すれ違い、読み違い
今回は相川兄弟-優希と秀希が問答していた休日の話、その続きをはじめよう。
時系列的に言うと、相川の告白から始まりそれがこじれて恋愛対決なぞというものになり。
そしてそれから日もたたない内の柊のラブレター騒動であった。
この間およそ一週間足らず、平日に始まり平日に終わるという濃いのか薄いのか微妙な一週間を過ごし
ついでに誤解も解かれることなく週末がやって来てしまったところ、幼馴染み二人の仲は面白いくら……ゲフンゲフンこじれてしまっていた。
そりゃ出会い頭にグーで殴られればいい気はしない、一部を除いて。
とはいえ理由もなく手を出す輩ではないのは幼馴染みである彼自身がよく知っていた。
でも、『先に手を出して無視しているのはあっちだし、こっちから下手に出るのはなんか癪にさわる』という思いのもと、いままで行動に写さなかったのだ。
そんなときである。
「優希、お前ちゃんと勉強してるのか?」
相川兄-秀樹がおもむろに尋ねてきた。
非難するような声音ではなく、あくまで確認のためだけ口に出したかのようだ。
その問いかけに優希は上の空のまま、頭を掻きながら答えた。
「あー…うん、ちゃんとしてるよ?もちろん」
「そうか、たまには俺が見てやろうか?秋穂と一緒に」
「えー、いやいいよめんd…兄ちゃんだってやることあるんだし」
どこら辺がちゃんとしているのか、そこら辺は各個人の裁量に任されるところだろうが、彼の生活態度を知る人からすれば見なくても嘘だとわかるだろう。
もちろん、家族でもある秀樹ならわかりきっていることのはずだがー
「そうか、邪魔したな」
「え、あ、うん。-今日はやけにあっさりだね…。」
いつもなら小言の二、三言、(優希にとっての)最悪マンツーマンでの缶詰めにされるところを、何故かあっさりと引き下がってしまった。
それどころか聞き届けない内にスタスタと通りすぎてしまう始末。
思わずポカンと間抜け面をさらして見送る優希。
「……あ、兄ちゃんに秋穂の様子をみてもらえばよかった」
そう呟いても後の始末。
不気味さと一寸した後悔に、後ろ髪を引かれる思いで優希もその場をあとにした。
で、ここからが物語の続きである。
多くの店が開きはじめる頃、近くのスーパーでお菓子棚を物色する学生の姿があった。
目の前においてあるチョコレート菓子を手に取りウンウンと唸ったかと思うと、そっと戸棚に戻しまた別のお菓子を手元に寄せる。
そしてまた悩むように唸ったあと迷いを隠せない手で棚にもどす、そんなことを繰り返す男の姿があった。
道行く人はほとんど興味も持たずそのまま通りすぎて行く。
すこしだけ興味をもった少数は「何をお菓子ひとつに悩むのだろう」とか「ダイエット中なのか?」等と憶測したりもするが、
やはりというか、ふと自分の用事を思いだしすぐに男のことなど視界の隅へとおいやった。
さて、その件の青年は何故そうも悩んでいるのかというと、その答えは彼の呟きの中にあった。
「こっちの高めなチョコレートにするか…?いやまて量が少ない気がする、なにより高価すぎると遠慮されそうだしな……」
そう呟いた彼の手には、いわゆる贈答品として使われそうなお洒落な菓子袋があった。
要は自分が食べるためだけに買うのではなく、贈るためのお菓子をしなさだめしていたようだ。
いわゆる友達の家に遊びにいくと、ときどきおかんが持たせるようなもの、といったほうがより正確かと思われる。
さらに、
「いや、でも女の子はあんまり食べないよな…じゃぁこっちのちいさいのでも……」
何てことも言い出すように、これからいくのは異性の友人宅である。
しかも、そういう意識もしている相手、ということらしい。
別にその家に上がるのはこれがはじめてというわけではないのだが、アポなしであることと時間が空いたのも合間って少々気まずいようだ。
それから考え込むこと数分、彼の手にはお菓子の詰め合わせ一袋があったという。
そんな彼が次に向かったのは自宅から一寸だけ離れている10階建のマンション、その一室。
扉の前まで足を運ぶと一度立ち止まり彼は身だしなみを整え始めた。
しかし几帳面な正確なこともありそこまで念入りに見直さなくともキッチリ決まっているのだが、まぁこういうのは気持ちの問題もある。ようは心の整理の時間でもあったのだから。
