第3話 大阪難波 開始

 ......。

 ...はっ。

 何故か俺は寝ていた。ここは...どこだ?気が付けば駅のホームの壁にもたれていた。大阪難波...近鉄か。何故ここにいるのか記憶が無い俺。案の定周りには死体が散乱している。多分...初めて見た物が多すぎて疲れたんだろうな...ん!?ふと横を見るとセーラー服を着たロングヘアーの女の子が座りながら壁に持たれている。良く見ると腰に刀を三刀装備している。...死んでるのかな?脈を測ろうとそーっとゆっくり近づく。そして首に指を添えた瞬間だった。その女の子が急に俺の顔を殴って来たのだ。俺はそのまま床に倒れた。

「ていやぁあああ!!!」

「ひぃっ!?」

 なんとその女の子が俺に刀を向け始めた。え、な、な、何!?何で!?俺なんかやった!?首に指やっただけだよ!?いやそれはそれでアウトか。じっと俺を見るその子。

「...なーんや、お前か」

 そう言って刀を下ろす。え、な、なんなの...?困惑しているとその後が俺に声を掛ける。

「随分寝とったみたいやなぁ...お前」

「は、はぁ...」

 目を閉じて腕を組んで壁に寄りかかるその女の子。な、何なの...。

「ドゴォン...!!!」

 ひぇぇええええっ!?突然壁を殴り始めた。

「...何舐めたことしとんじゃボケ!!!」「へっ!?」

 なんか怒り始めた。

「怪物がうろちょろしとる所でお前みたいに寝とる間に襲われて死んどる奴がいっぱい居るんじゃボケ!!お前もその1人になりたいんかいやカスぅ!!!!」

 ...?え、えっとー...な、何なの...?え、割とマジで何がなんなのか分かんないんだけど。なんで俺こんな怒られてんの?ていうか周りを見ると怪物の死骸だらけだ。

「お前がダボみたいに寝とる間に私が怪物から守っとったんや」

「あぁ...ありがとうございます...」

俺が礼を言うとその子は立ち上がった。

「んじゃ、気いつけや、私はこれで失礼するわ」

「えっ!?」

 そう言ってその子が階段を上ろうとする。

「ま、待って!!!」

「...は?」

 地味にキレてるような顔をする。なんかめっちゃ怖いんだけど。

「い、いやぁ...その...俺一人やったら怖いからさ、一緒に行動せえへんかって...思ったんやけど...」

「は、はぁ!?何言うてんの!?」

 俺に迫りながら怒るその子。気が付けばまた刀を俺に向けていた。何もしてないのに殺す気かよ...。

「あ、あぁ...怒らせて悪かった...ごめん」

「...えっ」

「俺一人で行くわ...じゃ、じゃあね...無事を祈ってるよ...」

 そう言って俺が立ち上がって別の階段を登ろうとした時だった。

「ちょ、ま、待ってよ!!」

「えっ?」

 何故かその子に呼び止められた。

「あぁっ...さ、さっきは言い過ぎたわ...わ、私で良かったら一緒に行動しよ?確かに1人やったら危ないし...」

「え、い、いいの?」

「な、何でそんな嬉しそうやねん!!」

「ちょっ...それだけで刀向けんでも...」

 ということで...その子と一緒に行動する事になった。

「私は権現丸祇園ごんげんまるぎおん高2や、呼び方は祇園でええわ。よろしく」

「ご、権現丸...凄いな...」

「ふっ...そりゃどーも」

「俺は大潮賢治、同じ高2。呼び方は賢治でいいよ」

「は!?高2なん!?同じやん...」

「そんな残念そうな顔せんでも...」


 ピンポンパンポーン...!!!


「ん?」

 突然駅に放送が流れだした。

「やぁ...皆さん、おはようございます。現在15時丁度です。よく眠れましたか?あ、そっかそっか寝たら死んじゃうから寝れないか!!アハハハハ!!!」

「えっ...この声...」

 その声は...E25だった。

「さてさてさて、今ね?僕が怪物の皆の電子機器にメッセージを送信したんだ!その中身は、このゲームのルールだよ〜!では、今から30分間怪物をフリーズするね〜!!バイバ〜イ!!」

 放送が終わった。とりあえず俺のスマホを開く。そこには見たことない画面が映し出された。8桁の数字が毎秒変わったり地図や色んなアイコンがある。アイツの言ってたこと本当だったのか...。そして封筒のアイコンに通知が来ていた。それを開くと「このゲームのルール」と書かれたメールが来ていた。

 それを開くと...

