第5話
「勇者様、私の宝石を受け取ってください♪」勇者様、また作っちゃいました♪」勇者様、大好きです♪」勇者様、これは私の気持ちです♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」…
「よ、寄るな……来るな……っ!!」
つい先程まで美女の肉体美やきらびやかな宝石に心躍らせていたはずの転生者の男は、今やその美しさの大群の前に恐怖しか感じられない状態になっていた。右を向いてもビキニアーマーの王女の複製、左を向いても全く同じ姿形の美女の大群、前に強行突破しようとしても、後ずさりしようとしても、美しい女性の海から逃げる事が出来なくなっていたのである。
とは言え、男に逃げ道が無い訳ではなかった。別の場所に瞬間移動すれば、もしかすればこの大量の美女を放置したまま一命を取り留める事が出来るのではないか、と考えたのだ。しかし、急いで呪文を唱えながら慌てて逃げた先も――。
「「「「あ、勇者様♪」」」」
「へぇ!??!?」
「勇者様♪」私の宝石を受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」受け取ってください♪」…
――ビキニアーマーの美女で埋め尽くされていた。しかも逃亡する前の場所よりも更に多い数に増えながら。
そして、とうとう彼の周りは四方八方ぎっしりと全く同じ姿形の女性で覆いつくされてしまった。その顔には一切の悪意はなく、手には念願の『5000兆円』を実現させてくれるであろう宝石が光り輝いていた。胸の谷間も腰つきも、彼にとってはまさに無限の宝に等しいものであった。だが、もう彼にはその喜びに浸る余裕など残されていなかった。名残惜しい、という気分も少しづつ消え失せていった。
こんな訳の分からない状態になってまで、あのとてつもない目標金額なんて受け取りたくないし、今更受け取っても意味がない――覚悟を決めた彼は、迫りくる笑顔の美女を一網打尽にすべく、この世界で生まれ育った人間では絶対に発音できない呪文を唱え始めた。そして大声で最後の言葉を述べた瞬間、本拠地である結界の中は一面途轍もないほどの爆音と光に包まれた。あまりに強すぎて10年もの間使用する機会が訪れなかった、彼の持つ最強の攻撃呪文を使った相手は、よりによって彼の目標を達成させてくれるかもしれない存在になってしまったのである。
「……許してくれ……くっ……!」
自身の体を鉄壁の防御魔法で包み、爆風から難を逃れた彼が涙を流した相手は、あの王女だけではなかった。念願の財産を目の前にしながらそれを焼き尽くしてしまった、自分自身の心にもまた、彼は懺悔したのである。もうここには自分以外誰も残されていない。あの爆風の威力によってこの結界の中にあった木も草も皆焼き尽くされてしまった。女神ライラへの恨みもあるが、それ以前にまずこの場所を更地の状態から再建しないといけない――これからも続くであろう苦労に対してのため息が漏れた時、辺りを包んでいた光や煙が晴れ始めた。
そして、そこに広がっていた光景を見た彼は目を疑った。だが何度目を擦っても、何度魔法を使って辺りを調べても、周りに広がるのはすべて真実の光景であることを残酷に告げるばかりだった。
「あ、あ、あ、あ……」
確かに、あの最強の魔法の力により、結界に広がっていた美しい景色や本拠地の古城、そしてそれらを彩っていた命は焼き尽くされ、息絶えてしまった。だが、例外がたった1つだけ存在していた。その例外は、まるで他の命が消えた隙を突くかのように桁外れに数を増し、結界の中を覆いつくしてしまっていたのである――。
「勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」勇者様♪」…
――ビキニアーマーから除く谷間と魅惑の腰つき、温和な笑顔、そして明るく輝く宝石と共に。
「うわあああああああああああ!!」
そして、男の絶叫を合図にしたかのように、王女の大群――何千何万、いや何億人にも増殖した、古代から蘇った生命体は、一斉に彼に感謝を告げるかの如く押し寄せてきたのである。そして何も抵抗できないまま、彼の体は大量の美女の中に埋もれ始めた。
もはや前後左右ばかりではなく、上を向いても下を向いてもビキニアーマーの美女がうれしそうな笑顔と共にどんどん彼に飛び込んでくると言う、天国や地獄の概念を飛び越し、『希望』と『絶望』が交差する混沌とした状況の中、どこまでも聞こえる自分を称える声に男は意識を失いかけていた。無数の美女の中に埋もれて死ぬなんて、喜ぶべきか悲しむべきか、どう捉えればよいのか――そう考えていた時だった。彼の頭に、今度こそ最後の手段が思い浮かんだのだ。一時凌ぎかもしれないし、正直非常に嫌だが、この状況を解決してもらうのはこれしかない!
「……!!」
無数の美女の声にかき消されそうになる中、彼が何とかその呪文を唱えた瞬間、王女の大群の動きが時間と共に停止した。召喚の呪文が成功した、と安堵した男だが、どちらにしろ体にまとわりついた王女のせいで身動きが取れないという現実を思い知らせた途端、一気に心の中に憤りの気分が増していった。そして――。
「お久しぶりです……」
「お久しぶりじゃねーよ!!!このインチキ女神!!!バーカ!!!!クズ!!!!!うんこたれ!!!!貧乳!!!!!」
――彼の視界の先に現れた、小さな胸と幼げな顔を持ちながら空に浮かぶ女神ライラの姿を見た瞬間、彼は今までの気持ちを一気に吐き散らした。時間が停止した状態の王女に向けて自分の唾が飛び散ることも気にせず、思う存分罵詈雑言を投げたのである。女性だからという理由でずっと抑えていた卑猥な言葉も、女神と言う事であえて言わなかった偏見満載の言葉も、彼の口から次々に飛び出してしまった。最早転生した際に得たチート能力の欠片もない男から放たれる精神攻撃を、女神は表情一つ変えず受け取り続けていた。
やがて、怒涛の如く悪口を言いまくったせいで彼がヘトヘトになってしまったのを見た女神は、ゆっくりと笑顔を見せながら言った。
「……でも、良かったじゃないですか。これならすぐ5000兆円が溜まりますよ♪」
「溜まるよ!!!見りゃ分かるだろ!!!だが俺はこんなの望んでねーぞ!!!」
こんな無茶苦茶な方法で溜まるなんて聞いていないし望んでもいない、そもそもこんな有様になってしまえば楽すらできないじゃないか――女神の言葉は男の逆鱗に再び触れ、先程の疲れはどこへやらといった怒鳴り声がまたもや時間が止まった世界の中に響き渡ってしまった。
ところが、そんな彼に戻ってきたのは予想外の返事だった。そもそもこういう結果になることは、彼自身の力を使えば簡単に予想できたはずだ、と。何故調べなかったのか、と逆に追及されてしまった男だが、当然ながらそのような発想など一切なかった男は逆ギレの態度を見せてしまった。
どこまでも自分の非を認めない姿勢を崩さない男の様子に、ついにライラも態度を変えた。大きなため息をつきながら、彼に全ての真相――本来なら彼の力で簡単に調べることが出来たはずの内容を、丁寧に教え始めたのである。
「……魔法の力で調べなかったんですか?この王女の『クローン』に、どこまでも無限に増える能力が身についているって事……」
「……はぁ、無限に!?!?」
あまりにも衝撃的な事実と共に……。
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