この思い、君に届k(下)

 一方その頃-

 柊が告白されている最中、幼馴染みの優希はと言うと。


 まだ、クラスメイトたちを探す旅に出たままだった。


 極めて平均的な市立中学校であるから、広さも構造も普通科つ分かりやすいもの。

 その上三年間通いつめていたのだからそれこそかって知ったる我が家のごとし。


 なのに何故見つからないのか。

 簡単な話だ。

 それは彼が無意識にある場所を避けているから。


 その場所とは-


「あの、すいません。三年生のかたですよね」


 唐突に後ろから声をかけられ、優希は振り替える。

 するとそこには小柄な女の子が立っていた。

 長い黒髪をまっすぐ伸ばしすこし野暮ったい印象持つ少女だ。

 背丈からしてまだ入ったばかりの新入生のよう。


「そうだけど、どうしたの?なにか困ったことでもあった?」

「はい、できれば手伝ってほしいことがあって」


 優希はまだ入ったばかりの後輩に怖がられないように優しく返す。

 すると少女は軽くお辞儀をして助力を求めてきた。

 その様子からして優希を警戒しているわけではないが、どうも落ち着かない様子。


「もしかして誰かとはぐれちゃったのかな?」


 そうあたりをつけて優希が問い掛けると、少女は少しだけ驚いたように目を見開き、なにかに納得したように小さく頷いた。


「はい。私の兄…なんです、探すのを手伝ってほしいのですが…」

「わざわざ俺に声をかけるってことはそいつも同級生ってことだな…問題は俺の知ってるやつかどうかなんだけど」

「それは問題ないですよ」

「え?」

「だって、今の生徒会長ですから。」



 少年なりの告白を一身に受けた柊。

 それから、一時の静寂が流れ-


「…?」

「ー?」


 柊はあざとく首をかしげた。

 それは別に先ほどな告白の意味が分かりかねてるからではなく、いやー半分理解できていなかった。


「えっとーそれだけ?」

「おや、これ以上ないほどボクは簡潔かつ大胆に攻めたつもりだけど?

まさか意味がわからないとは言わないよね?」

「もちろん『何処に?』なんてベタな返しはするつもりはないけどね、でもそれだけ?」

「そ、それは-」


 柊はあともう一声ほしそうに少年の返答を待つ。

 対する少年はその意味を-理解できていたのだが。


「す…」

「す?」

「君は素敵なヒトだからね、美しいボクと一緒にいるべきなのさ!」

「………」


 柊の少年をみる目が恋に惑うものから、出来の悪い子供をみるソレへと変わっていく。

 明らかに先ほどの発言が原因なのは誰の目からもわかるのだが、そこに口出しするものはいない。

 否、彼だってわかっている。理解っているが気恥ずかしさと見栄が邪魔をして口に出せないのだ!


 せめてこれが二人だけの空間ならまだしも、周りを大多数の人に囲まれ純粋に好意を口にするのは至難の技だった。ー自業自得なのだが。


「私たち受験生だし、きっとお互いのためにならないと思う。

だから、ごめんなさい。」




 そんな断り文句が柊の口からでるのは、最後の発言からそう時間はかからなかった。

 ここに、彼の初恋は破れ去ったのだった。

 めでた……もとい憐れ。


 告白に失敗し顔を赤くして半泣きになりながら走り去る少年。

 それを少し申し訳なさそうに見つめていたのだが、完全に見失ったと同時に思考を切り上げる。

 既に今晩の献立をどうするか、なんて呑気なことを考え始めたとき



「柊、おれはおれは!?」


-また勇者バカが表れた





「たぶんですが、兄さんは裏庭にいると思うのですよ」

「だろうねぇ…俺も今まで見なかったし」

「というわけで、裏庭まで道案内をお願いしてもいいですか?」


 と、いうことで優希と一年生の少女は連れだって裏庭へ向かうことになった。

 え、端折りすぎだって?

 要は、優希がほとんどを探索しつくしてしまったおかげで残されたのは裏庭くらいだったということと、ついでに一年の少女-八坂マナからもたらされた情報も相まってほぼ確定事項となっていたのだ。


