、人肉を切った手応えとは異なっていた。
当然だろう。2人の剣は虚しく空を切り、誰もいない床を捉えただけなのだから。
「何処に……!?」
「言っただろ。俺は、見ず知らずの人間の為に振るう拳なんて持ち合わせちゃいない」
標的を見失った2人の頭上から、声が聞こえてくる。慌てて視線を上に向けると、彼等は直ぐに
天井の梁を右手一本で掴み、ぶら下がるカイトの姿を。
「だけど」
顔を上に向けていた騎士の顎を、カイトの爪先が正確に捉える。更に、蹴りの反動を利用して身を捻ると、その勢いのまま相手の首に回し蹴りを打ち込んだ。
顎は人体の急所の一つ。先端を強打されると、人間は脳震盪を引き起こす。一撃目で意識が混濁しているところに、再度加えられた蹴り。ほぼ棒立ち同然だった男は、これで完全に気を失い、あっさりと横へ吹き飛ばされた。
そして彼が飛ばされた先にいるのは、標的が姿を晦ました事に呆けていた、もう一人の騎士。よもや仲間を利用されるとは思わず、予想外の方向から襲った衝撃に、男の体勢は崩れる。
「クソが……!」
忌々しげに男は吐き捨てると、役に立たなくなった仲間を横に放り、既に着地していたカイトへと突っ込む。
屈んだ体勢、それも剣も抜いていない状態での反撃など、たかが知れていると思ったのだろうか。それで先程、仲間の一人が痛い目を見た事は忘れているらしい。
そんな甘い考えを壊すように、カイトは迫る男に足払いを掛ける。血気盛んに駆け出したところで足下を崩されたのだ。慣性に負け、前のめりに倒れるのは目に見えている。
転倒した男の顔は、今も屈んだ状態のカイトの下へと向かい、
「酔っ払いを沈める為なら、いくらでも振るうさ」
―――ゴッ!! と。掬い上げるような動きで放たれたカイトの拳が、相手の顔面を打ち据える。
まるで石でも蹴るかの如く、軽々と持ち上がる男の身体。それは放物線を描いて宙を舞い、テーブルの上へと派手に落下した。
奇しくもそこに出来上がった光景は、騎士達が村人を殴り飛ばした時と同じもの。村人は、今まで虐げてきた者が自分達のように惨めな格好を晒す姿に、胸の内が軽くなった。だが、醜態を晒している張本人である騎士は違う。
鼻を折られ、顔面を血で染めながらも、男は辛うじて意識を保っていた。そして、今直ぐこの生意気なガキを殺そうと、感情の赴くままに動く。
「この……嘗めやがっでりゃッ!?」
鬼気迫った形相で立ち上がろうとする男だが、直後に胸元を踏み付けられた。
痛みに顔を
「人を足蹴にするってのは、案外良いもんだな。飽きもせず毎日
その顔に浮かんでいるのは、憎たらしいほどの清々しい笑み。彼がこの状況を、心底楽しんでいるのが分かる。
村人達を虐げて愉悦に浸っていた、騎士達と同じように。
「て、テメェ……! こんな事、隊長の耳に届いてみろ……。テメェだけじゃなく、この村の人間全員が血祭りに上げられるぞ!」
「ふぅん、隊長ねぇ……」
脅し文句を並べる男だが、対するカイトは思案顔で相槌を打つ。相手の言葉に耳は傾けているようだが、どうやら別の事を考えているらしい。
すると彼の目に、自分の足下に転がっている騎士の剣が留まった。同時に何か思いついたのか、彼の口角が不気味に吊り上がる。
「じゃあ、報告させなければ、その隊長殿は何も仕掛けてこないよな」
「……へ?」
「だーかーらー」
間抜け面を晒す男を踏んだまま、カイトは腰を屈めて剣を拾う。全く使う機会がないからか、それには刃毀れ一つない。
そんな新品同然の剣を、彼は何とも気軽な動作で―――騎士の首に添えた。
「ここでテメェ等の首すっ飛ばせば、隊長殿に報告出来る奴は一人もいなくなるよな?」
「ッ……!? は、はぁ? 馬鹿か、テメェは。俺達を殺せば、それこそ隊長が黙ってな……」