「ルールは次の通りです。


 1.このゲームは怪物から逃げるゲームです。


 2.怪物になるのは、その怪物に噛まれたり体液が混ざった人がなります。人によってはならない人もいます。


 3.怪物は殺す事も可能です。


 4.このゲームは、関西の人口が1人になったら終了します。


 5.早くゲームを終えたい人のためにミッションをこちらから用意しています。そのミッションとは50個のミッションです。これをすべてクリアするとゲームを終えることが出来ます。2人以上で行動する場合は自動的にスマホが連動します。ミッションは同じ日に連続してクリアする事が出来ます。ミッションの制限時間は無限です。ただし、ミッションを全くクリアしない人は怪物に狙われやすくなります。


 6.このゲームでは、検索、通話は出来ません。ただし、トランシーバ機能のみ使えます。もしスマホ等の電子機器が壊れた、或いは紛失、充電が切れた場合近くにあった電子機器を使って再登録して下さい。しなければ死亡します。


 7.他の地方へは県境に大きな壁を設置しているため脱出出来ません。海には大量の見張りをつけています。もし脱出しようとした場合処刑されます。


 8.今から鉄道全路線の運行を開始させます。料金は不要、自動運転です。しかし、脱線あるいは何かしらの故障を起こした場合、一時か状況によりその日は使用不可となります。


 9.途中棄権は「死」です。


 ルールは以上です、それでは頑張ってください」

 ...。大体状況が分かった。「ヤバイ」という事が分かった。

「...てか、武器あんの?」

「え、あ、ほんまや...」

 そう、俺は武器を1個も持っていない。持っているのはどっかで拾ったライターだけ。

「はぁ...ほんま死にたいんか?いつでも殺したんで?」

「ご、ごめん...」

「うーん...はい、これ」

 そう言って祇園が俺に三刀ある内の一刀をくれた。とりあえず腰に装備する。おぉ...思ってた以上に軽いな。

 すると放送が流れた。

「1番線に、電車が参ります」

 そのアナウンスが終わると同時に本当に電車が来た。車内は血だらけ、死体もある。

「ほ、ほんまに来たやん...なぁ、ミッション開いてみてや」

「うん」

 ミッションのアイコンをタップすると路線図のようにずらりとミッションが並んでいた。1つ目のミッションをタップすると白い文字が出てきた。


「怪物を1人1体仕留めろ」


「1体か...まだ大丈夫そうやな...」

「...」

 ...嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌。

「賢治?」

「...えっ?」

「話聞いとった?」

「あぁ...ごめん、聞いてなかった」

「ちゃんと聞いといてや?...って、だ、大丈夫?」

「え?」

 祇園がめっちゃ心配そうにこっちを見る。

「最初っから思とったけどさっきから顔色めっちゃ悪いで?」

「えっ...そ、そう...?」

「何かあったんか?」

「...いや...」


お兄ちゃん...お兄ちゃん...!!!


「っ...何も...無い」

「...?」

「...ご、ごめんな?ほ、ほら...行こ?怪物来る前に...な?」

「...おん」

 「ミッションを始める」を押してミッションが始まった。駅で怪物が来るのを待っている間に祇園に怪物の仕留め方を教わる。

「あいつら思ってた以上に弱いんやわ。ちょっと蹴っただけで死んだりとかな。せやから迫って来たらとりあえず斬る。どこでもええからとにかく斬ったらええわ」

「ほう...斬る...か...」

 すると階段からべちゃべちゃと音を鳴らしながら怪物が降りてきた。祇園が俺の前に立つ。

「見とってな」

 そう言うと怪物が祇園に向かって吠えながら迫る。


 ブチャっ...!!!


 綺麗に怪物を真っ二つにちょんぎった。

「こんな感じやわ。最初は私も恐かったけど何回かやってったら慣れたわ」

「...」

「ほら、あそこにもう一体おるやろ?行ってみ」

「うん...」

 怪物に近づく俺。すると怪物が俺に気付いて吠える。

「構えて、来るで」

「...」


 お兄ちゃん...


 はっ...!?茜...?怪物がこっちに向かって走って来た。しかし俺は全身が震え始めた。

「...賢治?」

「...来るな...」

「グワァアアアッ!!!」


 お兄ヴっ...ちゃん...こっちに...ああぁっ...!!


「来るな...来るな...来るな...!こっちに来るな...!!!」

「どなえしてんはよ斬れや!!」

「うわぁああああっ...!!!!!」


 ブシュッ...!!!!


 .....ゆっくり目を開けると首と胴体が真っ二つに斬れた怪物の死骸があった。何とか...なった...。気が付けば大量の汗を流して息遣いも荒くなっていた。下には怪物の首がある。

...うわぁああんっ...お母さぁあん...!!!!

うっ...!?

お兄ちゃん...お兄ちゃん...こっちに来て...賢治...に、逃げろ...グチャっブシャっ...グワァアアッ...アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!...。


 ...。


 ...。


 んっ...?

気が付くと俺は明るい部屋に居た。

「やっと目覚ましたか」

「えっ...?」

 隣には祇園が座っていた。見た感じここはホテル...?それにしても...いつの間にここに...?確か俺と祇園は大阪難波駅に居たよな...?