 裏庭と言えば今まさに修羅場真っただ中であるのだけど、そんなの彼らが知る由もなく、ついでに優希の頭の中からも柊の忠告が見事にすっぽ抜けていた。


 そこで道が分からなくて困っているというのなら、暇だしついて言ってもいいかなというのが今の彼の心境である。


 そして、黙ったままというのも空気が重くていやなので雑談しながら歩いていく。


「そっかーアイツの妹かー今まで聞いたことなかったけど、こうして目の当たりにすると何で言わなかったのか解るわ」

「何故です?」

「そりゃ下手に紹介して悪い虫くっつかれたくなかったんだろ。可愛いし」

「はぁ…私が可愛い、ですか。始めて言われました。」

「おおっと度が過ぎる謙遜はいけねぇなお嬢ちゃん。下手に敵を作りかねんぜ?」

「けんそん、ですか?」

「んーと、あんま自分を下に見んなってこと。ケンカ売ってると思われてもやでしょ」

「あ、いえそういうことではなく、ほんとに一度も言われたことなかったのですよ。」

「ええーそりゃないでしょー。少なくとも親か兄貴には言われるって絶対。」

「可愛いは言われたことないですけど、『強い子』『お前なら勝てる』だとかそういうニュアンスは何度か」

「八坂ん家ぇ…それ女の子にかける言葉じゃないよ…」


 すこしだけ八坂妹の家庭内事情が気にかかった優希。

 ただ彼は割りと空気の読める男、

 あまり他所さまの事情に割り込むべきではないと頭を切り替えた。


「まぁこれからはそう言うところも自覚しながら人と付き合わないとね。特に男子との付き合いとかな」

「例えば?」

「甘いことばに騙されない、ほいほいと付いてかない…とか?」

「なんだか不審者の扱いみたいですね」

「不審者…いいえて妙だな。思春期の野郎共はいつだって奇抜で悪なことに夢中だからな。勿論俺も。」


 そういって優希は人の悪い笑みを浮かべる。

 そしてわざと驚かせるように両手を広げ、襲うようなポーズをとった。

 端にまだ幼い少女をからかってやろうというのが半分、あとは一寸した親切心による忠告。


 ホーラタベチャウゾーだなんて棒読みにもほどがある演技だが、背丈の差もあり少女にはそれなりの迫力があるはずだ。  


 それでも彼女は顔色一つ変えることなく


「大丈夫です、あなたがそんなことするはずないですから。」


 と言う。

 あまりにも無防備な笑顔を向けられ、思わずキョトンと呆ける優希。

 続けて


「兄がいってたんです。『困ったなら相川優希を頼るといい。アレは一年間こきつかわれてドM精神に目覚めた生粋のパシリ生物だから』って」

「一寸八坂のお兄さーん!?そんな風に見てたの!?」



 あげて落とすという高度な話術を巧みに後輩に使われ、思わずノリツッコミを披露する先達の姿があったそうな。


「あ、いえすいません。すこし誇張していいました。本当は『親切心の塊、学校一の安全生物だ』です。」

「あー、それならまだ……いやまだ微妙に馬鹿にされてる気がする」


 端からみれば年下に良いようにからかわれているように見えるが、はてさて彼らの心情はどうなのか。

 少なくとも少女は申し訳なさそうにしてたし、優希は逆にあまり気にしていないように見える。

 剣呑な雰囲気になってないから、問題はないのだろう。


 そんな中優希は、一つ面白い考えも浮かんだようで指をならしていたずらを思い付いた子供のように笑うのだった。





 

「あのね、貴方ちゃんと意味わかってる?」


 裏庭の時間は少し遡りちょうど一度区切った場面まで戻る。


 唐突に間に入ってきた一つ年下(二年生)の少年をみて、彼女は頭痛に苛まれたかのよう頭を抱えた。

 そんな彼女など知ったことかと後輩は続ける。


「付き合ったらたくさん一緒に遊べるんだろ?」

「いやまぁうん…その認識は間違ってはいないんだけど、ないんだけどね?」


 どうやら本当の意味まで理解できておらず、しかし惜しい間違いをおかしていた。

 まだ思考的にお子様気分が抜けていない学生なのだった。

 

「あー、あのね。どちらにせよこれから1年間はあまり遊べないの。受験があるからね。だから、その言葉はもっといい別の子に取っておきなさい」


 などといい話ふうにまとめてやんわりと断-


「ならば柊さん!吾輩と一緒に難関校合格をめざしませんか!?」

「――――」


 ろうとするも間髪入れずに次の告白が柊をおそう!

 不測すぎる事態に思わず白目をむきたくなるのをこらえて、一言


「ごめんなさい、私もう受けるところ決めてるから。あと個人的に迂遠すぎるわその言い回し。」

「ノォーウ!」


 それはもう、流れに身を任せながら断っているようなものだった。

 実際に好みのタイプから外れていたし断り文句も本心なので問題ないが。

 

 -あるとすれば、三人も立て続けに告白されたことで、一種の流れが出来てしまったことだろう。



「あ、ああああの柊さん、ずっと前からすすす好きでした、付き合ってくだしゃい!」

「-ありがとう、でもごめんなさい。貴方なら私よりも素敵な人が見つかるわ。まずは自分に自信をもって、あと今度は自分からも動くこと。」

「は、はい!……ぐすっ」

「柊どん、好きなんだな。おいと付き合ってほしいんだな。」

「ごめんなさい、それと貴方は少し運動しなさい、見てくれ的にも健康面にも。」

「それは手厳しいんだな。」



 何故か四人目、五人目とたえず続いていくのを見るうちにこれなら俺たちもいけんじゃね?

 とシャイボーイズが奮起し始める。

 特に最後の二人ースクールカースト的に最下層ーが割りと好感触だったことも要因の一つとなりー



「じゃあおれも!」

「抜け駆けすんなや!次は俺だ!」


 恋にシャイな野郎共が柊に群がり始めたのだ。




 ただ、宜なるかな……すでにこの場の雰囲気は、アマイモノからかなり遠ざかっていた。




「アイラブユー!キャンアイゴートゥアデート!」

「NO thank You.

