第4話

春休み最後の日を迎えた。

実感が全く湧かない。

空にはどんよりと厚く黒い雲がかかっている。

まだ雨は降ってないが、これなら今夜は期待できそうだ。

最後にたつみさんと会ってから一週間以上経っている。

 あれ以降、一度も夜に雨が降ってない。

 毎日毎日、雨が降るように祈るようになった。

 夜、寝る時間はぐっと減った。

 寝ている間に雨が降ったらと思うと、寝てなんかいられない。

 その代わり、たつみさんに会えない昼に寝ることが増えた。

 今や僕にとってたつみさんに会うことだけが楽しみであり、生き甲斐であり、存在理由だ。

 それ以外は全く興味がない。

 遊びも、勉強も、食事も、ありとあらゆることが面倒ですらあった。

 たつみさんとの出会いを思い返し、次の出会いを焦がれ、窓の外を見上げる。

 夜空に月が浮かんでいると、激しい憎しみを覚えた。

 お前がいるからたつみさんに会えないんだ。

 お前がいなければたつみさんに会えるのに。

 殺したい。殺してやりたい。

 近頃は誰かと話すことも減った。

 いや、そもそも家から出ないのだから話すことも少ないんだけど。

 そういえばいつも話す相手がいたような。

それが誰だか思い出せない。

まあ、いいか。

僕にとってはたつみさんが全てだ。

他の人間に価値なんてない。

それよりも今夜だ。

今日の深夜、雨が降ってくれればまたたつみさんに会える。

早く深夜に、早く雨を。

のろまな時計を睨みつける。

まるで嘲うかのように遅々として進まない時間に、怒りを覚える。

たつみさんといられる時間はあんなに僅かだというのに。

たつみさんと会ったら何を話そう。

たつみさんと会ったら何をしよう。

妄想を繰り広げていた僕は、いつの間にか少し眠っていたらしい。

激しい雨音に目を覚ますと、外は真っ暗になり、土砂降りの雨が降っていた。

雨が降った。雨が降った!

興奮した僕は自分の部屋を飛び出し、玄関へと向かった。

 と、そこに誰かが二人立っていた。

「こんな時間にどこ行くんだ、○○」

「そんなに痩せて、今日もご飯にも手をつけてなかったじゃない。話しかけても上の空だし、調子悪いの?」

 この二人は何を言っているんだ?

 いや、それよりも重大なことがある。

 僕のことを○○と呼んでいいのはたつみさんだけだ。

「明日から学校だろう。今日は早く寝なさい」

 うるさい。

「何か嫌なことでもあったの? もしそうなら言って、怒らないから」

 うるさいうるさい。

「どうした、○○」

うるさいうるさいうるさいうるさい。

「ねぇ、○○」

 うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!

「なんとか言え、○○!」

 片方が手を伸ばす。

「うるさい! 邪魔するな!」

 僕は叫ぶと、伸ばした手を払い、相手を突き飛ばした。

 相手は少しよろめいて倒れた。

「あなた! ちょっと、○○!」

 誰かが僕の名を言った気がしたがどうだっていい。

 僕は既に玄関を飛び出していた。

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