第3話

「本当にびっくりしちゃった。会うの何年ぶりかしら、高校時代の先生なの」

 彼女はとおるの隣に腰を下ろすなりそう言った。それからようやく陽介ようすけに気づいた様子で、「ごめんなさい、初めまして。私、義山よしやまみおって言います」と微笑んだ。

 上品な物腰だが、まだどことなく少女らしさを残した、憎めない感じの愛嬌がある。切れ長の大きな瞳と弓のようにはっきりとした眉が印象的で、陽介も自然と笑顔になって自己紹介していた。

「学生時代のお友達?亨さんってどんな人だったの?」

「さあ、ほとんど変わらないっていうべきか」と、口ごもりながら、陽介は彼女が「亨さん」という呼び方をしたのに面食らっていた。雇い主が二十代の女性で、ファーストネームで呼ばれているというのは一体何なんだろう。当の本人は平然としたまま「別に変わんないよな」と笑っている。

「私ね、ここのすごく地味な動物園の話を聞いて、面白そうだから来てみたいって思ったの。だから亨さんに連れてきてって頼んだんだけど」

「知らなかったんだよね、こんなホテルに生まれ変わってたなんて」

「仕方ないからお茶でも飲もうかって、とりあえず入ったんだけれど、知っている人に偶然会ったの。それが高校時代の先生で、あっちでしばらくお話していたのよ。姪御さんの披露宴だったんですって。あ、私、オレンジジュースをお願いします」

 ウェイトレスにオーダーをして、澪は膝に置いていた小ぶりなバッグを開くと、鏡を取り出してちらりとのぞき、また戻した。髪をかき上げた時にのぞくピアスと、胸元に輝いているペンダントはどちらもダイヤらしく、その方面にうとい陽介にさえ、かなり高額なものだという事は判った。

「俺は一人で待ってるのも退屈なんで、陽介を呼び出したというわけ。ごめんな」

「いやまあ、久しぶりに会えたからそれはいいんだけど」

 口ではそう言ってみたものの、陽介は事の展開について行けずにいた。

「元はといえば私のせいで来ていただいたんだから、お詫びに夕食をご馳走したいんだけれど、どうかしら。奥様もご一緒にどう?」

 直接話題にしなかったものの、澪は陽介の結婚指輪を目に留めていたようだ。

「いや、彼女はちょっと他の予定が入ってるから、この週末はずっと別行動なんだ」

「そう、残念ね。じゃあ、この近くでどこかおいしいお店を紹介して下さる?亨さんの情報はちょっと古いみたいだから、お願いします」

「いいけど、義山さんはどういうのが好きなんですか?」

「澪でいいわよ。皆そう呼ぶもの。お店は陽介さんの好みで選んでね。お客様だから」


 結局、学生時代に亨とよく行った居酒屋を選んだのは、ひとえに奢られるという遠慮からのことだった。それでも当時はバイト代が入った時だけ行く、少し上ランクの店だったのだが、この年になると十分庶民的に感じられる。とはいえ、澪のような女性はその店ではかなりの異分子で、周囲の視線は彼女の上で何度も交差していた。

 しかしいったん酒が入ると、陽介は亨をとりまく何やら複雑そうな事情はどうでもよくなって、まるで昨日別れたばかりのように馬鹿話に花を咲かせてしまった。そして澪はそれに同意したり、質問したり、時には大笑いしながら楽しんでいるようだった。

 その店で九時を少し回る頃まで過ごしてから、三人はタクシーで城跡にあるホテルに戻った。公園の市営駐輪場が十時で閉まるので、陽介は自転車を引き取ってそれからまた半時間ばかりかけてマンションに戻らなくてはならない。亨と澪はどうやらそのホテルに泊まるらしかったが、酔ってはいても何故か陽介は二人の関係について触れることができずじまいだった。

