拓人
「いらっしゃいませ」
「何だ、兄ちゃん、今日も元気ねえな」
そう言ったのは常連のおじいさんだった。
僕は1年前からこのコンビニで働いている。
幼馴染の友則がここの店長をやっていて、事件後、働こうとしなかった僕を見かねて誘ってきたのだ。
すぐ辞めるつもりでいた。
わざとミスをしたり、お客さんを怒らせたりした。
だけど友則は辞めさせてはくれず、わざとやっている事にも気づいていた。
それからもちょいちょいミスを続けた。
それでもクビにしてくれなかった。
そんな時、松見が入ってきた。
彼女が入ってきたのは真夏だったのだが彼女は長袖を着ていた。
この暑いのに何故だろうと疑問に思ってそれとなく友則に尋ねたら腕に火傷の跡があるんだとあっさり教えてくれた。
松見は当初、泣きながらレジを打っていた。
休憩中、何があったのと尋ねても松見は黙っていた。
その様子に腹が立って僕は松見の服の袖を無理矢理めくった。
やめてと叫んだ彼女の腕には本当に酷い火傷の跡があった。
この事には友則は本気で怒った。
「俺の友達を傷つけんな。お前だって仲間だろう」
仲間、仲間か。
正直ピンと来なかった。
でも悪い事をしたとは思った。
僕は松見をケーキバイキングに誘った。
「何でケーキ?私ケーキ好きだって言ったっけ?」
「女子は大体好きだろ、甘いの」
松見はそうなのと言って笑った。
その時、松見はこんな俺にも笑いかけてくれるんだと思って感動した。
彼女が死んでから初めて女性の笑顔を美しいと思った。
同時に罪悪感が生まれて心の中で彼女に謝った。
僕はもう誰も好きにならないと決めたのだから。
「タバコ、これでしたよね」
「おう、覚えててくれたのか!ありがとうな」
逆に元気のいいおじいさんだと思った。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
コンビニバイトを始めて1年経って、やっと接客が楽しいと思えるようになった。
「帰り、送ってってあげる」
松見が言った。
僕がやだよと言うと松見はしゅんとした。
「逆だろ。俺が送っていくよ」
そう言うと松見は笑顔になった。
blue @hiro19970131
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