「大丈夫大丈夫。死体は森にでも捨てとくから。丁度魔獣共も腹空かせてるみたいだし、きっと手頃なおやつ感覚で食ってもらえるさ」
あっさりと告げられた言葉と、その瞳に宿る狂気の光。それを見た騎士は直ぐに悟った。
次に自分が何か言おうものなら、彼は笑顔のまま剣を振るう。何の躊躇いも持たず、まるで蚊を叩き落とすかのように。
そんな恐怖に震える男に、更にカイトは追い打ちをかける。
「それに、報告するにしたって何て言うつもりだ? 素手のガキ一人に2人、しかも剣を抜いて挑んだにも拘わらずボコボコにされて、不様に尻尾巻いて逃げ帰ってきましたってか?」
階級的には末端とは言え、彼等は騎士だ。相応の鍛練を積んだ上で、戦場に立っている。
にも拘らず、平民一人に複数で挑み、
それだけならまだ良い。だが、仮にこの件が上司にでも知られたら、帝国の権威を汚したと国家反逆罪に問われ、首を刎ねられる可能性もある。
(あー、なるほど。だから自分の武器は使わなかったんだ)
恐らく、剣を持った相手に素手で戦い、そして勝利したという構図を作りたかったのだ。
上司云々を除いても、武器を持たない平民に負けたなど、プライドの高い彼等が他人に言えるはずがない。そうなれば必然的に、カイトが騎士達に手を出した件は闇に葬られるという寸法だ。
彼の思惑を理解すると共に、フェリスは身震いする。敗北させた上で逃げ道も奪う、徹底的に相手を追い込む彼のやり口に。
「よーし、じゃあ今直ぐお仲間連れて帰れ。ぶっ倒れてる理由は適当に誤魔化せ。酔った勢いでフェリスに告白したら、マウントポジション取られてボコられたとか言っとけ」
「なに私に罪を擦り付けてるんですか!? ボコったのは貴方でしょ!?」
もっとも、フェリス自身も手を出そうとしていた為、そういう結末も有り得た訳だが。
「く、くそ! 覚えてやがれ!」
そこからの撤退は早く、最後は彼女の怒声に追い出される形で、一人残された騎士は仲間を抱えてそそくさと逃げ出した。次第に遠ざかるその後ろ姿の、何と情けない事か。
やがて、彼の背中が完全に見えなくなると、建物全体を震わせるほどの歓声が上がる。
「すっげぇな、兄ちゃん! 騎士達をあんなコテンパンにするなんてよ!」
「不審者丸出しの癖にやるじゃねえか!」
「目は腐ってる癖に大した男だ!」
「後半悪意しか感じねぇんだけど!? 褒めてんの、貶してんの!? ってか、目が腐ってるは余計だ!」
誰もが目を輝かせ、興奮した様子でカイトに駆け寄ってくる。握手を求めてきたり、ハイタッチを交わそうとする者達に囲まれた彼の姿はまるで、存在するだけで人々に祝福される英雄のようだ。
だが、当のカイトからすれば、この状況は鬱陶しい以外の何ものでもない。別に彼等を助けた訳ではないので、筋違いの感謝をされても逆に対応に困るのだ。
それでも一応礼儀は弁えているので、眉間に皺を寄せながらも、自分に送られる賞賛の言葉に答えていく。その口から出る言葉こそ粗暴だが、ふざけもせず、喧嘩も売らずに律儀に返しているので、まだマシな方だろう。
「あーもう、いい加減離れてくれ。ちょっとそっちに用があるんだ……って、誰だ髪引っ張ってんの!? この歳でハゲんのは勘弁だぞ!?」
数分経って、ようやく人々は落ち着くを取り戻す。そして、揉みくちゃにされながらもカイトは人垣を割って前に進む。
騎士を相手取った時の余裕の表情を何処へやら。疲労困憊といった様子で、彼はフェリス達のいるカウンター席に辿り着いた。
「どんだけ元気有り余ってんるんだよ、ここの連中は。下手な魔獣相手するよりも疲れたわ」
「はははッ! まぁ、こうなるのも当然だな。無駄に偉ぶってるだけならまだ良いが、連中は腕が立つから厄介だ。文句なんか言えば、剣の錆になんのがオチ。だからいつも、泣き寝入りするしかねぇ」