「今は夜の11時やで。昼気失ったん覚えてる?」

「...いや...全く.....あっ」

 思い出した。怪物を斬った後、妹と両親の事を思い出して...それで気を失ったのか。ていうか...かなりの時間俺は眠ってたのか。

「うん...覚えてる」

 じっと俺の顔を横から見る祇園。

「...何があったん?」

「...」

「これ食べながらでええから」

 コンビニのざるそばを差し出す祇園。

「...あかん?」

黙って受け取る俺。蕎麦を食べながら話す。


 あれは...俺が13歳の時。とある春の日の夜。その時俺の家は須磨の一軒家だった。時刻は21時。俺は寝る前に喉が渇いたから二階にある俺部屋から一階の冷蔵庫に行こうと階段を下ろうとした。すると「ドン...!」と物入れの方から何かが落ちる音がした。母親がその音に気づいたのか寝室から出て物入れに入った。入ってスグだった。

「キャアアアアアッ...!!!!!」

母親の悲鳴が聞こえた。それに何かが落ちる音がした。俺はその物入れに入ろうとした。すると後ろにいた父に止められた。

「ここは俺が行く。お前は2階に隠れとけ」

そう言って俺は階段を上って2階の部屋に入って布団に篭っていた。俺はこの時何が起こっていたのか分からなかった。またいつものゴキブリが出たとかそういうノリだと思っていた...その時だった。

「うわぁああああっ!!!!!」

...!?なんと父親の悲鳴がした。え...?なんで...?そんなにでかいゴキブリが...いやいや、そんな訳無い。俺は何かやばい事が起きてるんだと確信した。部屋から出てお父さんの様子を見に行った。

「えっ...お母...さん........?」

 ...目の前には血塗れの母の首が転がっていた。物入れからガサゴソと音がする。物入れに入るとそこには腹を刺されて血まみれで倒れている父の後ろに黒い服を身にまとった誰かが居た。そいつの手には血だらけの刃物があった。すると父親が突然顔をゆっくりこっちに向けた。

「...賢治っ...逃げろ...ぐはぁっ...!?」

「...お、お父さん...!!!!!」

父親が俺にそう言った直後にその後ろにいた誰かが父親の首を刺した。父親は動かなくなった。

「...」

そいつは俺の方をじっと見た後すぐに窓から家を出た。...俺の横には父と母の残酷な姿が残されている。

「...うっ...お母さん...お母さん...!!お父さん...起きてや...起きてや!!!だ、誰かっ...助けてっ......!!!あああああああああっ!!!!!!!」


 ......。


 犯人はまだ見つかっていない。この事件の日から俺は不登校になった。3日は誰とも喋らずに過ごした。俺の噂はすぐに広まって周りからは良くない目で見られていた。妹の茜は新今宮のおじいちゃんおばあちゃんの家に引き取ってもらったと同時に須磨から三ノ宮に引っ越した。その家はもう取り壊されたらしい。俺は医師から「17歳になるまでは1人で過ごした方がいい」と言われ中1から三ノ宮で1人で暮らす事になった。

そして引越しと同時に転校したが別室で授業を受ける事になった。中学を卒業して高校に入って颯達と知り合った。俺は人生で1番信頼できる友達が出来て嬉しかった。...なのに...死なせてしまった。

「昨日...茜の所に行ってん。でも...遅かった。...俺が...俺が...もっと早く...もっと早く助けに行けば.......っ...」

 気が付けば泣いていた。

「...ごめん」

 祇園がハンカチを差し出した。そのハンカチで涙を拭い祇園が俺の背中をさする。

「ごめんな?最初にあんな酷いこと言うて...」

「...良いよ、全部俺が悪いから...」

室内には俺の泣き声が響く。

「...あ、ご...ごめんな?会って初日でこんな暗い話しちゃって...」

「えっ...べ、別にええよ...ほんまの事知れてよかったし...うん」

 少し沈黙が続いた。外からは人々の悲鳴が響く。

「...祇園の家族は大丈夫なん?」

「えっ...あ、あぁ...東京に出張してるから分からへん。帰ってくるんも8月過ぎる言うてたし」

「そっか」

「でも...」

 祇園が少し悲しそうな顔をする。

「おばあちゃんが心配やな...」

「あぁ...おばあちゃんな...家はどこなん?」

「紀伊小倉...って分かる?」

「き、きいおぐら...?和歌山のどっか?」

「うん。私の家もその近くやねん」

「へぇ...。明日...行ってみる?」

「えっ!?」

俺がそう提案すると祇園は物凄く驚く。

「で、でも...」

「遠慮することは無いよ。こっちも協力したい所はしたいし」

「分かった...ありがとう」

 嬉しそうに祇園は笑っている。

 ふぅ...。にしてもかなぁ〜り寝たから楽になったな。

「いつ寝るん?」

「え、あぁ、今から寝よっかな〜って思ってた所」

「じゃあ今度は俺が見張る番か」

「せやね...って、変な事せんとってや?」

 祇園が腕を組みながら細い目で見る。

「わ、分かっとるわ!」

「ふふっ、ならええけど。じゃあおやすみ」

「おやすみ」

 そう言って祇園がベッドに寝転ぶ。すぐに眠りに入った。

 ...はぁ。こっから先どうすればいいんだろう...。このゲーム終える事出来るのかな...。


...おばあちゃん......無事で居って...。

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