 ホテルへのアプローチに入る手前、駐輪場への別れ道で陽介が先にタクシーを降りようとすると、澪が呼び止めてきた。

「陽介さん、明日の日曜はどういう予定?」

「明日?さあ、特に考えてないけど」

「私達と一緒に遊びに行かない?近くに芹ヶ池温泉ってあるでしょう?レンタカーであそこに行くつもりなの」

「そりゃ、構わないけど」

「じゃあ明日の朝、車を借りてから迎えに行くわ」

 そう言って手を振る澪の隣で、亨は昔そうだったように「また明日」と一言だけ口にして軽く笑った。


 翌朝、鳴り続ける携帯に起こされたのは七時を少し回った頃だった。亨からだったので「もう、朝早くからうるさいな」と、思い切りぞんざいな口調で出たら、小さく息を吸い込む響きがあって、それから澪の声が「やだ、起こしちゃった。ごめんなさい」と続いた。

「あ、いや別に大丈夫だから」と、取り繕いながら、陽介は大慌てで起き上がり、「昨日はどうもごちそうさまでした」と礼を言った。

「そんなの気にしなくていいけど、温泉の話、憶えてる?もうレンタカー借りちゃって、これから迎えに行くつもりだったの。でも気が変わったなら別に構わないわ」

「いや、大丈夫だよ。三十分あれば出られるから」

「そう?じゃあ三十分後に、どこだっけ、神崎橋?」

 澪はどうやら陽介ではなく、亨に確認しているようで、ややあって「その橋のところで待ってるわ」と繰り返して通話は切れた。

 そして陽介が急いで身支度と簡単な朝食を済ませて出かけてみると、マンションの名前にもなっている神崎橋のたもとに、シルバーのトヨタが停まっていた。意外にもハンドルを握っているのは澪で、太いフレームのサングラスでカチューシャのように髪を留め、こちらへ手を振っている。

「お早う。澪さんって、運転好きなの?」

 車に乗り込んでそう声をかけると、助手席の亨は「好きなんてもんじゃないよな」と笑った。彼女は昨日とはうってかわって、白のTシャツに光沢のあるサックスのカーディガンを羽織り、下はジーンズ姿だ。サイドブレーキを外し、車を発進させながら「私、本当はマニュアルが好きなの。ちゃんと操縦してる感じがして楽しいじゃない?でもレンタカーはオートマばっかりだから仕方ないわ」と言った。

「へーえ」と陽介は感心するしかなかった。昔、一度だけ伯父が乗っているマニュアル車を運転させてもらった事があるが、正直いって面倒くさいとしか思わなかったのだ。

「彼女はスピードも出すし、今日はけっこうヒヤヒヤすると思うよ」

 亨がそう言うと、澪は「私、街なかではちゃんと安全運転よ」と反論した。

「でも山道とかになると勢いがついてしまうの。あの、少しでも間違えると危ないようなところを、車と相談しながら攻めてくのが楽しいのよね。でもこういうオートマ車って、反応がよく判らなくて、学校の成績はいいけど、おしゃべりがつまらない人みたいな感じ」

 確かに彼女は安全運転だし、加減速や車線変更がスムースで、若い女性というよりも、年季の入ったハイヤーか何かのような落ち着きがあった。しかしその優雅な運転も、山道に入り、一つ目の峠を越える頃には姿をひそめていて、どうやらこちらが彼女本来らしい、メリハリのきいた走りになってきた。そして事あるごとに「きゃあ」だの「行っちゃえ」だの言いながら、対向車をよけたり、速度を落とさずにカーブを曲がってみせたりした。更にその合間に「ここで猪なんか出てきたらよけきれないから、思い切りぶつかって、牡丹鍋にしちゃった方がいいかもしれないわね」などという話をする。余裕があるのかないのか判らなかった。

