第2話

 翌日、僕が起きたのは九時過ぎだった。

 昨夜の出来事が原因、というわけでもなく、休日はいつも起きるのが遅い。

 母さんも何も言ってこないため、春休みに入ってからずっとこうだ。

 着替えを済ませて一階に行くと、千円札と書き置きがしてあった。

『出かけてくるからこれで朝と昼は食べて 母』

 ぼくは千円札を財布に入れると家を出た。

 外は夜の雨が嘘のように晴れ渡っている。

 日差しは温かく、時折吹くそよ風が心地よかった。

僕が向かった先は最寄りの近所のコンビニ。

 適当なパンとカップ麺をカゴに入れ、会計を済ませる。

 道中、たつみさんに合えるかもと思ったが、そんなことはなかった。

 いつのまにか思考は彼女のことに向いていた。

あの人はどこから来たのだろう。

 この辺りに住んでいる、ということはない。

 近所付き合いが多いわけではないが、それでもたつみさんのような人がいたら気付かないはずがない。最近越してきた、ということもないと思う。

 あとは何かしらここに目的があって訪れたくらいか。

 観光になるようなものはないし、きっと近所の親戚か何かだろう。

 何かその人に用事があって来た。そんなところだろう。

そう、それが自然だ。

 なのに。

「なんでだろう」

 違う気がする。

 彼女はもっと、異質な、特別な、そんな存在のように思える。

 自分が出会ったのが特別な状況だったからかもしれない。

 また会ってみたい。

 そう僕は思っていた。

 今夜も雨が降れば合えるだろうか。

 その日一日、僕はずっと雨が降るのを待っていた。

 雨は、降らなかった。

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