第4話 紀伊小倉 希望

ガタン...ゴトン...カカン...ココン...。

電車で約2時間。俺と祇園は家がある紀伊小倉に居る。時刻は13時、駅を降りておばあちゃんの家へと歩く。やはり田舎だからか回どころか人も居ない。祇園はずっと不安そうな顔をしている。

 すると歩いて少しした所でとある一軒家の前で止まる。

「ここがおばあちゃん家...え!?」

「ど、どした...あ...」

 その家の庭に犬小屋がある。その犬小屋の手前に犬が倒れている。

「...ユメ...?ユメちゃん...!?」

 祇園が犬の頬に手を添える。腹を大きく抉られている。犬に対してこんな殺し方は考えられない程残酷だ。周りを見るとスーパーで買ったであろう食材が散らばっているん...?良く見ると血の跡がある。跡を辿っていくと...家の入口に繋がっていた。祇園がドアノブを回す。

「開いてる...!?」

「う、嘘やろ!?」

 も、もしかして...中に...。

「「0」って言うた瞬間行くからな?」

「OK」

 そう言うと祇園が指で3つ数える。

「3...2...1...0!!!」

 勢い良くドアを開けて刀を向ける。...静かだ。ただ中の方に血が続いているのとものすごい異臭がする。ゆっくりと廊下を歩いて静かにリビングに入る俺と祇園。

「...おばあ...ちゃん......!?」

そこには胴を深く抉られた老婆がいた。

「お、おばあ.........ちゃん」

「......」

呼んでも返事は返ってこない。見た感じ死後数分...つまりこの付近に怪物が居るって事か...?

するとその時だった。

スマホのバイブが急に作動した。画面を見ると「緊急ミッション」と表示されていた。その緊急ミッションをタップして見ると「この付近に怪物が徘徊中!!ただちに殺戮せよ!!」と書かれていた。その横にはその怪物の居る場所が載せられていた。

「駅の近く...ほんまにすぐそこやん...」

「...行くん?」

「行くしかないやん」

「分かった」

俺と祇園は駅に向かって走る。

するとその怪物は駅の前にいた。

「キィイイ...!!」

「はっ...!?あれって!?」

「どした?」

その怪物の右腕のノコギリのようなものにはさっきのおばあちゃんの浴衣の布切れが引っ掛かっていた。すると怪物が俺と祇園に気付いてこっちを見る。

「...ここは私が行く」

「えっ!?で、でも...」

「キィイイイヤァアアアア!!!!」

「よくも...」

「キィっ!!キィっ!!」

「よくも...ユメちゃんを...おばあちゃんを...」

「キィいいっ!!!」

「死ねぇええええええ!!!!!!」

祇園が怪物に向かって走りながらジャンプして刀を構える。


グチュっ...!!!!!!


祇園が怪物の目に刀をぶっ刺した。そして怯んだ隙を狙って両腕を切り落として怪物はバタりと倒れて悶えている。

「...許さん...許さん...絶対に...絶対に...ああああああああああ!!!!!!」

グサッ!!グサッ!!と生々しい音がする。祇園が怪物の腹と胸を何度も何度も刀で刺す。祇園の目は狂気に満ちていた。少しすると怪物は動かなくなった。それと同時に祇園の手も止まる。

「はぁ...はぁ...はぁ...」

祇園の横に行くと大量の汗を流している。

「はぁ...はぁ...はぁ......」

「ぎ、祇園!?」

急に祇園が俺の方に倒れた。

「だ、大丈夫!?」

「ごめん...体の力が抜けただけやから...ちょっと休まして」

「わ、分かった」

これで終わり...だと思っていた。

「キィィゥゥウウウ...」

「え...!?」

なんとその怪物がまた動き始めた。するとその怪物がどんどん変形し始めた。俺は祇園を少し離れた所に避難させた。

「アアァアアア!!!」

「こ...これが元の怪物...?」

「そうみたいやな...」

怪物を見ると頭のない怪物に変形した。

「アアアアア!!!」

「こうなったら...行くしかない」

祇園が動けない代わりに俺が行く。俺は決めた。「もう逃げない」と。怪物はいつも通りこっちに走って来る。もう...俺は怖くない。そう思って刀を怪物に振り下ろそうとした...時だった。

ゴっ...!!