 紅葉の季節にはまだしばらくあるせいか、道はそんなに混んでいなかった。途中であちこち休憩をしながら走って、山間にある小さな温泉町に着いたのは昼を少し過ぎた頃で、澪は車を停めると、孫を散歩させているらしい初老の女性に声をかけ、「この辺でお食事するのにお勧めの店ってありますか?」と尋ねた。陽介が呆気にとられていると、亨が「大体この調子。黙ってたらどんどん決めてくから、反対意見はお早目に」と、独り言のように呟いた。

「いや、却ってありがたいけど」

 陽介はこういう時、いつもあれこれ迷った上にどうもベストでない選択をしてしまう事が多いので、自分で何も決めずに済むというのは気楽でいい。紗代子さよこと遠出をしたりする時には、彼女がネットや何かで宿泊先から食事の場所、果ては人気の特産スイーツまで入念に下調べしてくれるので、自分は車さえ運転していればそれでよかった。

 女性が勧めたのは、温泉町の中心部から少し離れたところにある老舗の旅館だった。昼食と日帰り入浴がセットというプランが人気らしくて、県外からもよく客が来るらしいが、やはりまだ紅葉前のためか、そんなに混雑していなかった。

 陽介たちが通された広い座敷は、一階の奥にあったが、建物自体が急な坂の上に位置しているのでとても見晴らしがいい。窓から手を伸ばせば、外で枝を広げている楓に触れられそうだった。まだ青々とした葉を茂らせた梢の向こうには、この温泉地の名前の由来にもなった芹ヶ池という、大きな翡翠色の池が光っていた。

 座敷には陽介たちの他にも何組かの客がいたが、賑やか過ぎるというほどでもなく、それぞれに料理を楽しんだり、食後の世間話に花を咲かせたりしていた。料理を待つ間に、澪は「ねえ、貸切露天風呂っていうのがあるらしいんだけど、亨さんと陽介さんも一緒にどう?」と、いきなり言い出した。

「いやいやいや、俺はいいです」と、陽介は即座に断ったが、亨は最初から真に受けていないのか、「男女三人なんて、貸してくれるわけないって」と流している。

「そうかしら」と澪は釈然としない様子で、立ち上がると「聞いてみるわ」と座敷を出ていった。亨はその後ろ姿をしばらく見ていたが、ふいに陽介の方に視線を向けると「ふたりで一緒に入ってくれば?」と言った。

「えっ?」と陽介が思わず聞き返したところへ、亨は「冗談」と切り返して、にやりとした。それは学生時代によく見た笑顔で、陽介は照れも手伝って「ふざけんなよ」と苦笑いするしかなかった。

「俺は雇われてはいるけど、彼女のヒモってわけじゃないから」

 亨は陽介の疑問を見透かした様子でそう言うと立ち上がり、低い窓枠に腰掛けると外を覗いた。じゃあお前は彼女の何なんだ、陽介はそうききたかったが、何故だかその一言がうまく出てこない。ただ曖昧に「うん」と答えて頷く事しかできずに、亨の横顔を見上げていた。

 今まで一度だってつきあっている女の子を紹介された事なんてないし、話すら聞かされた事もない。見た目は学生時代に比べてそれなりに年をとって、落ち着いた感じになっているけれど、こと女性についての秘密主義は相変わらずで、結婚相手もよく知らずじまい。だからこそ澪との関係は、私的なものを全く含まないという説明が成り立つのだろうか。しかし昨日、自身の離婚について打ち明けたのは、やはり彼も少し変わったという事の証かもしれない。

「残念、もう予約いっぱいなんだって」

 気がつくと、澪が戻ってきていた。

「それはさ、変な客だから遠回しに断られてるんだよ」

 亨がそう言って笑うと、澪は「でも、家族とか親戚って可能性もあるじゃない」と反論する。

「けど三人とも全然似てないし」

「そうかしら。少なくとも亨さんと陽介さんって似てるような気がするんだけど」

「似てないよな。陽介って三十過ぎても、夏休みの小学生みたいな顔してるし」

「この年で小学生はないだろ」と、陽介は一応否定したが、澪は「夏休み」という言葉に反応したらしく、「そうね、日焼けはしているけれど、それはやっぱり、よく自転車とかに乗っているから?」と真顔で聞いてきた。

