第11話なまえとあいすと。
木更津広恵。それがキロの本名だ。わりと普通の名前で、最初それを知ったとき、キロがその名前だと認識するのに、そこそこの時間が必要だった。まぁ、今でも違和感がすごいから、なんとなく名字でも、名前でもなく、彼女がよくゲームのキャラの名前や、ハンドルネームで使う『キロ』と呼んでいるんだけど。
「なに?」
ともかく、名前を呼ばれたキロは、やや不機嫌にそう返す。まぁ、そりゃ呼ばれりゃ答えるか。自己紹介をしていなかったキロだったが、一応これでこの場にいる全員分の顔と名前が一致したわけ、か。
「いや、まぁ、なんだ。 これからよろしくー的な?」
なんとなく、誤魔化すような口調になってしまう。さっき溢れ出しそうになっていた感情は、どっかいったし、それが何だったのかすら、もう思い出せそうにねー。俺はなんだかんだ、熱しやすく冷めやすい性分なのかもなー。
「よろしく、キロさん」
ちょい敬語まじりでサキちゃん。
「あー、いいよ。 それと、敬語とかは使わんでいいぞ。 違和感と距離感がやべぇ」
キロがいつもの調子でそう言う。年は一つしか違わないのだが、なんとなく話し方とか大人だなぁって思っちゃうのは、俺の偏見なのだろうか?
「うし、とりあえず、アイス食べよーぜ」
このまま、微妙に話してて、買ってきたアイスのことを忘れ去ってしまいそうだったので、提案。キロもサキちゃんも同意を示してくれたので、俺が袋からアイスの箱を取り出して開封。そして二人に配って、俺も一本手に持ち、残りのアイスは、キロの冷蔵庫へとしまいに行った。
「いただきまーす」
と、サキちゃん。つられて俺も「いただきまーす」。キロさんは無言でアイスにがっつく。
「そーいえば俺、ずっと『サキちゃん』って呼んじゃってたけど、呼び方変えたほうがいい?」
そう、この娘はサキちゃんではなかったのだ。しかし、サキちゃんは、「いいよそのままで」と、ニコニコ。友人達からはそう呼ばれているので、それでオッケーだそうだ。なんか、良かった(笑)。
「これ何本入りだっけ」
手でアイスの棒をもてあそびながら、キロが聞く。え?もう食べきったの?はやくね?等、色々浮かんだけど、全部言わずに、「6本」とだけ答えた。
「じゃー、残り3本か……。 たーべよ!」
そう言って、キロは先ほどしまったばかりのアイスを全て出して来た。こいつ、まじか。
ちなみに俺のアイスは、まだ半分くらいは残っている。サキちゃんも俺と食べる速度は、さほど変わんない。
それに、一口ごとくらいに、俺とサキちゃんは言葉を交わすから、自然と同じくらいの速度で進むのだろう。そうやって、また、なんとなく話している間も、キロのアイスは、一本、また一本と順調に減っていって、残り一本となっていた。
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