第7話 過去の歴史 過ぎ去る日々

 昔、この大陸、ガリルン大陸は1つの国であった。その国は10の神の加護によって成り立っていたという。

 10の神はそれぞれ火、水、土、風、熱、氷、毒、雷、光、闇を司っている。中でも光と闇の神は強大な力を持つ神であった。


 人々と神は互いに信じていた。


 しかし、国内での内戦が絶えず続いていた頃、とうとう闇の神が人の愚かさや醜さに気付き、一思いに消し去ろうと滅びの暗雲を国の端から放った。

 その暗雲が国の半分を覆う時に、光の神が闇の神が成そうとしていることに気が付き、即座に聖なる風を吹かせた。

そうして国の半分を覆った雲は空からの光を完全に遮り、闇に包まれた。

 光の神と闇の神以外の神たちは国の各所に点在し、国の片側に4、もう片側に4いた。その神たちは、闇の神を止めるために光の神が力を使った為に始まった戦争に巻き込まれる。


 最初は神のみで始まった戦争も時が経つにつれ人をも巻き込むようになった。闇に覆われた国の住人が「あかりをよこせ」と言い侵攻し、それを防衛するように光の国の住人が立ち上がったことで神との戦いに加わった。

 神たちはやがて人々とともに戦った方が利害の一致がするのではないかと考え始め、10の神はそれぞれ自分の主になり得る「器」を持つ者を探し出し、その者の武器に宿り力を与えた。

 光の神は高貴な血を、闇の神は傲慢な力を持つ者に力を預けた。

高貴な血は変わらない。しかし、傲慢な力を持つ者は代わり行くものであり今の主より力がある者が現れれば主を代えるということもあった。100年ほど前からはその主の一族が固定されたという話もあるが……。


 そうして今の、光の神の力を持つ者が支配する国をホーディール王国、闇の神の力を持つ者が支配する国をザイリーン帝国に別れた。

 現在はただ睨み合っている状態であるが、またいつザイリーン帝国がホーディール王国に攻め入るか分からない。

 その逆も可能性としてない訳ではない。


 2つの国が和解する兆しはなく、もしもまた昔のように1つの国となるのであれば、それは片方がもう片方を制圧した時だと、私は考える。



 僕がその「著者:村の人」の歴史書を読んだのは3年ほど前。

 今よりさらに幼いとはいえ、読んだ時に思ったことは「闇側」が悪いんだという単純な事だけだった。人々を酷いように扱い、自分だけ上から見下ろす様な王。さらにその王は強大な闇の神の力を持っていて誰も逆らえないという。

 対して僕のいる「光側」は被害者と言っていいものだと思っている。防衛のために力を使うのは仕方の無いことだろう。


 でも、メイは違うのかもしれない。もっと多くのことを思い、多くのことを考えたのかもしれない。


 ガチャ、と家のドアが開いたことに気づき、僕はおかえりと声をかけた。が、書物庫から帰ってきたメイは、なぜかぼーっとしていた。

「どうしたの?」

 僕がもう1度声をかけ、ようやくハッと我に帰ったようだ。

「いいえ、なんでもないわ」

「そ、そう? ならいいんだけど......」

 本当に平気だろうか? そう思っていると、

「それより、ユーリスさんはいるかしら?」

 と聞かれた。

「ユーリスおじさんならさっき、夕飯の買い足しに行ったよ。レンが代わりに火加減を見てる」

 料理などに使う火の魔法の力が込められた、火炎石の扱いは難しい。ユーリスおじさんは簡単に操ってみせるが僕にはできない。でもレンは普通に使っている。魔力の関係かな。

 それはいいとして、なぜメイはユーリスおじさんを探しているのだろう?

「何かユーリスおじさんに用があるの?」


「いえ、大したことではないから別にいいわ」

 僕が聞いて、少し黙ったあとにこう答えた。

「そう? ならいいんだけど……」

 メイは何を聞こうとしていたのだろう?



 その次の日からメイは家事を手伝うようになった。彼女の働き方は大雑把にやっているように見えてとても正確で、素早いものだった。そのため僕やレンが手伝おうか、と声をかけても、いいわ、すぐに終わるから、と言われすることがなくなってしまった。


 そしてそれとは別に、森には行かなくなった。というか、行けなくなってしまった。理由は森の中にヌシが出てきたからだ。

 メイとレンに僕がいつもいる森を見せるため、中に入ったときに見てしまったのだ。大きな身体で木をなぎ倒すイノシシのようなものを。

 そのときはメイの冷静な判断で森から抜け出した。以来、村の人たちは近づけずにいる。


 特訓場所がなくなった僕を気にして、ユーリスおじさんが稽古をつけてくれることになった。

 僕だけでなく、それまで理由もなく中途半端におじさんの剣術、ライズ流を教えられていたレンや自分から教えてほしいと申し出たメイも加わり、3人で稽古をつけてもらうことになった。


 2人の剣技は、流派の基礎だけ教えてもらい後は自分で素振りをしていた僕より確実なものになっている。僕はどう違うのか教えてもらったが、約2年その型での素振りのせいで直すことは難しい。

 しかしユーリスおじさんは「お前はそのままの型でいい」と言ってくれた。「無理に直すより自己流を貫け」と......。

 その言葉を信じ、今までの通りに剣を振り続けていた。


「なぜカルムは剣の特訓をしているの?」

 3人での稽古が終わった後、メイにそう聞かれた。僕が剣を振り続ける理由。それは......。

「お父さんを、探すためだよ」

「カルムのお父さん?」

「そう。話せば少し長くなるんだけど......」

その理由を知っている人はおじさんとレンくらいだ。話すと本当に長くなってしまうため、断片的に話した。


 僕は顔を隠した人に連れられてこの村に来たらしい。その人はユーリスおじさんに僕を預ける時にこう言ったらしい。

「この子はこれからかの地にて戦い、この国を救う伝説の戦士様の息子だ。くれぐれも殺すな」

 渡された僕をここまで育ててくれた、ユーリスおじさんには本当に感謝している。

 僕はお父さんは伝説の戦士、らしい。その意味は、誰しもが認めて呼んでいる戦士なのか、少しの人が呼んでいるだけの戦士なのかは分からないが、そんなお父さんに会いたい。今はその一心で剣を振り続けている。


 メイはその理由で納得したらしい。その話はそれ以降しなかった。

 僕らは「その時」が来る4年間は、平穏に暮らせた。

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