第六話 再会
残る2人の四天王を求め、レオンとセイラはエルフの森を進んでいた。
「うぐっ」
その途中、レオンは唐突にバランスを崩して膝をついた。
「どうしたのレオン、もう疲れたの?」
「いや……こいつがな」
「こいつ?」
レオンが親指で指したのは、彼が背負っている勇者の剣だった。
「こいつが意思みたいなものを持ってるのは知ってるだろ? こいつにもエルフ探しを協力してもらおうかと思った途端、いきなり数倍の重さになりやがった」
「あらら、思ったよりも気難しいのねその子」
「こいつ、前もこいつを腰に提げるか背中に背負うかで揉めた時に重くなるわ手から逃げるわ……おかげでシウダッドの町民前で大恥を……うおっ!?」
レオンが愚痴っているとまた勇者の剣が重くなり、レオンは仰向けに倒れてしまった。勇者の剣はレオンを勇者と認めたものの本音では四天王たる彼を嫌っており、無言の意思表示は手厳しい。
「わかった、わかった! 文句言わないからやめろ! ったく……」
「ま、勇者様が剣に遊ばれてるようじゃ、人々も不安よね」
「うるさい」
レオンはなんとか立ち上がると、改めて周囲を見渡した。
エルフの森は背の高い木々が延々と続く青緑色の空間は、自然に満ちながらもまるで人工物のような均整さも併せ持つ。その神秘性はともかくとして、同じような景色が続くうえに視界が悪いため、2人は早速道に迷っていたのだった。
「セイラ、お前は個人の単位で四天王の気配を感じ取れるんだろ。それを使えばエルフたちがいる場所くらいわかるんじゃあないのか?」
「んー……それがねえ、できないのよ」
セイラは渋い顔でため息をついた。
「このエルフの森、全体が独特な魔力で包まれてて……四天王の魔力を覆い隠しちゃってるの。いくら私でも、これじゃ手も足も出ないわ」
「肝心な時に役に立たない奴……」
「なにか言った?」
「別に」
とにかく手がかりがなくなってしまった。闇雲に歩き回るのもなんなので、2人はひとまず足を止める。
「地図上でのエルフの森はさほど大きくないんだけどねぇ、エルフたちが何か魔法をかけてるかもしれないし……」
「……いや、そうでもなさそうだ」
レオンは地面に手をかざし土壌分析を行っていた。農業魔法と土の四天王のチカラを組み合わせた分析は精度が高く、成分・地層・水の流れ・植生など様々な情報が入手できるのだ。
「土の状態は至って普通……生息している植物は珍しい種だが際立って特殊ではない。土を辿っていけばなんとかなるぞ」
「ホント? 便利ねーあんたの能力」
「ま、四天王時代は分析力がなくて宝の持ち腐れだったがな」
「あんたは体も腐ってたけどね」
「お前は生臭いんだよ生魚。いいからとっとと俺に……」
2人の会話はそこで中断する。レオン、セイラ、両者とも鋭く目を動かし、一点へと視線を集中させた。
「1人だけか……俺たちを排除しに来たってわけじゃあないのか」
「わからないわよ、案外精鋭を送り込んできたのかもしれないわ。地の利も完全に相手にあるし、油断はできないわね」
レオンは勇者の剣を抜き(さすがに必要な状況では協力してくれる)、セイラは空気中の水分を自らの周囲に集め始める。100年前の勇者ですら6人がかりで戦った四天王が2人、完全な臨戦態勢に入ったのだ。これに勝てる相手はそうそういない。
2人が気配を感じ取った相手は木々を渡って接近してくる。やがてすぐそばで枝から飛び降り、レオンたちの前に姿を現した。
それはやはりエルフだ。森の入り口で出会ったのとは別人で、まだ幼く10歳かそこらの子供に見える。森に同化するような浅葱色の髪を揺らし、エルフ特有の体をぴっちりと覆う布服を着て、手には小型の弓を握っていた。
「あなたたちが、勇者様ですね」
エルフの少女は2人をじっと見据えていた。弓こそ構えていないが視線は鋭く、レオンたちも警戒を崩さない。魔法に長けるエルフの能力は未知数だ、仮に襲い掛かってきた場合いつでも対応できるように構え続ける。
両者のにらみ合いはしばらく続いた。エルフの森は奇妙なことに小動物の鳴き声も木々が擦れる音も一切せず、ただただ風が流れる音だけが辺りを包む。神秘的な森の一画で、レオンたちの邪悪な魔力が膨らんでいく。対峙するエルフもまた微動だにせずレオンたちを見つめ続け――やがて、動いた。
エルフの少女はにっこりと笑い、言った。
「お久しぶりです! 私、『薫風』のウッデストですっ!」
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