「だけど、そんな騎士達はあっさりと返り討ち。それもたった一人の子供にだ。騒がない方がおかしいよ!」
「そんなもんかね……。あ、悪ぃけどもう一回ミノタウロスのステーキ頼む。さっきので派手にぶちまけられたからさ」
あいよ、と答えてハインツが厨房に消えていくのを見送るカイト。その後、未だ歓喜に沸き立つ村人達に改めて視線を向けると、呆れたように溜め息を吐いた。
根本から潰した訳ではないので、また同じような問題は起こるはずだ。加えて、今回の件は彼自身の怒りを鎮める為に行った事であり、所詮はその場凌ぎに過ぎない。それを理解しているのかいないのか、よく馬鹿騒ぎ出来るものだと感心してしまう。
やれやれと苦笑しながら、カイトは席に座る。すると、その隣にフェリスが腰を下ろした。
「貴方からしたらご飯の恨みで動いただけなんでしょうけど、その……ありがとうございました」
「は? 何が? お前の真っ白な経歴に、真っ黒な罪塗りたくった事?」
「そんな事にお礼言う訳ないでしょ! ……私が手を出す前に、あの人達を追い出してくれた事ですよ」
「あぁ、それか。別に礼なんていらねぇよ。あそこで暴れられたら店の中もメチャクチャになって、それこそ飯どころじゃなくなると思っただけだしな」
「それでも、私があの人達に手を出してたら、今までよりも酷い事になってましたから」
今回は最終的にカイトが標的となって事態は落ち着いたが、これがフェリスだったら結果は違っていた。それは、カイトが余所者であるのとは違い、彼女がこの村の人間だからだ。
前者の場合、相手を屠ろうが、自分が暴行を受けようが、その責任は全て彼一人に圧し掛かってくる。バッグにギルドが付いているとは言え、組織の体裁というのもあるので、彼の方から喧嘩を売った案件で積極的に国と事を構える訳がない。だが、後者の場合は異なる。
フェリスが動いていれば、連帯責任で家族が、更に言えば村人全員が巻き添えを食っていたかもしれない。それどころか、村人が罰を受け、彼女には何のお咎めもない状況にでもなれば、そちらの方が心苦しくなる。
「あいよ、ミノタウロスのステーキ」
「よっしゃ! いただきます!」
2人が会話をしている間に、料理は出来上がった。ステーキが前に出されると同時に、カイトはナイフとフォークを持って跳び付く。
そして、口に入れた瞬間に彼が自然と発した言葉は、
「……美味い!」
まるで溶けるかのような柔らかさを持つ肉に、野菜の旨味が溶け出したソース。
お世辞でも何でもなく、純粋に美味しい。普段は適当に有り合わせで済ませている分、彼が感じた喜びは大きかった。フードの下の仏頂面も、自然と綻んでいく。
(口ではあんな事言ってたけど、ひょっとして私達を助けてくれたんじゃ……)
ステーキに舌鼓を打ち、年相応の無邪気な笑顔を見せるカイトを眺めながら、フェリスはそんな事を思う。
何を言ってもぞんざいに返すばかりで、彼の真意は読めない。だが、その心から浮かべられたであろう笑顔を見ると、実際はとても純粋なように見える。だからこそ、何の見返りも求める事なく、理不尽に立ち向かったのではなろうだろうか。
「……おい、さっきから何見てんの? そんなに見られると穴が開きそうになるんだけど? あ、その時は逆にお前の身体に穴開けるけどな」
「分かりましたから、取り敢えず今にも目潰ししてきそうなその指を別の場所に向けてください」
「別に良いだろ、今更穴の一つや二つ。女なんて元々穴だらけなんだから」
「女の子相手に何て事言ってるんですか!?」
前言撤回。彼は純粋ではない、純黒だ。故に、周りを気にせず、自分の道を貫き続ける。
何か仕掛けたところでぶっきらぼうに、そして悪意満載の笑みでやり返すやり口。やはり彼とは仲良く出来そうにないと、改めてフェリスはそう思った。
(だけど、やられっ放しは趣味じゃないんですよねぇ……!)
