誰だっていいかっこしぃ(上)
ばったりと思わぬ遭遇を果たした秀樹と藤堂。
なぜこんなことが起こったのかというと、話は週末金曜日の放課後まで戻る。
イベント()が終わったあとに藤堂のほうから柊に『勉強を教えてほしい』と頼み込んだのだ。
普段ではあり得ない申し出に少しばかり驚いた柊だったが、その事自体は大変よいことだったので快く請け負った。
で、まぁちゃんとした勉強会なら長く時間を割いてやるべきだとどちらからともなく提案して
挙げ句柊が『何度か(複数人で)家に遊びに来てたし(二人きりでも)大丈夫でしょう』と言う藤堂への信頼(危機意識の欠如)から柊宅での勉強会に。
あまりにも急速に接近する距離感(本人からすれば)、棚からぼたもち状態の藤堂は自宅に帰ってから小躍りするほど喜んだ。
ここまでは順調だったのだ、
あとは当日、勉強の合間に他愛のない話をしつつ距離を詰めていこうと思っていたのだが…………。
「この方程式はまずー」
今目の前で分かりやすく数学を教えているのは勉強会を開いた柊、ではなく突如現れた年上の男子ー相川秀樹。
目当ての少女ー柊は対面に座り自らの課題をこなしていた。
隣には教師役として秀樹が、二人を効率欲見るための配置である
ーこんなはずでは…………もっと甘い展開を期待してたのに…………。
「聞いているのか?さっさと問題に取り組め」
「ウス」
そんなよこしまな考えを見透かされ、勉強に励めとせっつかれるのだった。
対して、急遽参加することになった秀樹も、今の状況を苦々しく思っていた。
今まで、柊とは弟の優希を通しての交遊が主だったこともあり、彼女と合うときは優希、もしくは一番下の正希と一緒だった。
今回、はじめて自分から会いに行き二人っきりという憧れのシチュエーションも…………
と夢想していたところでまさかの野郎の横入り。
ーいくら友達だからといって保護者のいない自宅に異性のみを招くのは、兄ちゃんどうかと思うなぁ。ー
妹分の情操意識に少し危機感を抱きつつも藪蛇になりそうだと、秀樹は口をつぐむ。
なお幼馴染みである優希、そして弟の正希は勝手知ったる我が家のごとく遊びに来ていたりする。
それこそ仲のいい幼馴染み、だから許されるというものだが。
そんなわけで柊の様子を見に来た秀樹の心中も、やはり穏やかとは言いがたい。
彼なりに今後の計画を立てていたし、それに久々に会えたのだから頑張りすぎる妹分を存分に甘やかそうとも思っていた。
予定外の客人のお陰で計画の大幅修正が必要になったと心のなかで嘆息している。
要は男子二人の共通認識として、『こいつは後々障害になる』そして『早めに気づけてよかった』の二点。
水面下では目の前の恋敵をどう出し抜くか策謀を巡らせているのだ。
当人にはばれないようにー!
「そういえば、いつのまにかに呼び方変わってたよなぁ。」
そんな風に口火を切ったのは、秀樹だ。
「ーえっと、いきなりどうしたんですか?秀樹さん。」
「最近会えなかったのもそうなんだけど、なんだか距離感を感じてなぁ。」
質問の意図がつかみかねている柊に、秀樹はあえて寂しさを強調するように苦笑を浮かべて見せた。
どうやら普段からの親密さを目の前のライバルに見せつけて気概を折る作戦に出たようだ。
効果があったのか柊は少しだけばつが悪そうな顔をしている。
そこに今度は待ったをかける形で藤堂が割って入ってきた。
「はッくだらねェ。呼び方なんぞどうでもいいじゃねェか。」
「君には分からないかもしれないが、呼び方ひとつでかなり印象が変わるからな?それにー」
話を振られた柊をよそに、険悪になっていく男二人。
彼女は今回初めて会ったはずの二人がどうしてこうも剣呑な雰囲気になるのかついぞわからずじまいだ。
基本的に優希がいる状況でしか柊に会いにいくことがない男二人。
しかし奇跡的にバッティングすることがなかった
ひとえに優希が「あ、この二人反り合わなさそう」と思ったことも多分に含まれているだろうが。
「やめてよ!お、お兄…ちゃん……。」
かいしんのいちげき!
目の当たりにした藤堂と秀樹が目をそらすように勢いよく体を捻らせる!
ついでに片手で顔下半分を覆い、もう一方の手で胸を自らの胸を掻き抱いていた。
「な、なによ二人して、似合ってないからって失礼じゃない!」
「いや違ッ………そんなことはない、ないから…………っ」
羞恥で顔を真っ赤にする柊に慌てて間違いを訂正し宥めようとする秀樹。
藤堂は衝撃が強すぎて忘我の域に至っているー。
普段強気で溌剌とした少女が、しおらしく恥ずかしがりながらも、懸命に甘えようとする表情。
常時と正反対の仕草にノックダウンされたのだ。
いわゆるギャップ萌えというやつだ。
そして最後に羞恥に顔を染めながら怒り気味に自嘲に入るのもperfect。
この場に秀樹の兄弟がいたらスタンディングオベーションまったなしである。
「もうっ一寸お花積みに行ってきますね!」
そう言いながら頬を染めて立ち去る姿まで堂に入っていたとか―
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