そして余裕と勇気が湧いたところで一度深呼吸し、ついにそのインターホンに手をかける。
ピンポーン、と小気味のいい音がまるで自分を歓迎しているようだと彼は思った。
今なら神様だって信じられる、とも。
音が響いて間もなくして室内から家人が近づいてくる足音が聞こえてくる。
そして何のためらいもなく開け放たれた扉から、件の少女との対面を果たすのだった。
「はい、どちらさまで…秀希さん!久しぶりですね」
「あ、ああ久しぶりだな秋穂。元気にしてたか?」
扉から顔を出したのは、青年の姿を確認して満面の笑顔を浮かべる柊女史。久しぶりの対面だったのもあって気持ち懐かしさで嬉しそうだ。
対する秀樹も似たような理由でいままでの緊張した面持ちが少し和らいだような気がする。
「秀樹さん、今日はどうしてここに?」
「え、あー…………久しぶりに顔が見たくなってな?あと受験中に世話になった礼でもと」
そう言うと秀樹は道中で用意してきた菓子袋を掲げた。
無難に手頃な値段のお菓子詰め合わせを選んだようだった。
しかしどうやらその選択は的はずれではなかったらしく彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「喜んでくれたならよかった。正直女の子が喜ぶもの分からなくてな……」
「秀樹さんからの贈り物ならよほど変なものじゃない限り嬉しいですよ。」
信頼しきったような微笑みを見せる柊。
実際、長年近所付き合いのあった家庭同士で相手の人となりはそれなりに以上に理解している
そのうえで柊は秀樹のことを尊敬できる年上として見ているし、頼りになる、自然体で付き合える兄貴分として大切に思っていた。
逆説的に言えば、人として尊敬できるが異性として見られてるかと言えば…………びみょうなところであった。
多少意識はしているもののなんというか、憧憬の思慕と恋慕はまた別なのだ柊にとっては。
しかして相手方がどう思っているかは別なのである。
ー嬉しそうな彼女の笑顔を視て顔を綻ばせる秀樹の好意は、割と分かりやすいほうではあるのだが…………。
残念なことに、仮とはいえ『兄妹の情』というのはいささか分厚かったようだ。
柊は気づかないし、秀樹は関係が壊れることを恐れ、今一歩を踏み出せない。
「気持ちの問題だからな、これは。…ところで、今ひまか?よければ勉強見てやろうかと思ったんだが。」
素直に思いを口にできたら、そんなもどかしさのなか、彼は今日の本題を切り出した。
もとから菓子折はついでで、勉強を見るという名目で柊と休日をすごそう、というのが今日の目的だった。
もちろん、やるからには今はまだ大切な妹分のため手を抜かない。
それはそれとしての久々の交流を楽しもうというわけである。
「え、でも」
と、そんな魂胆を知ってか知らずか柊はその申し出をためらう。
わざわざ貴重な時間を使わせてもいいのだろうかと遠慮ぎみなのだ。
その遠慮をすかさず察知した秀樹は言葉を紡ぐ。
「なに、こっちはやること済ませた上で暇になったから来ただけだ。あ、なにか用事があるんならそっち優先でもいいぞ」
あくまで柊の予定にあわせると付け加えて、自らも暇をもて余していると告げる。
それを聞いて彼女はそういうことならとその申し出を快諾した。
内心でガッツポーズをする秀樹。
そう、ここまでは順調だったのだ。
「ありがとうございます。正直助かりました。今ちょうど勉強会をしてたところなんですよ。」
「ん?勉強会?」
少し引っ掛かったものがあるものの、彼はそのまま柊についていく。
そしてダイニングまでたどり着き、扉を開け放たれたことでその違和感の正体を目の当たりにするー。
「おそかったな柊、なにかあった…………」
ひょっこり顔を出したのはちゃぶ台の上で問題集とにらめっこをしていた藤堂。
今回が初顔合わせの二人
目と目が合う瞬間二人は気づいた。
ーこいつは敵だーと
「待たせてごめんなさい、藤堂。ちょうど頼りになる人が来てくれたわ。…………どうしたの二人とも?」
柊がお茶請けを持って戻ってくるまで冷戦状態が続いた。
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