第10話
マネキンの攻撃を寸前のところで避ける。
どうやら攻撃のパターンは多くはないらしいマネキンは単純に腕でなぐりかかってくるだけだ。
「避けるのは大丈夫だけど、銃が効かないんじゃ」
ケイの方に目を向けるとデュナミスとの戦闘に手一杯のようだった。
「コレ弱点とかないの!」
大声で叫んでみる。
「物理攻撃は無駄だ。後は自分で何とかしろ。とにかく時間を稼げ」
何とかしろと言われても契約していないレイに特別な能力は無い。
「ムチャいわないでよ! こんなのどうすればいいっていうの!」
マネキンの攻撃は単調だが次第に追い詰められる、疲れをしらない使徒と人間では体力的に差がある。
「本当にマズイわね」
レイが肩で息をしだした。
避けながら頭に数発撃ち込んだが動きは止まらない。
一瞬の油断からマネキンの払った腕がレイの腹を捉えた。
今まで経験したことのない力で吹き飛ばされた。
車に跳ね飛ばされる時がこんな感じなのかもしれない。
さらにマネキンが襲いかかるが体がしびれて起き上がれない。
振り上げられたマネキンの腕が目に入った。
避けられない、そう思ったレイの目の前にケイが割り込むように飛び込んできた。
右腕でマネキンの攻撃をブロックする。
一瞬、ケイの体が沈んだように見えた。
右腕で攻撃をブロックしたまま左手の銃をマネキンの胸に当てる。
「ブレイク8」
瞬時に両手の銃が消えて新たな銃が現れた。
引き金を引く。
銃身から放たれた弾丸がマネキンの胸を突き抜ける。
大きな穴がマネキンの胸に空きそこから全身にヒビのような黒い亀裂が入っていく。
マネキンは苦しむでもなく動きを止めていた。
やがて砕け散る。
「さっさと立て」
ケイに言われ両手を地面について立とうとした。
その両手にヌルっとした感触が伝わる。
血だ。
目の前の地面に赤い血だまりができていた。
見上げるとケイの腰の辺りに切り裂かれた後が見える。
「休んでる暇はない。まだ天死が残っている」
レイを助ける為に隙ができ、そこにデュナミスの剣を受けたのだ。
「あなた怪我を!」
ケイは左手の銃を天死に向けているが、右腕はだらりと下がったままだ。
「右手も!」
ガンッ!
銃から放たれた弾丸には黒い軌跡を描く、通常の弾丸ではないようだ。
デュナミスの剣がそれを弾く。
それでもケイは引き金を引き続ける。
何本もの黒い軌跡がデュナミスに向かうが全て弾かれてしまう。
やがて左手が銃の重さに耐えられなくなったように下がる。
「その銃、私に使えないの!」
「無理だ。これは呼び出した者以外使えない」
両手を下げた状態でケイはデュナミスと向かいあう。
「ここは逃げましょ!」
「それも無理だ。すでに奴の結界の中だ。今の俺では内側から破れない」
攻撃手段を封じられ逃げることもできない八方塞がりな状態だった。
デュナミスがゆっくりと近づく。
ピシッ!
何かにヒビが入ったかのような音がした。
バリバリッ!
空にヒビが入っていた。
「来たか」
ケイとレイが見上げる。
空が割れる。
実際には空に張られていた見えない結界が割けた。
そこから巨大な光の塊が落ちデュナミスを包む。
雷だ。
「おまたせ、生きとるかぁお2人さん」
デュナミスの後ろにボルトが立っていた。
「おお! 珍しいなぁ、ケイが苦戦するなんて」
雷に撃たれたデュナミスが肩膝をついていた。
「レイちゃん大丈夫ぅ。お怪我してないぃ?」
ミストがボルトの後ろから歩いてくる。
「結界、こっちのに張り替えておいたよぉ」
ミストが親指を立てる。
「しかし、デュナミスとはえらいもんがでよったなぁ」
そう言ってボルトが右手をデュナミスに向ける。
再び雷が天から降り注ぐ。
「あかんわ、この程度の雷じゃ追い払えんわ」
ボルトが何かを口にしようとするのをケイが止めた。
「待て、無駄に封印を使うな」
「そやかて、このままじゃあらちがあかんで」
いくら動きを止めても天死を消せなければ意味がない。
「動きが止まればそれでいい」
ケイが顔をレイに向けた。
「おい、俺の左手を支えろ」
レイは瞬時に理解した。
ケイの左腕を持ち上げデュナミスに向ける。
「これでいい? 引き金は引けるんでしょうね」
「上出来だ」
銃が火を吹く。
動けないデュナミスの頭に黒い軌跡を描いて突き刺さる。
マネキンと同じように全身に黒い亀裂が入る。
やがてマネキンとは違いまるで光の塵のようにデュナミスが霧散した。
それを見届けるかのようにしながらケイが倒れ込んだ。