うぉっ...!?

俺は一瞬何が起こったのかよく分からなかった。気が付けば数メートル飛んだ地面に居た。

「アアアアアア...!!!」

「えっ...!?」

怪物は俺の方に来るのかと思えば祇園の方に歩き始めた。

「えっ......!?」

「アァ...!!!」

祇園にどんどん近づく怪物。それと同時に祇園は逃げていくが後ろは行き止まりだ。まずい、このままだと祇園が...!!!

「ま...てっ...あぁっ...!!」

俺は急いで立とうとするが腹の痛みで立つことすら出来ない。ただ見る事しかできなかった。そしてとうとう怪物は祇園の前に着いた。

「アァアアァ...!!!」

「あっ...!!!うっ...うぅっ...あっ...!」

なんとその怪物が祇園の首を絞め始めた。俺は急いで立とうとするが全身に力が入らず中々立てない。怪物はどんどん祇園の首を絞め上げていく。

「うぅっ...離してっ...!!あぁっ...!!!」

祇園は両手で首から怪物の手を離そうとするが全く力が及んでない。このままだと...祇園が.....。


...賢治...逃げて......!!


......俺は思い出した。颯も同じようになっていた事を。...でも...もう..............。

しかし、ここで俺はとある事を思い出す。


「12...13......14.........」

「ほら!!あと1回!!」

俺は産まれた当初はあまり体は強くなかった。筋肉がかなり少なく命の危険も言われていた。

でも俺には小さい頃からの夢がある。それは「消防士になる事」だ。その夢を叶えるために小学1年生から毎晩親と一緒に家で腕立て伏せや腹筋等のストレッチをして体を鍛えていた。

「もう...無理...!!!」

「無理ちゃう!!そうやって喋る余裕あるならあと1回力振り絞れボケ!!!お前もしそんな体のままで人の事助けれるんかいや!!震災とかで重い木とか冷蔵庫とか持ち上げれるんか!?そんなもん無理やろ!!!」

腕立て伏せの時はいつもこんな感じだった。あと1回、後少しのところで俺は毎回諦めそうになって毎回親に怒られていた。しかし俺は一度も諦めた事は無かった。いくら時間を掛けても諦める事はしなかった。なぜなら夢を叶えるため。そのおかげで命の危機を免れる事に成功した。


...俺はこんな事で諦めていいのか?また人を犠牲にしてもいいのか?俺は逃げた...助けれたはずの命を、颯を見捨てて逃げた。俺の夢はなんだ?消防士だろ?こんな事で諦めて本当にいいのか?


...そんなの...ええ訳が無いやろうが!!!!


...うおおおおおあああああ!!!!!!

俺の望みが一つになった時、全身に力が入って何とか立つことが出来た。これ以上...犠牲にしたくない...!!!そして刀を手に取って痛みを我慢してゆっくりゆっくりと怪物の所に行く。祇園はもう限界なのか片手が下がっていた。怪物は力を緩めることなく絞め上げている。そして怪物の背後に着いた。ん...?背中にある赤くて萎んだりしてるのは......まさか...心臓...?祇園を見るともう両手が下がっていた。ボーっとしてる場合じゃない!!

「うおああああっ!!!」


グサッ...!!!


