第10話じこしょーかい。

「うっす」

ピンポンもせずに扉を開ける。ちょっと、キロの「おっせぇー!」とか期待したけど、実際に帰って来た返事は、「あーい」と、逆に塩対応で拍子抜け感がハンパじゃねーです。

「あ、おじゃまします」

ぺこり。サキちゃんはお行儀よくお辞儀をする。

「ん、とりあえず、入ってドア閉めて。 冷房逃げる」

「冷房は逃げねーよ。 冷気ね、冷気」

「揚げ足をとるな」

「アイテッ!」

ゲームのコントローラー投げられた。あの持つ所が膝あたりに当たって、普通にいてぇー。サキちゃん引いたんじゃね?そう思ってサキちゃんの方に目をやると……!?こいつ、笑ってやがる。「仲いいんだね」といって笑っていた。まぁ、悪くはないんだけど、今のを見てそー思うのかぁ……。

キロに反撃をしたいところだけど、冷気が逃げるのは俺としても避けたいところなので、それ以上は何も言わずにドア閉めて部屋にあがる。サキちゃんも続く。

部屋の中央にあるテーブルにさっき買った袋をバサッと置いて、チラッとサキちゃんの方を見ると、彼女は靴を揃えていた。なんと、適当に脱いだ俺の靴まで。なんだか恥ずかしい。

「あー、悪い」

照れ隠し的な感じでサキちゃんに声をかけると、「癖だから」という言葉とニコニコとを返してくれた。すっげぇいい娘。

で、サキちゃんは、てててっと、俺とキロのいる部屋まで来て、「はじめまして!」っと、自己紹介をはじめた。そーいや、フルネーム聞いてなかったなぁー。

「杉崎美華です! 同じ二回生なので、仲良くして下さい!」

そう言った。……ん?美華?みか?ミカ?え、サキちゃんじゃなくね?そう思って聞いてみると、『杉崎』の『崎』から『サキ』と呼ばれるようになったらしい。主に友達間で呼ばれるあだ名なのだそうだ。まじかよ。

「ずっと『サキ』って名前だと思ってた」

へへへー。って、笑って誤魔化しとこ。なんかめっちゃはずいぜー。

あ、そーいや、俺の名前も言っておこう。サキちゃん間違ったままだったし。

そんな考えで、「じゃあ、おれも」と、適当に自己紹介してみると、サキちゃんも驚いていた。いや、まぁ、ずっと間違ったままだったし、訂正するのも許されなかったから、仕方ないっちゃ、仕方ない気もするけど。

で、キロも自己紹介するのかと思ったけど、しなかった。というか、ゲームの方に夢中で、自己紹介を聞いてすらいなかった。どんだけFPSにのめり込んでんだよ。こいつ。

「あ、しんだ」

存外あっさりした死亡宣言を聞いて、画面をみてみると、そこには青空と、砂漠が広がっていて、目の前には二桁はいるであろうゴブリンの集団。そう、キロはRPGっていた。

こいつ……。俺の中に色々な感情が溢れ出しそうになったが、それをすべて黙って呑み込んで、ひとこと。

「木更津広恵ぇー!」

この時、おそらく初めてであろうキロの本名を、しかもフルネームで叫んだのであった。

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