第14話クリムゾンイータ―2

 ジュディとアルマの前にルビィが現れたその頃、スオウとクエンはフューゾル、コルコスタ、サリアナの三国家を結ぶ関所よりニ、三キロ程離れた街道をれた渓谷に来ていた。


「スオウさん、ここら辺りで」

「ふむ、ですな」


 お互いに確認を終え、足を止める。


「‥‥‥鬼ごっこは終わりか? 覚醒者達?」


 青年のクリムゾンイーターが少し離れた位置で止まり言った。


「そうよの、この辺りならば他にるいおよぶまいて」


 スオウがあごに手を当てて青年に言う。


「お主等とて、人の目があるのは困るのじゃろう?」


「‥‥‥ノーウィ、前回と同じくあのガキは任せるぞ」

「わかりました、ルーゴ兄さん」


 スオウの言葉を無視して、二人が足を広げ戦闘体制へとうつる。


「ルーゴさんと言うんですか、ようやくお二人共お名前が知れましたよ」


 クエンがにこやかに言う。


「これから死ぬお前等にはどうでも良い事だ」


 ルーゴがそう言うと、ノーウィと共に円月輪を取り出す。


「ノーウィ、【阿】【吽】から【軍茶利ぐんだり】、【無常むじょう】まで解放するぞ」


「良いのですか?【軍茶利】はかく、【無常】はあの方の意思に背くかと‥‥‥」


 ノーウィはルーゴの言葉に戸惑う。


「‥‥‥正直、あのジジイは使わねば勝てる気がしない、謝罪は俺からするから気にするな」


 スオウを一瞥いちべつしてノーウィに告げる。


「さっきから何を言っとるのかサッパリ解らんが、前回は本気を出していなかった、と言うことかの?」


 これは想定外じゃのぅ、と呟きスオウとクエンは目線を合わせる。


「ノーウィ、【阿】!」

「は、はい兄さん!【吽】!」


 阿、吽のタイミングで構えを変える。


「スオウさんっ!」

「うむ、心得た!」


 お互いに息を併せた瞬間、二組が同時に駆け出した。


「ルーゴと言ったの!お主の相手は儂じゃ!」

「ジジイ、今度は息の根を止めてやるよ」


 スオウとルーゴが正面からぶつかった。


ふんッ!」


 スオウは烈帛れっぱくの気合と共に、抜刀から袈裟斬けさぎり、流れるようにやいばを返して切り上げ、素早く刀を引いた瞬間、三連撃の同時に放たれた様に見える突きを繰り出す。


「ジジイッ!」


 三連撃の影に隠された四連撃目の突きの1発がルーゴの鳩尾みぞおちに突き刺さり、ルーゴが睨み付けながらスオウに叫ぶ。


「だから、なんでお主は致命の一撃を受けてピンピンしとるのじゃよ‥‥‥」


 突き入れた刀をズブリと抜き、げんなりしながらルーゴを眺めるスオウ。


「貴様等とは身体の作りが違うんだよ」


「‥‥‥それはそのまま言葉通りに受け取った方が良いのかのう? 本当に人間かお主?」


「人間? 下らんな、人族はそんなに偉いの‥‥‥かっ!」


 ルーゴが喋り終わるタイミングで円月輪を左右にスライドすると、刃が幾重いくえにも増えた。


 至近距離での無作為むさくい投擲とうてきを行い、飛来ひらいする複数の円月輪を慌てて回避するスオウから距離を取るルーゴ。


「【軍茶利】ッ!」


 叫びと共に、ルーゴの両手に無数の円月輪が回転しながら現れ、ルーゴの身体を蒼白い光が包む。


「ノーウィ、魂が変換出来次第【無常】に移行するぞ」

「はい兄さん! 【軍茶利】!」


 クエンと斬りあっていたノーウィも、蒼白い光を纏まとう。


「くっ! スピードが上がってきてますね!」


 ノーウィの回転しながらの連撃に、さばくクエンが押されはじめ表情がゆがむ。


「クエン殿!」

「大丈夫です! スオウさんはそのままルーゴさんを!」


 そう叫び、クエンがレイピアを連突きする。

 その頃、少し離れた場所でティナとロナはタイミングを計っていた。


「ティナさん、何だか雲行きが怪しいですわね?」

「ん‥‥‥もう少し離れて欲しいですね」


ルーゴとノーウィは近距離でスオウとクエンを相手に攻防する為、ノーウィの捕獲に支障を来していた。


「どうしますロナさん、出ますか?」

「いえ、只でさえ此方こちらの人数が減っています、もう少し様子をみましょう」


 その言葉に、ティナは短くうなずいた。


 しばらく攻防を繰り返していた両陣営は、交錯こうさくした後、お互いに間合いを取り合う。


「ノーウィ、用意が出来た、祝詞のりとはいけるか?」

「大丈夫です兄さん、いつでもいけます」


 ノーウィはそう言うと、不思議な言葉をつむぎ始めた。


「ーー【無常】ーー」


 その言葉と共に、ルーゴの姿が変容へんようした。


「ЯЦΛΛΛΛΛΛΛΛッ!」


 ルーゴの身体は、衣服を破りながら三倍以上に肥大ひだいし、目は裂けるかの様に開かれ、発する言葉は聞き取れない発音となっていた。


「‥‥‥なんか巨大化してません?」

わたくし、お腹が痛くなってきました‥‥‥」


 影からタイミングを見ていたティナとロナが冷や汗を流す。


「おのれっ!魑魅魍魎ちみもうりょうたぐいであったか!?」


 スオウが巨体を見上げて叫ぶ。


「どうやら、何らかの力で細胞を作り替えて肥大化しているようですね‥‥‥っと!」


 クエンが冷静に分析していると、変異体ルーゴが巨大な拳を降り下ろし、クエンの居た位置目掛けて攻撃をしてきた。


 間一髪攻撃を避けると、先程までクエンの居た場所に凄まじい衝撃しょうげき轟音ごうおんひびき、土煙つちけむりが晴れた後には小規模のクレーターが出来ていた。


「‥‥‥スオウさん、想定外過ぎませんコレ?」

「儂、帰りたくなってきましたぞ‥‥‥」


 ノーウィとスオウ・クエンの間に挟まれた変異体ルーゴを見ながら二人で呟いた。


「‥‥‥作戦を少々変更しましょう、僕達二人であの巨大なルーゴさんを惹き付けて、ノーウィさんは四人に任せましょう」


「ふむ、あの小僧っ子、何故かあの場所から動かぬからの、化け物を惹き付ければ嬢ちゃん達なら何とかなるか‥‥‥のぅ」


 スオウとクエンは、ティナ達とジュディ達が別行動中と気付かずにいた。


「では、それでいきましょう‥‥‥スオウさん、能力を使えますか?僕も使いますから」


「良かろう、取り敢あえず百式から試してみるかの」


 スオウが刀を鞘におさめ、クエンはレイピアを一瞬で消して様々な生き物の頭蓋骨が付いたまがまが々しい杖を何処からか手にした。

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