第8話 全てが終わり、始まった日
メイが村に来てから、大きく変わったことはない。ただ、村外れの森にヌシが出てきてしまったため、僕が村にいる時間が長くなった。
11才からは出来ることが増える。1人で旅に行けるのも11才からだ。とはいえ僕は8才の時点で村から離れた森に行っているわけだから、あまり関係なかったりする。
僕は旅に出ることはしないつもりである。2人もだが、村の子どもたちはみんな旅には出ない。みんなはそれぞれの親の仕事を継ごうとしている。
村はいつも活気に溢れていた。
「人の数は少ないが、いつも助け合い、懸命に生きようとしているのだ」
ユーリスおじさんが言っていた通りだ。小さな屋台の店主から野菜を買う母親。舞台で踊る村の踊り子と、それを見る村人。畑仕事を笑いながらする老夫婦。
僕は親がいなくても寂しくなかった。友達や村の人が居てくれたから。お父さんを探し終えたら、この村にはまだいない衛士になりたいくらい、この村が大切だ。
でもそんな日々も、必ず終わる。
村の中で特訓をしながら生活をしているうちに4年が経った。
特訓はやがて、剣だけでなく、簡易な魔法もするようになった。魔法の扱いは2人より劣っているように思えたがユーリスおじさんによると、やはり魔法にも適正があるようだった。
ある日、バライスおじさんから
「あの森に入ったすぐ近くの岩を取ってきてくれ」
と頼まれた。どうやら、鍛冶をするためのハンマーがもう換え時だそうで、森の岩がハンマーに最適な固さらしい。
例のヌシが現れるのは森の深くだからふもとであれば大丈夫だろうと、僕とメイ、レンと一緒に小さなツルハシを持って村を出た。
「ふもとだからアイツはいないっていうのは分かってるんだけど、やっぱり怖いなぁ......」
森に行く途中、レンはそんなことを言った。
森に入った僕たちは岩を探し始めた。岩自体はすぐに見つかったが、色などの見分けがつかない。そんなときはとりあえず全部持って帰ってこい、と言われたことを思い出し、見つけたものを丁度良い大きさにツルハシで砕いてから、大きめな麻袋に入れた。
「ねぇ、カルム。覚えているかしら?」
「えっ? 何を?」
かれこれ長い時間、岩を砕く作業をしていると、メイが急にそんなことを言ってしゃがみこんできた。
「私たちがはじめて出会ったのはこの森でしょう?」
「あぁ......。そうだね」
忘れたつもりはなかったのだが、やはり記憶はすこし薄れているようだ。
「メイ。結局、あれから思い出せたことはないんだよね?」
「えぇ、そうね。何か思い出せるかもと考えて、私を村に連れていってくれたというのに、ごめんかさいね」
「そんな、謝らないでよ。記憶は戻らなかったかもしれないけど、そのかわり、新しい思い出が出来たからね」
例えメイの記憶が戻らなくても、いままでの、そしてこれからの思い出があるのだから。僕はそれで良いと思っている。
「そう、ね。ありがとう。カルム」
そうして、くすくすと笑っていると、
「ちょっとー! なにサボってんのー!? もう袋いっぱいなんだから早く村戻ろうよー!」
と、レンの叫ぶ声が聞こえた。
「わかったー! すぐ行くよ!」
そう言いながら立ち上がる。そして、メイに手を伸ばす。
「さあ、帰ろう」
そう言いながら。
「えぇ、行きましょう」
と、メイも手を取ってくれる。
引き寄せながらメイを立たせ、一緒にレンのもとまで駆けていく。
3人で交代で袋を持ち、森の出口まで来たところ、なんとバライスおじさんや村のみんなが、なぜか森の入り口近くまで来ているのが見えた。
「あれ? なんでみんなここまで来ているんだ?」
3人で目を合わせ、袋から石をこぼさぬように出口まで走った。
森から出切る前にもう、バライスおじさんに駆け寄られた。
「お前たち......よかった、無事、だったか......」
バライスおじさんは肩で息をしていた。
「バライスおじさん! みんなここに来て何をやっているの?」
一番始めにレンが聞いた。それを聞くと、バライスおじさんだけでなく、村の人までが一斉に青ざめた。
「え......? 本当に、なにがあったの?」
レンの言葉は、僕の思っているままだった。背筋が震えるような感覚を覚えたとき、ようやくバライスおじさんが口を開いた。
「ガイコツが、現れたんだ......。動くガイコツが......」
話が全く飲み込めなかった。すると僕の口が反射的に動いた。
「おじさん、何言ってるの?」
「俺だけじゃねぇ!! ここにいるヤツみんなが見た!」
話が更にわからない。動くガイコツ?なんだそれは。それはまるで......
「昔話に出てくるような、悪者の兵士みたいね。動くガイコツなんて」
と、今度はメイが僕の思っていることを言った。
「そうだ......まさにそれだ! アイツらは剣も持っていた。 ......はっ、そうだ! ユーリスはどこだ!?」
「え? おじいちゃん?」
確かにまだ見ていない。この村みんなが信用している人が。と、その時......。
「そうだ......アレは......ザイリィーン帝国のモンだ......」
と、声がした......。
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