第15話クリムゾンイータ―3

「僕から仕掛けます、スオウさんはタイミングをずらして攻撃を!」


 クエンが叫ぶ。


 杖を変異体ルーゴに向けると、意識を集中し始める。

 クエンの黒目が紅く染まり、二重の輪と変化する。


「ああぁっ! クリムゾンッ!」


 その掛け声と共に、杖に付いた頭蓋骨達が一斉に騒ぎ出す。


 その頭蓋骨達が一斉に杖の穂先ほさきから消え、次の瞬間二メートルはありそうかと言う程に巨大化した頭蓋骨達が変異体ルーゴの回りを取り囲み浮いていた。


「喰らい尽くせ! 我が眷族けんぞく達よ!」


 掛け声と共に頭蓋骨達が変異体ルーゴに喰らいつき始めた。


「ЯЦΛΛΛΛΛΛΛΛッ!」


 変異体ルーゴがまとわりつく頭蓋骨達を、スオウ達には聞き取れない声を荒げながら振り払っている。


「スオウさん! 百式はいけますか!」

「もう少しじゃ‥‥‥ふむ、行けるぞい!」


 スオウの瞳が紅く変わる。


「憤ッッッッッッ! 百式じゃァッ!」


 スオウが抜刀する。


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 スオウの前方に、百は数えようかと言う程の見えない残撃が真空を切り裂き、空間をも切り裂いて変異体ルーゴへと飛翔した。


 頭蓋骨達を払っていた変異体ルーゴは、その見えない残撃に気づかず、激突した。


「ЯЦΛΛΛΛΛΛΛΛッ!」


 無数の残撃に切り裂かれたその身体は、血飛沫ちしぶきをあげながら幾重にも細切こまぎれに分断された。


しかし、次の瞬間、分断された部分同士から幾筋いくすじもの筋がお互いをつむぎあい、直ぐに元の形へと戻っていく。


「‥‥‥不死性は失われていないわけですか‥‥‥」

「クエン殿!あ奴が此方こちらに来ますぞ!」


 再生を終え、頭蓋骨達を纏わせながら変異体ルーゴはスオウとクエンへと向けて走り出してきた。


「手筈通り、向こう側へ惹き付けましょう!」


 クエンが走りだし、スオウもそれに従い走り出した。


「ΛΛΛΛΛΛΛΛッッ!」


 変異体ルーゴは怒りのあまり、ノーウィを忘れ二人を追いかけた。


「ロナさん! 今っ!」


 変異体ルーゴの姿が見えなくなると同時に、ティナとロナは隠れていた岩からおどり出た。


「ΨΣθρθσοΨ‥‥‥っ!」


 謎の祝詞のりとを唱えていたノーウィは、急に現れた二人に驚き祝詞を中断して驚愕きょうがくした。


「下手な抵抗はしないでね? 君は不死身って訳じゃ無いんでしょ?」


 スオウとクエンが前回戦った考察こうさつを、断定してノーウィに叩き付けるティナ。


「くっ!下等な人族 風情ふぜいが!」


 そう言い、しかし祝詞を中断するべきか迷うノーウィは従順しゅうじゅんしてしまう。


「はい、大人しくしましょうねボク? うふふ」


 ロナがノーウィを後ろ手に締め上げ、くびもとにナイフを押し付けた。


「‥‥‥っ! ΨΣθρθσοΨっ!」

「ったく! 黙りなさい、君!」


 ティナがノーウィの鳩尾みぞおちに拳を突き刺す。


「ガッ! ‥‥‥」


「ティナさん、それは子供に対してあんまりかと‥‥‥」


 躊躇ちゅうちょなく鳩尾をえぐり込んだティナを見てロナが言った。


「いやいや! ロナさんも大概たいがいですから!?」


 後ろ手に締め上げナイフで脅すロナに言われ、否定するティナ。


「さて、どうしましょうか‥‥‥戻ってくると思います?」

「‥‥‥少し待ってから、来なければこちらから向こう側に歩いて行ってみましょう」


 予想外の展開で、戸惑とまどう二人であった。


 ティナとロナがしばらく待っていると、街の方角からスオウ達では無くジュディ達が走ってきた。


「ティナちゃん! 大丈夫!?」


「あ、ジュディさんですか‥‥‥まぁ大丈夫と言えば大丈夫ですが、そっちはどうなったんですか?」


 ティナが聞き返す。


「どうもこうも無いよ、滅茶苦茶だったよ‥‥‥」

 アルマがぼす。


此方こちらも中々に滅茶苦茶ですわよ、アルマさん」

 ロナがアルマに返した。


「‥‥‥コッチに比べたらマシだろ?」

「何があったんです?」


 ロープで手足を縛しばられ、猿轡さるぐつわを噛かまされて気を失うノーウィを注意しながらティナがアルマの言葉を聞き返す。


「帝国のいぬ‥‥‥まあ、コルセイ? って奴なんだけどさ、なんか良く解らねぇゴーレム? みたいなの出してきたんだよ」


「みたいなのですか?」


 ロナが理解出来ないと言った表情でアルマの話を聞く。


「そうとしか言いようが無いのよね‥‥‥まぁ、その二体? が訳解らない反則的な強さしていてね、大ピンチになったんだけど‥‥‥」


「途中まで聞いた感じ、その説明じゃ訳が解らないのは此方こちら台詞せりふなんですけど‥‥‥それで?」


 ジュディの話に、理解出来ないが相槌あいづちを打つティナ。


「その時、オルファノ連合の十神将? の女が現れて、コレまたゴーレムモドキのカッコいい版? が現れてゴーレムモドキ同士? で戦い始めた訳、隙を見て私達はコッチに逃げてきたって訳よティナちゃん」


ほど、解らん‥‥‥説明下手すぎです二人共っ!」


 ティナが叫んだ。


 その後、何とか二人の説明を聞いてなんと無く理解したティナとロナ。


「つまり、第三者が現れてコルセイと言う帝国の人達と戦い始めたからその隙に逃げてきたって訳ですね?」


「さっきからそう言ってるだろ、ティナちゃん?」


 アルマがティナに言った。


「説明が疑問系ばかりで要領ようりょうを得えなかったんです」


 も当たり前の様な顔で言うアルマにピシャリと言い放つ。

 その横で、ジュディがやれやれといった風に軽く溜め息をつく。


要点ようてんだけで話せないのよね、アルマって昔から」

『アンタもだよっ!』


 ティナとアルマの声が重なる。


「‥‥‥んで、そっちの小さいのが目的の奴か?」

「その片割れですわね」


 ノーウィに目を向けてアルマとロナがやり取りする。


「こうして捕獲出来たのに、何が大変だったの?」


 寝転がらされているノーウィを見ながらジュディが聞いた。


「いや、ジュディさん、捕獲は比較的ひかくてき楽に出来たんですが‥‥‥」

「ですが? 何?」


 ジュディが何かを期待している様に、目を輝かせながら聞いてきた。


「この子の兄らしき人がいきなり変身して三階建ての建物より大きい化け物になってしまい、スオウさん達が何とかこの子と引き離す為に、化け物をき付ける為のおとりになってるんですよ」


ほど、解らん!』


「いや、二人共理解は出来ないかもですが内容は解りますよね!? ただその台詞せりふ言いたいだけですよね!?」


 ティナがキレたが、ジュディとアルマは「解らなーい」と言いながら明後日あさってを向き、下手へたな口笛を吹く。

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