第5話 村の友達

 メイスィアを幽霊だと思い込み怖がり騒ぐレンフォードを家に押し込み、机を囲むように置かれる椅子に座らせる。長方形の机の長い二辺に2つずつある椅子は、いつも1つ余る。客はほとんどこないし、僕、レンフォード、ユーリスおじさんは定位置に座るしで、本当に使われていない椅子にメイスィアを座らせた。そして僕ら2人は定位置、メイスィアの左隣に僕、その正面にレンフォードが座る。  


 いつもは僕の右ななめ前、レンフォードの左にユーリスおじさんが座るが、今日はまだ家に帰っていなかった。この時間であれば、村全体の畑で仕事をしているだろうか。


「そ、それで?その子は誰なの?というか何なの?」

 席に座り、落ち着いたかと思われたレンフォード、通称レンが不意に、更に震え声で聞いてきた。

「何なのって……。だからメイは人だってば」

 レンが初対面の人にこんな怯えた様子であるのは始めてだ。それとは別にレンは幽霊などの「そういう系」が苦手である。もしかして、メイスィアが放つ神秘的オーラがレンに心霊系の存在だと思い込ませている…?


 などと変な考察をしていると、メイスィアが口を開いた。

「確かに子供なら目の前に変な姿の人がいれば、怯えるわよね。……子供ならね」

「なっ……」

 ……割と小馬鹿にした感じで。

 するとすかさずレンが反論した。


「別に怯えてなんかないわよ!ただちょっと、髪の色が見たことない色だったから気になっただけよ!しかもあんただって子どもでしょ!?」

 身を乗り出しドンッ!と机を叩いてそう言った。

 レンは負けず嫌いなところがあり、子供と言われたからか、まさかの髪の色についての反論だった。


 髪の色……。

 意識して見たのはその時が始めてだった。第一印象として綺麗だ、と感じたのはやはりこの辺りではみない(村の外ではどうかわからないが)白髪だったのだ。


 逆に、白髪以外ならば見かける髪の色は多い。髪の色は、特に父親の色に依存する事が多いそうだ。


レンのお父さんは赤色で、レンのお父さんのお父さんというのがユーリスおじさんであるから、ユーリスおじさんの髪色も赤である。


 となるとおそらく僕の父親の髪色は僕と同じクリーム色であるはずだ。


 逆に目の色は母親に依存する。であれば僕の母親は青い目だということだ。


 父親にも母親にも会ったことがない。しかし、いつか会えるだろうか……。



 色んなことを考えながら、メイスィアの方を向いてみた。視線に気付き、少し顔をこちらに向けた。その時に見えた目の色は、僕と同じ、青い目だった。


「あ……」


 今まで何度か見ているから、違和感こそ感じなかったが、不思議と声が出てしまった。


 目の色が、同じ?


 なぜか一瞬、きょうだいかもしれないと思ったが、すぐに考えを改める。本当にきょうだいなのであれば髪の色だって同じはずだ。僕とメイスィアの髪の色は違う。目の色は偶然同じだっただけだろう…。


「ねぇカルム!あんたもそう思うでしょ!?」

 また妙なことを考えていたら、レンが急に話し出した。

「えっ、え?髪の色?確かにこの村には白い髪の人はいない…かな?」

 僕に同意を求めてきたレン。

「いやそっちじゃないわよ!この子も子どもでしょって事よ!」


 子どもと言われたことが余程悔しかったようで、しかし僕らはまだ10才の子ども、レンを子どもだと言ったメイスィアもまた、僕らと同じ子どもであるはず……。


「あなたを怒らせてしまったのなら謝るわ、レン。ごめんなさい」

 素直にメイスィアが謝った。いやまあ何も間違った事を言った訳では無いが怒らせたことを謝っている。レンも、

「ふ、ふん。謝るんなら、もういいわよ。それより!あんた今あたしのこと『レン』って呼んだわよね?あたしまだ、その、自己紹介とかしてないじゃない。なんで、分かったのよ?」

 喧嘩腰ではなくなった。

「カルムが何回もそう呼んでいたからよ。もしかして、私からこう呼ばれるのは嫌だったかしら?」

「べ、別に嫌じゃないわよ。ただ、あんたの名前、まだ知らないから、教えなさいよ......」

 最後の方、ちょっと照れながらそう言った。それを聞いてメイスィアは笑みを浮かべながら、

「私の名前はメイスィア。メイって呼んでくれて構わないわ」

「そう......。じゃあ、これからよろしくね、メイ」

「ええ、よろしくね。レン。」

 2人はもう、友達になったのだろう、ふふふっと小さな声を出して笑っていた。


 多分この時、僕の存在は忘れられているだろう。まあ、険悪な雰囲気ではなくなったのならよかっただろう。

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