これまで散々弄られてきたが、反撃の時が来たと言わんばかりに、にやり……! とフェリスは微笑む。
そして、隣に座るカイトの前に、一枚の紙片を差し出した。
「さて、一応義理は果たしましたし、これで気兼ねなく徴収出来ますね」
「……何コレ?」
「請求書です。壊したテーブル分の」
「ツケは利かないから、しっかり払っとくれよ」
「はぁ!? ちょっと待て、俺は何も壊してねぇぞ!? こんなの不当請求だろうが!」
確かに、テーブルや扉は壊れているが、カイトが壊した訳ではない。この破壊の跡は、騎士達が村人に理不尽な暴行を加えた事で出来たものだ。この請求は、彼等にするべきもの。3人を打ちのめし、追い出した側の彼は、自分には一切非がないと断言する。
だが、フェリスの猛攻は止まらない。これまでの鬱憤を晴らすかのように、笑顔で言葉を続けていく。
「どの口が言うんですかねー? 一つ目を壊したのはあの人達ですけど、二つ目のテーブルは確実に貴方がやったものですよー?」
「別に狙ってやった訳じゃねぇけど!? アイツ殴ったら、偶々あそこに飛んでったんだし!? 請求するなら勝手に吹き飛んで、勝手に壊したアイツにしてくれない!?」
「確かに、あの人がテーブルを壊したのは偶然かもしれませんけど、その偶然が起こるような状況を作り出したのは貴方な訳です。なので、貴方には払う義務があります。はい論破」
「させねぇよ!? そんな屁理屈で論破なんて絶対させねぇよ!?」
とは言ったもの、彼女の言う事も
それでも、全く手持ちがないこの状況で、素直に首を縦に振る訳にはいかなかった。
「くっ……! こうなったら狩りに出るしかないか。きっと今なら、"騎士"っていう魔獣がその辺を徘徊してるだろうし」
「それ魔獣じゃないです、人間です。っていうかそれ、狩りじゃなくてカツアゲですよね?」
「人聞き悪ぃ事言うな。俺は連中の心に巣食う欲望という名の魔獣を倒す為、欲望の根源足る金をハンティングするだけだ」
「カッコよく言ってますけど、結局それカツアゲですよね?」
当然、そんな方法は認められるはずもなかった。もっとも仮に認めたとしても、彼等が壊した分の請求だけがされ、カイトの分が減る事はないのだが。
「金がないなら、皿洗いでもして払ってもらうしかないな」
「えー……肌が荒れるから、そういうのはちょっと」
「「「乙女か!?」」」
金がないなら働いて返すのが世の道理。最後までカイトは渋っていたが、滞在中はこの宿屋で働く事で手を打つ羽目になった。
依頼に出る時だけは見逃してくれる事にはなったが、実質のタダ働き。時間外労働は主義ではない彼からすれば、堪ったものではない。
(こんな事なら放っておきゃ良かった……)
面倒事に巻き込まれたと、カイトは溜め息を吐いて項垂れる。
そんな彼の肩に、ぽん……とフェリスは優しく手を置き、
「何なら今回の報酬から差し引いても良いですよ。10割くらい払ってもらえれば十分ですし」
「10割って100%ってだろうが。一銭も俺の手元に残らねぇだろうが」
当然の如く、彼女からの有り難くない提案を一蹴するカイト。
その後、食事を終えた彼はエプロン姿で厨房に向かい、客がいなくなる夜中まで皿洗いや料理の提供する事になった。
余談だが、どういう訳かフェリスとの仲を誤解され、おしどり夫婦と冷やかされる度に蹴りやらナイフやらが飛んだのは別の話。
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