「まあそれと、仕事が外回りだから、どうしてもね。亨は何やっても黒くならないんだよな」

「そう。俺は育ちがいいから」

 梢の緑が反射しているせいか、亨の顔色は青白くさえ見えた。学生時代、よく冗談半分に女の子から羨ましがられていたけれど、今こうして澪と比べても見劣りしないほどに白い肌だ。澪はそんな彼をちらりと見て、「でも性格はやっぱり違うかしら。陽介さんの方が素直みたいね」と言った。

「どうだか。元祖、不条理の男」と笑いながら、亨は窓際を離れると澪の隣に腰を下ろした。

「こいつが何で陽介っていうか、聞いてみなよ」

「それはどういう事?」

 もうほとんど定番のネタだが、そう言われると陽介はあるエピソードを披露しないわけにいかなかった。

「俺は八月一日に生まれたんだけど、すごい猛暑の年でさ、親父が出生届を出しに行った日なんて三十八度近かったんだ。で、親父は頭がぼーっとしちゃって、役場の窓口で決めてた名前が思い出せずに、アドリブで陽介にしちゃったんだ。その理由が、太陽がまぶしかったからって」

「そうなんだ!異邦人なのね」

「その、度忘れした名前ってのが、字画なんかも調べて、神社でちゃんとみてもらった奴だったから、母親がすごく怒ったらしいよ。だから俺って運が開けてなくて、中小企業の平社員どまりなんだよな」

「でも陽介っていい名前だと思うわ。それ以外に考えられないほど、ぴったり合ってる」

「多分問題はさ、名前うんぬんよりも、俺がそういう適当な男である親父の遺伝子を確実に受け継いでるって事なんだろうな。けどね、六年生の時に不思議な事があったんだ。亨にもこの話したことないと思うけど」

 自分でも本当に忘れかけていたけれど、それは夏休みの最後の日だった。やっつけ仕事の自由研究で紙粘土の首長竜を作り、仕上げに絵具で色をつけていた時のことだ。手が滑って筆を落とし、下敷きにしていた新聞紙に緑色のしぶきが派手に散った。母にうるさく言われて、畳の上に渋々広げた新聞だったが、まさに間一髪。冷や汗もので筆を拾ったその先に、「小学生帰省先で水死」という小さな見出しがあった。

 せっかくの夏休みなのにな、という、可哀相な気持ちと、その一方で事故に対する好奇心のようなものに誘われて、陽介は記事に目を走らせ、あっ、と思った。同じ六年生。しかも彼は自分と同じ高田という姓で、父がうっかりしていなければ届け出ていたはずの、あの名前だった。

「神主さんにちゃんと見てもらった、いい名前だったのに、度忘れしちゃうなんて」

 父の呑気なエピソードが出る度に、母はそう残念がってみせたけれど、それが本当なら、この子の死は何を意味しているのだろう。一瞬、母をこの場に呼んで記事を見せようかと思ったけれど、それはしてはいけない事のような気がして、彼は手にしていた筆にたっぷりと絵具をつけると、その事故を深い緑色で封じ込めた。

 いま思うと、両親はその記事を読んでいたに違いない。同じ年頃の子供の身に起きた不幸が、彼らの注意を惹かないはずがないからだ。そういえば、その頃を境に、母は命名エピソードを口にしなくなったような気がする。

「やっぱり陽介さんって運がいいのよ、きっと」

 澪は真剣な顔つきでそう言うと、話をしている間に運ばれてきた料理を食べようと箸を手にした。その隣で頬杖をついていた亨は、「そう、こいつはいつも、一番おいしいとこを貰ってくんだ。それを全然自覚してないんだよな」と冗談めかして言った。


