第8話
本来ならばまずは遠山により麗華の紹介あるはずだったが、その前に麗華が獅子神に食ってかかった為、場の雰囲気がかわっていた。
「紹介は必要ないようだな。今度から我々と一緒に働く立花くんだ」
「レイちゃんね」
女の子がちゃちゃを入れる。
それをあえて無視して遠山は続ける。
「既に皆には説明した通り彼女は聖痕者だ。本来なら監視施設へ行ってもらうのだが、彼女には我々の仕事を手伝ってもらう」
麗華は2人の表情を観察した。
本人が顔に出さないようにしても意識とは別のところで気持ちはにじみでる。
警官にはそれが、感とよばれて現場では意外と重要視されたりもする。
雰囲気とでも言えばいいのかもしれない。
「いいんやないか。進行しなきゃ、普通の人間と変わらんやさかい」
「いざとなったら殺しちゃえばいいしぃ」
「え!」
麗華は女の子の顔を睨んだ。
女の子は舌を出して
「なぁんてウソだよー。そんなわけないじゃん」
そう言ったが意外と本心かもしれないと麗華は思った。
エージェントという彼らは警官と違い本当に命をかけている。
必要があればその場で麗華を見捨てることくらいするのではないかと思う。
「おっと、まだ彼らの紹介がまだだったな」
遠山は今さらながらのように言った。
「男の方は、
「エージェント名とは何ですか?」
「昔からエージェントは通称を使っている、まぁ、そんなに深い意味はない」
「ニックネームだよぉ、ニックネーム~。カッコイイじゃん」
ミストはこのエージャント名というのが気に入っているらしい。
だとしたら獅子神は名前と同じではないか。
「ケイは、カタカナじゃなくて正確にはアルファベットの(K)ね。まぁ、呼んじゃえば同じだけどねぇ」
ミストが付け足す。
「私はエージェントではないので、そのまま立花でいいのでしょうか」
「えー、レイちゃんでいいじゃん!」
だから、年甲斐もなくちゃん付けは……と言いかけたが
「仲間内ではその方がええんやないか。立花さん、て堅苦しいわ」
警察の時は上下関係がはっきりしていたし、やはりお堅い職業なので、クンやサンが普通だった。
たまの飲み会では上司がちゃん付けで呼ぶこともあったが、最近ではそれすらセクハラにとられかねない。
「学生気分は困るが、あまり堅すぎもよくないな。私は立花くんと呼ぶが皆はレイでもいいんじゃないかな」
遠山はレイと呼ばせるのに反対ではないようだ。
「名前など何でもかまわんだろ。くだらん事に時間をかけるな」
黙っていたケイが言う。
結局、麗華は押しきられレイと呼ばれることになった。
ただし、ちゃんは付けないことを条件にだ。
エージェント2に関してはエージェント名で呼び合う事とミストにクギをさされた。
その後、今後のヨハネに対する方針と作戦が説明され、それに伴うチーム分けがおこなわれた。
その場にいない各地のエージェントにはすでに連絡済だそうだ。
レイを公園で襲い聖痕を付けたのは【パワー】と呼ばれる天死でこれが現れるのはヨハネの行動が進んでいる事を示していた。
さらに上位の天死が現れる可能性を考え単独行動はできるだけ控え、チームで行動するのが得策と判断された。
18人しかいないエージェント2をチームにすることで効率は下がるが貴重な戦力である彼らを失ったり戦線離脱などの状況にはできるだけしたくない組織の判断だ。
「立花くんはケイと組んでくれ。推薦したのは彼だし、彼女といれば自然と奴らから接触してくるだろう。場合によっては彼女を拉致し降臨の媒体にする事を考えてくるかもしれん。どうだケイ?」
霊力の高いレイは最終目的の高位天使降臨のよりしろとして狙らわれる可能性があるということだ。
「俺がこいつと組んだら1人あまるだろ」
確かに18人にレイを含めば1人余る計算だ。
「ローズはある作戦で日本から離れている。したがい立花くんを入れて18だ」
ケイはしばらく黙ると受け入れたようだった。
「わかった。ただし、足手まといならば捨てる」
ケイがちらりとレイを見る。
壁から背を話すと扉に向かい歩きだした。
「トレーニングルームを使う。申請しといてくれ」
「ああ、それはいいが何をするつもりだ」
立ち止まり答えた。
「決まっている。ひよっこに自分を守るすべを教える」
「なるほどぉ、特訓ってやつやな」
ボルトがレイに向かって指をさす。
「それなら私のほうが得意だから、私がレイちゃんに教えるよぉ」
ついさっき決めたちゃんづけしない約束はあっさりやぶられたようだ。
「レイちゃんの霊力なら契約無しでも自分を守る結界くらい張れるから大丈夫!」
ミストは跳ね上がるようにソファーから立ち上がると先に扉に向かった。
「行こー!!」
なぜか右手を突き上げ張り切っているミストの後についてレイは部屋を出ていった。
2人が出て行った後を追うケイに向かい遠山が思い出したかのように告げた。
「あ、そう言えば本部から来週お客さんが来ると連絡があった」
「客? なんやこの時期に視察なんてけったいやなぁ」
ボルトの言う視察は年に数回は行われている各支部の状況確認みたいなものだ。
「誰が来る」
ケイの問に遠山は首を横に振った。
「それが知らされてない。ただ人を送るとだけ連絡が来た」
「どういう事だ?」
普通は視察時には事前に訪問人数とその名前が通達されてくる。
正直、形式的な部分が大きかった。
遠山も首を傾げるしかなかった。
「俺にもわからん。ただの視察じゃないかもしれんな」
「なら、応援とちゃうか?」
確かに今の日本の状況ならばありえる話ではある。
「ヨーロッパでもヨハネの動きが活発化していると聞いた。そんな余裕は無いはずだが」
ケイの言う通り、今は世界中て日本と変わらぬ戦いの最中だった。
「あっちはエージェント1が3人もおるんや、下が1人や2人抜けても大丈夫やろ。さすがに1は動けんやろうけどな」
ボルトの言う通りだ。
「とりあえず今はヨハネの動きをつかむのが最優先だ。お客さんの相手はこっちでするから、2人は捜査と撃退を頼む」
遠山の言葉に2人が頷いた。
― 数日前 -
スイスに置かれている13機関本部。
表向きは銀行を装っている。
その一室で2人の男がソファーで向かい合い話をしている。
普段から完璧な結界に包まれているその部屋の会話が外へ漏れることは無い。
「それでサンプルの方はどうだ?」
「サンプル1は順調です。最近手に入ったサンプル2ですが……」
「どうした?」
「どうやら……あの男の血筋の者のようで」
「あの男? おお……20年前のか」
「はい。もしかするとサンプル1よりも可能性が高いかと」
「で、契約は?」
「いえ、それはまだ」
「急がせろ。20年前のような後れをとるわけにはいかんからな」
片方の男がソファーから立ち上がり窓際へ歩き出す。
「では、私自ら日本へ行って参ります」
ソファーに残った男が答える。
「いいだろう。サンプル1の様子も気になる。頼んだぞ」
「はい。エージェントマスター」
13機関最高位の彼は窓から見える山脈の頂を見ていた。
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