「......アアアアアアアア!!!」

「っ......」

そこを目掛けて全力で刀を突き刺す。怪物は刺された所を手で隠しながら悶えている。俺はまた心臓に刀をぶっ刺す。すると怪物は動かなくなった。よし...倒した...ってそんな事はどうでもいい。

俺は祇園の所に急いだ。

「祇園!?祇園!?」

「......」

意識は無いけど心臓も動いてて息もある。首にはかなり強く絞められた痕がある。

「...んっ.....?」

「祇園...!?」

祇園が意識を取り戻した。

「...賢治...?」

「そうや、無事で良かった。動ける?」

「う、うん」

上半身を起こす祇園。

「え、か、怪物は...!?」

「俺が倒した」

「えっ...!?」

祇園が倒れてる怪物を見て驚く。

「どっか悪い所はない?」

「う、うん...大丈夫...。あ、ありがとう」

「どういたしまして」

祇園がちょっと嬉しそうな顔をしながらお礼を言う。すると俺と祇園のスマホが震えた。見ると「ミッション成功!!」と表示されてミッション成功のカウント数が1から2に変わった。緊急ミッションでもカウントされるのか...。

「な、なぁ」

「ん?」

祇園が話しかけてきた。ん?な、なんか恥ずかしそうな顔してる...?

「その...今日...私の家に泊まらへん?」

「えっ?い、いいん?」

「うん。助けてくれたお礼にって思ったんやけど...どう?」

そう提案する祇園。え、本当にいいの?

「あぁ...祇園がええんならそうするけど...」

「分かった。んなら案内するわ」

と言うことで今日は祇園の家で泊まることになった。


一方、Zeroのアジトでは...。


「なんとかゲームが上手いこと進行してる...。ただし、このままでは...目的は果たせないのさ。それは分かるだろ?A、Z」

「はい、もちろんです」

「...いつ殺すかだな...を...」


「お、お邪魔しまーす...」

俺は今歩いて数分の所に祇園の家にお邪魔している。そして中に怪物が居ないことを確認してリビングに入る。あぁ...いい香り。何の匂いだろこれ。

「今日はほんまにありがとう。な、なんか...会って1日やのなめっちゃお世話なっちゃったな...」

「あ、あぁ確かに...どういたしまして」

そのお礼として祇園から素麺をご馳走させて貰った。しかも揖保乃糸!美味いし最高。本当にご馳走様でした。

すると祇園が皿を片付けてリビングに戻って来てすぐにこんな事を聞いてきた。

「お風呂...入る?」

「えっ!?」

いや...さ、流石にそれは...。俺が戸惑っていると祇園が怖い目で俺を見る。

「な、何変な事考えとん?交代ごうたいに決まってるやん」

「えっ、あ、あぁ...良かった」

祇園に変な目で見られながら浴室に行く。俺が先に入って着替える。着替えは祇園が「タンスの奥にあったやつやから」と言うことで用意してくれた。誰のかは不明なのが怖いが...。次は祇園が入る番。すると祇園から「ちゃんと見張っとってや?開けたらほんまに殺すからな?」と割と怖く俺に伝える。

そして特に何も無く風呂を上がり終えた祇園と一緒に2階にある祇園の部屋に行く。「失礼しまーす...」と言いながら入室する。人生で初めて女の子の部屋に入った。

「初めて男入れたわ」

「えっ!?俺が初なん!?」

「な、何やねんその初って言い方...」

そう祇園がつっこんでから沈黙が続く。数分してからだった。どっかから啜り泣く声が聞こえてきた。チラッと横を見ると祇園が顔を隠して泣いている。今まで我慢していたのが耐えられなくなったのか...。俺は優しく背中をさすることしかできなかった。