 せっかく温泉に来たのだから、やはり食事の後は風呂に入ることにして、陽介たちはいったん澪と別れた。男湯は小学生を含めた先客が何組かいて、かなり賑やかだったが、二人ともそう長風呂をするわけでもなく、あっさりと出てきた。もちろんというべきか、澪はまだ戻っていなかったが、それは十分に予想できた事なので、陽介は時間つぶしのため、玄関脇にある土産物コーナーにふらりと入ってみた。

 本当はよく冷えた缶ビールでも飲みたいところだが、帰り道は自分が運転すべきかもしれないと思って、代わりにスポーツドリンクを選んだ。それから、紗代子に何か買って帰ろうかと一周してみる。

 この辺りの特産らしい山菜の漬物、川魚の甘露煮、無添加のトマトジュース、よさそうなものは色々あるが、今一つ決定打に欠くような気もする。というか、どういうわけで今日こんな温泉に来ているのか、土産を買って帰るとそれを説明する羽目になるのも何だか面倒に思えてきた。

 それに何より、紗代子は自分が選んだもの以外はあまり評価しない。人から何かもらっても、「ちょっと脂っこいのよね」とか「半分の量で味を二種類にした方がいいのに」といった批評は欠かさない。

 本人は「いただいて嬉しいのは本当よ。でも現実問題として改善すべき点はあるってこと」と言うけれど、彼女を百パーセント満足させるプレゼントをできるのは、陽介が知る限り、姉の有希子だけだった。決して口に出したりしないけれど、陽介が買ってきた品物についても、何か言うことがありそうだというのはうっすらと判るものだ。そしてそれはあまり楽しい事ではない。

 結局、スポーツドリンクだけ買うと陽介は外に出て、木陰にある木のベンチに腰を下ろした。亨はどこへ行ったのかと辺りを見回すと、玄関の軒先を支える太い柱の陰に隠れるようにして携帯を操作していた。その表情はこちらからは見えないが、それでも暇つぶしといった様子でないのは判る。まあ、何だか知らないけれど、今の亨には色々と事情があるのかもしれない。

 そして視線をそらすと、陽介はゆっくりとスポーツドリンクを飲み、心地よい秋の山風に身を任せた。いつも紗代子から言われるのだけれど、本当にぼーっとするのが得意なのだ。

「ヨガだとか座禅だとか、わざわざお金出してやる必要ないからいいわよね」というのが彼女の持論だった。

「別に嫌味で言ってるんじゃないわ。羨ましいんだもの。どうやったらそんなに何も考えずにいられるのかって」

 確かに彼女は陽介から見ると、不必要なほどに神経質で繊細だ。しかしそれ位の感受性を具えて、相応の気働きができたなら、自分だってもう少しいい職にありつけたのではないかと思えてくる。要するに、紗代子から見ると自分は呆れるほどに呑気なのだろう。

「随分待った?」

 長風呂を終え、玄関を出てきた澪はまず陽介を見つけたらしく、まっすぐこちらに向かってきた。湯上りの艶やかな頬は眩しい程で、ほとんど化粧をしていないのが、却って彼女本来の美しさを引き立てていた。

「いや、そんなに待ってないよ」と言いながら立ち上がると、彼女の声に気づいたらしい亨が、こちらへ歩いてくるのが見えた。彼が手にしていた携帯を少しだけ振ってみせると、そちらを向いていた澪は一瞬だけ表情を変えた。陽介がその意味をつかまえようとする内に、彼女はまた屈託のない様子に戻り、「じゃあ出発しましょうか。あんまりゆっくりしていると暗くなってしまうから」と言った。

 澪はそれから、傍に来た亨の顔を見上げると、何も言わずその肘に少しだけ触れた。彼も無言のままちらりと視線を交差させ、彼女を振り切るように、先に立って歩き出した。

 後を追った陽介が「帰りは俺が運転しようか?」と声をかけると、澪は振り向いて「ううん、私、山道が好きだから運転させて」と笑った。


 


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