「「ケイ!」」
ボルトとミストの声が重なる。
ケイの両手の銃が消えた、意識を失ったのだろう。
「しっかりして! ケイ! ケイ!」
倒れこむケイの肩をゆすりながらレイが名を呼び続けた。
東京スカイツリー。
その地下にある13機関の日本支部。
その一室に茶色のスーツを身につけた金髪の男が遠山と向き合って座っていた。
「ヨハネの動きはどうかね?」
金髪の男は40代後半に見える。
「正直、後手にまわっています」
「そうらしいですね。よろしくない状況……ですな」
敢えてたずねたかのように男が答える。
「ですが、今までよりも効率的に対処できる目処がつきました」
「ほぉ、それはどんな目処かな?」
「召喚陣を被害がでる前に見つける方法です」
「なるほど、聖痕を刻まれた女ですか」
「ラシード氏、どうしてそれを」
レイの事はまだ本部に報告していない。
「本部の情報網を甘くみてませんかな?」
「恐れいります」
日本支部内に本部の情報員がまぎれているのは薄々考えていたので驚きはない。
「その女性はどこに?」
「ケイに同行させてます」
ケイの名を聞いてラシードの表情が変わった。
「エージェント2、ケイですか……確か日本のエースとか」
「はい。彼は日本支部の中では一番優秀です。彼なら彼女を守ってくれるでしょう」
「なるほど、わかりました。日本支部のやり方に口出しするつもりはありません。そう判断したのならそれでよいでしょう」
ポケットに入れていた遠山のスマホが振動した。
「失礼」
そう言ってポケットからスマホを取り出すと耳にあてた。
「私だ」
遠山の顔色が変わったのをラシードは見逃さなかった。
「何かトラブルですかな」
遠山とラシードの目が合った。
「ええ、少し」
ケイが怪我をし医療施設に運び込まれたとは口にできない、明らかにラシードはケイに対して何か思いがある。
しかし、隠し通せる話でもない事はわかっている。
今しがた本部の情報員が紛れているとわかったばかりだ。
だが、こちらから不用意に情報を渡すのは危険かもしれないとあえて黙っていた。
遠山が通話を終え、話を切りだす。
「ところでラシード氏のような方がわざわざ日本までお越しになった理由は? ただの視察では無いですよね」
ラシードは本部の統制部副部長にあたる役職にある。
統制部とは組織の幹部が天死に対する方針を決定する部署で組織の中で一番重要であり力を持った部署だ。
それが部下も連れずに訪ねてくるとは視察が目的とは考えられない。
本来、視察とは管理部の管轄のはずだ。
「機関は今、世界中でヨハネの行動抑制に努めているのはご存知の通り。しかし、優位に進められているとは言い難い。先ほどの君の話の通り、後手に回っているのはどこも同じでしてね」
ここ1、2年はヨハネの動きが世界中で活発になっていると報告が上がっている。
当然、日本支部の管理者として知る情報だ。
「そこで統制部ではある試みに向け力を入れていくと決定した」
「試み?」
嫌な予感がする。
「先ほど君が言ったではないですか。聖痕を刻まれた者を使ってより効率的にヨハンの行動を抑制する」
「しかし、聖痕を刻まれた者はヨハンにも天死にも狙われる可能性が高い。普通の聖痕者では難しいのではないでしょうか」
ラシードの目が天井を見た。
「ほぉ、それが理解できていながら日本支部はそれを実践しているではないのかね」
再び目線を遠山に戻し言う。
確かにそうだ。
すでに日本では本部が進めたい試みを実践している。
だからの統制部の訪問かと思った。
「彼女の場合は特殊です。自身の霊力が非常に高く、元々日本の警官でもあり捜査には慣れている。警察でも優秀だった人材です」
「すばらしい。ですが、それはあくまで対人間としてではありませんか?」
「それは……」
言葉に詰まる、だから優秀なエージェントを付けているのだと言いたいが、それでは他の聖痕者にも付ければ良いと言われるだけだ。
「わかってますよ。その為のエージェント。ですがどこの支部でもその為にわざわざエージェントを割ける余裕が無い。日本でも同じでしょう、もう一人同じように聖痕者を守って行動できるようなエージェントがいますか」
「いいえ」
ラシードが唇を吊り上げ笑った。
本題に入る。
「そこで提案です」
遠山は自分の予感が当たったと確信した。
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