第11話クレイジー・クランキー

 市庁舎での話を終えた四人は、今後の事を話し合うために銀龍酒家へと移動していた。


「‥‥‥話が大きすぎて、未だに理解できないんですが‥‥‥たったの四人で帝国を相手になんて出来るんですか?」


 ティナが疑問を投げ掛けた。


「んー、厳密には四人でってより、四人の能力者を加えて‥‥‥だな」


 アルマがホットケーキを切りながら答える。


「帝国が占領した地域にレジスタンスが居てね、各レジスタンスのトップと、同時に動き出す為の話がある程度ついてるのよ」


「その辺りは私はアルマさんに聞いています」


 ロナがガトーショコラを頬張りながら答えた。


「へー‥‥‥って、ジュディさん、何でポケーっとした顔してるんですか?」

「へっ?あ、いや、別に‥‥‥」


「‥‥‥ジュディ、アンタまさか知らなかったとか言わないよね?」


 アルマがジュディを見詰める。


「えっ? そ、そう言えばそんな話をロゼッタがしてたかなぁ、とか?」


 エヘヘ、と冷や汗を流しながらジュディ。


「あっ‥‥‥アンタ‥‥‥」

 アルマが信じられないモノを見る目でジュディを見る。


 その時、店の扉のベルが鳴り二つの影が入ってくる。


「あ、スオウさん、クエンくん、お帰りなさい」


 店のカウンターに居たルーニアが二人を出迎えた。


「はい、戻りました」

「戻ったぞい‥‥‥」


 よく見れば二人の格好はボロボロである。


「ちょっ!? どうしたの二人共!?」

 スオウとクエンを見たティナが声をあげる。


「いやぁ、探してたクリムゾンイーターを見つけたまでは良かったんですが‥‥‥アレはヤバいですね」


「ふむ、アレは反則じゃ、負けるとは思わぬが勝てる気もせぬわ‥‥‥」


 クエンもスオウも、苦虫を噛み潰したかの様な表情で言う。


「時に嬢ちゃん、そこの二人は何者じゃ? 中々の気配じゃが?」


 スオウがアルマとロナを見ながらティナに聞く。


「あー、右の人がジュディさんの知り合いのアルマさんで、左の人がアルマさんの仲間のロナさんです」


 ティナがスオウに説明する。


「アルマ、ロナちゃん、右のお爺さんがスオウさんで、左の子供がクエンくんよ」


 ジュディが併せてアルマとロナに説明した。


 その後、スオウとクエンはルーニアに飲み物を注文すると四人が座る席へと向かって歩き出した。


「失礼するぞい」

「隣、失礼します」


 そう言うと二人は空いている席に座った。

 二人が席につき、お互いに近況を話し合う。


「‥‥‥まさか、ジュディさんの秘密がそんな話だったとは」


 驚いた表情で、クエンが呟く。


「その話をしたと言う事は、儂等も巻き込むつもりじゃの?」


「ええ、申し訳無いけど二人も覚醒者と解った以上、巻き込ませてもらうわよ」


 アルマがスオウに答えた。


「でも、お二人のおっしゃるクリムゾンイーター、でしたか? そちらも気になりますね」


 ティーカップを片手にロナがクリムゾンイーターについて触れた。


「ふむ、どうやっておるのかは解らぬが何度致命傷を与えたと思うても、直ぐに復活しおるのじゃ」


「‥‥‥なんなのよその反則な力、それもクリムゾンの力なの?」


 ジュディがうなる。


「僕達の発現してる能力とは別の何かだと思います、見ていた限りではですが」


 スプーンで珈琲コーヒーをかき混ぜながらクエンが言う。


「んー、帝国の話も気になるけど‥‥‥当面はクリムゾンイーターの方が問題な気がする」

「その様に思いますわ、私も」


 ティナの言葉にロナが賛同する。


「んで、逃げたクリムゾンイーターの足取りは解ってるのかい?」


 アルマがスオウとクエンに質問した。


「途中までは探知出来たんですがフューゾルの街に入った途端、探知出来なくなりました」


「‥‥‥振り出しに戻る、ってトコかぁ」

 ジュディが溜め息をつく。


「あの、少し話は逸れるんですが、ゴバの能力者‥‥‥クレイジーなんとかって人ですけど」


「【クレイジー=クランキー】、クランキー=レトロさんの事でしょうか?」


 ティナの質問にクエンが答える。


「そう、クランキーさん、その人に力を借りる事は出来ないんですか?」


「‥‥‥難しいじゃろ、むしろ襲われるんじゃなかろうかの?」


 難しい顔をしてスオウが答える。


「クランキーさんには、僕達もクリムゾンイーターの情報の為に接触はしたんですが」


「あやつは狂犬じゃの、自分以外は敵でしか無い、慈悲の欠片も無い様な男じゃ、聞いた話だけでも日常の中で悪事をしていない時間の方が短いのではないかと思うてしまう程の悪行の数々じゃ」


 クエンとスオウが苦虫を噛み潰した様な表情で言う。


「余程の事が無い限り、お嬢ちゃん達は近付かぬ方が良いぞ?」


 真剣な表情でスオウが忠告してきた。


「な、なんかとんでもない奴みたいね、クランキーって奴は‥‥‥」


 スオウ程の強者にそこまで言わせるクランキーに、ジュディは冷や汗を流しながら言った。


「まぁ、クランキーだかクッキーだか知らないけど、仲間になりそうに無い奴の事はどうでもいいでしょ」


 アルマが話を締める。


「ですね、それよりもフューゾルに潜伏していると考えられるクリムゾンイーターへの対処を考えましょう」


 若干乾いた喉を珈琲でうるおしながら、クエンが話を戻した。


「街中でなら、そこまでハッキリと襲っては来ないのですよね? ゴバでの遣やり口を聞く限りですが」


 ロナが質問する。


「ですね、人通りが少ない所ではその限りではありませんが」


 過去の場面を思い出しながらクエンが答える。


「死なない化け物相手に後手に回ってたら何時かやられるでしょ、なら‥‥‥」

「‥‥‥死なないならば生かして捕まえる、それもこちらから罠にかけてって所ですか」


 クエンとアルマはニヤリと笑いあいながら、お互いを見つめた。


「捕まえるって、倒すのすら難しい相手をどうやって捕まえるの?」


 ティナが聞いてきた。


「クリムゾンイーターは恐らく兄弟の二人組だと思われます」


「そうじゃの、あのちっこいのがデカイのを兄と呼んでおったの」


 クエンの言葉にスオウが続けた。


「弟の方は、兄よりも身体能力が遥かに劣っていました、それでも脅威的でしたが‥‥‥」


 そこでアルマが入ってきた。


「2対2でいい勝負だったなら、数を増やせば何とかなるって寸法ね」


「実際の所は解りかねますが、スオウさんに兄を足止めして貰っている間に残りのメンバーで弟を生け捕りにして、捕まえた弟は人質として使い兄を脅します」


 クエンがスプーンを回しながら作戦を説明する。


「やってる事が悪役ね」


 ジュディが至極マトモな意見を言った。


「‥‥‥では、この作戦で行きましょう、六人で固まって動いては警戒されますので、僕とスオウさん以外は隠れてついてきてください」


 ジュディの言葉をスルーして、クエンが作戦実行の号令をかけるのであった。

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