Speak in their native language if you can't speak english.」

「え、え?」

「すっきなんだ好っきなんだ」

「真面目に言うのが恥ずかしいからってリ○ム○国ネタに頼らない!」

「こなぁぁぁぁ」

「いまは冬じゃなくて春だし、そもそも歌うんならもっと雰囲気考えなさい台無しじゃない!」


 もうみんな、恥ずかしさやら少しでも気を引こうとするのやらで奇抜な告白をしようと躍起になり

 される側はネタ全振りの告白なんぞ茶化されてるの変わらないと、一刀両断に斬り伏せる。


 端からみればまるでお笑いのオーディション会場だった。


 その時である。 


 兄とクラスメイトを探しにきた優希たちが裏庭についたのは。


「何でこんなところに長蛇の列が……?」

「いやー、俺にもわかんない!でもスッゴい楽しそうだな」


 八坂妹は訝しげに首をかしげ、隣で優希が面白そうだとカラカラと笑う。

 

 

「前の方が騒がしいですね……あ、見てください彼処に兄が……て優希さん?」


 辺りをうかがっていた八坂妹がお目当ての人物を探り当てたようだ。

 だがしかし、今度はここまで来た相方の姿が見えなくなる。

 どこに言ったのかと辺りを見回すと……いた。



「いつの間に列の中へ……もう半分まできてる」

「マナ、どうしてこんなところに?」

「ひゃい!?」


 突然かけられた言葉に反応し可愛らしい声が木霊する。

 声をかけた男子生徒はその声に逆に驚き、一部の生徒がなんだなんだと悲鳴の場所に目を向けていた。


「に、兄さん。いつの間に」

「いつってついさっき。

それにしても、いきなり声をかけたのは悪かったけど、ソコまで驚くことかな……」

「まだ声をかけられることになれてないのです。そのあたりは察してください。」


 非難の目で兄を睨みむくれた顔をつくる妹。

 それ見た兄はばつが悪くなったのか頭を掻いて苦い顔をしている。


「…ごめん。ところでどうやってここまで来たんだ?方向音痴だったお前が」

「兄さんが言ってた優希さんにたのんだんですよ。ほらいまあそこの列に……」

「ーんなっ!?」



 今度は兄が素っ頓狂な声をあげ妹の指さす方へ視線を向ける。

 するとそこには列に並びながらウキウキと待つ相川祐樹少年の姿が。

 すでに列の前のほうまで食い込んでいて柊との会合はもう間もなくといったところ。

 これは八坂兄にとって思わぬ事態に転がっていたようで声をあげてから少しの間思考が停止。

 そして動き始めたところで第一声


「何やってるんだあいつ!?」


 であった。


 ちなみにまだ双方互いのことに気づいていない模様、それが良いことなのか悪いことなのかはさておき。


 八坂兄は困惑していた、混乱していると言い直してもよい。


 このまま見てるだけでもきっと喜劇的なすれ違いの末いつもの夫婦喧嘩(笑)が始まるだけだろう。

 それ自体、少なくとも彼には被害は及ばない。

 さりとてなにもしないという選択肢はなく、しかし何をすればいいのかわからない。


 その間にも列は進み、ついでに柊のボルテージは告白大会もはやわるふざけのいきのせいでぐんぐんと上がっていく。


 -そもそもなんで俺がこんなに悩まなきゃならないんだ?ー


 八坂兄がついには根本的な問いかけにまで達し思考の迷宮に踏み込んだ頃、事態は終盤へと差し掛かっていた。


「君のことが好きすぎて、耳が……こんなになっちゃった!?」

「ネタが古すぎ関連性無さすぎはい次!」

「ネタ切れおわた/(^o^)\」

「好きです罵ってください!」

「ふっざけんじゃないわよこの変態!」

「ありがとうございますっ!」

「なぁなぁこれなんの行列?」

「あんたはいつも口が軽すぎるわ優希ィ!」

「ひでぶ!?」


 唸る剛拳、思わず歓声をあげる野次馬。

 そして空へと飛び立つ一人の少年…。

 勿論最後のは誇張したが、気持ち横に2回転してそのままKO。


 そして一発ストレス発散したことによりすこしだけ考える余裕を取り戻した柊は一言


「あれ!?ついさっき勢い任せでひどいこと言ってなかったかしら!?」

「気にするところはそこじゃねぇと思うぞ……」


 息を切らす柊の横にいつの間にいたのか藤堂がボソッと口を出す。


 ひとつ付け加えるなら、あの雰囲気での発言ならある程度のことは許容範囲であろう。

 少なくとも楽しんでいた輩が多いこと多いこと。


 しかし優希の番を最後に場がしらけはじめ

 後から入ってきた八坂兄と藤堂主導のもと、今回の騒動はお開きとなった。



「……え?なんで俺殴られたの?」


 そんな少年の疑問は、誰も心配こそすれ答えることはなかったという。

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