「我慢せんでええのに...」

「うっ...うぅっ...うわぁああああ!!!!」

「えっ!?ちょ、祇園!?」

突然すぎてびっくりした。祇園がいきなり泣き叫びながら窓を開けて飛び降りようとし始めた。俺は祇園の手を掴んで部屋に引き込む。

「離してよ!!!邪魔せんとってよ!!!」

「落ち着けって!!!自分のしとうこと分かっとんかいや!?」

「黙れや!!!おばあちゃんとユメの居れへん世界なんかもう嫌や!!!そんな世界死んだ方がましじゃ!!!」

俺は祇園を床に倒して腕を掴んで止める。それでも祇園は止まる様子がない。

「離してよ!!!早く死なせてよ!!!もう嫌や!!!私なんか死んだ方がましや!!!っこんな世の中生きてるだけ無駄や!!!うっ...」

ん?どんどん抵抗する力が無くなっていく。

「早く死なせてよ...っ早く殺してよ...どんなやり方でもええから私を殺してよ...!」

腕を離しても窓に行くことはなくそのまま泣き崩れる祇園。その姿は何だか過去に辛い事があったかのような感じだった。

10分してからやっと泣き止んだ。祇園は枕を抱きながら壁に寄りかかって体育座りをする。

「...ごめん。ほんまにごめん...」

祇園が申し訳なくそう謝ると続けて話す。

「私の事を唯一支えてくれとったのはおばあちゃんやねん。やのに...恩返しも出来ずに.....うん」

顔がどんどん暗くなる祇園。

「何か...私変なこと言うとったな、死にたいのか死にたくないんか分からんよな...はぁ...」

「祇園って...昔何かあったん?」

「...」


ウザ...何やねんあいつ死ねやほんまそれさっさと死ねばええのに.........。


「...今は言いたくない」

「そっか...また今度教えて」

「...」

祇園は顔を下に向けたままだ。

「俺が親亡くした時さ、祇園と同じさっさと死んで親の所に行きたいって思とったんやわ。でもそれは間違いやってん。確かに今からは1人で生きていかなあかんけどきっとこの先楽しい未来が待ってるって妹から教えてくれたんよ...祇園、諦めたらあかん。俺と一緒にこのゲーム終わらそ?頼りになるかわからんけど俺がずっと横に居るから」

目を少し見開いて俺を見る祇園。そして少しほほ笑む。

「賢治って優しいんやね。今までこんな優しい人なんておばあちゃん以外居れへんかったから嬉しいわ......。分かった、賢治と一緒に頑張るわ」

「ほ、ほんまにええん?」

「そりゃ...さっきの賢治の言葉で何かわからんけど頑張れる気がしたから...うん。よろしく」

「よろしく」

そう言ってお互い握手して微笑む。

それにしても...綺麗な部屋。綺麗って言うか昔の一人部屋って感じだ。

「あれ、ポスターとか貼らんの?」

「あんなん貼ろうなんて思わんわ。別に好きな有名人とか居らんし」

「えっ、そうなん?俺とか...」

話が盛り上がり始めた。なんか高校の入学式を終えた後の教室の雰囲気に似てる。やっぱりあれか、まだ会って1日でお互い何も知らないから知りたいって言う俺達の年代に代々伝わる話の盛り上げ方ってやつか。

ずっと喋っていると22時を回っていた。

「って、何で祇園は制服なん?」

「もし何かあった時用。それにわかりやすいやろ?」

「っ、あぁ...や、やから俺の服もそういう事やねんな...」

今、俺の視界に映っちゃダメなものが見えてしまった。黒いのが...見えてる。

「ぎ、祇園...」

「ん?」

「そ、その...パンツ...」

「...へ?」

俺は顔を逸らしながら言う。祇園が下を見る。慌てて脚を伏せてスカートで隠す。

「...み、見んかった事にして」

「お、おう...そ、そろそろ寝る?」

「せやね」

と言うことで祇園のベッドに寝転ぶ俺と祇園。あぁ...このベッドいいな...。

「交互に寝るん?」

「いや、今日はええやろ。鍵も閉めてるし。...分かってると思うけど、変な事せんとってや〜?」

「わ、分かっとるわ...」

「んならええけど。じゃ、おやすみ」

「おやすみ」

そう言ってお互い目を閉じた。


















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