第6話
13機関が何をする組織かは理解した。
言い換えれば世界規模の警察組織に近い。否、軍隊か。
人々の生活を守るという意味では今の仕事と変わりはない。
遠山が話を続ける。
「聖痕があることはある意味で我々にとってメリットとなる。君が召喚陣に近づけばそれは発動し使徒や天死が君を襲ってくるだろう、だがそれは逆に召喚陣を消すのに役立つ。
事前に召喚陣を見つけられるほどヨハネは甘くない。結果、いままでは発現した召喚陣を消すという方法しかとれなかった。犠牲者が出ないと場所の特定ができないんだ」
「つまり、違う意味での餌ですか」
「そう言われると返す言葉が無い。もちろん、君が生き残れるように組織としてバックアップはする、その霊力の使い方も教える。君次第だが十分に奴らに対抗できるはずだ」
麗華は考えた。
どちらにしろ普通の生活には戻れないという事だ。
「しかし、聖痕が進行したら……」
「先ほども話したが霊力の強い人間でも聖痕の影響は受けるがその進行は普通に暮らす分には遅い。場合によっては寿命近くでレベル2や3になる可能性もある。後、たとえレベル2や3になっても自我を保っていられる者もいる」
「本当ですか? でも私もそうなるとは……」
「もしレベル2や3で職務が遂行できなくなったならば、施設へ送る。施設に送られる頃にはそこが何処かもわからなくなっているだろうがね」
「迷惑ではないのですか。組織に私のような聖痕者を招き入れることは」
「先ほどもいったが十分なメリットはある。職員の中には否定的な者もいるだろうが僕個人としてはメリットの方が大きいと考えている」
遠山がニヤニヤしてその続きを話す。
「あの獅子神が君を推薦をしたんだ他のエージェントは文句言えないさ」
「え?」
「獅子神はこの日本のエースだ。組織としての役職で言えば僕の方が上だが、彼の決定を止める権利は僕には無い。彼は13機関の中央からも一目置かれるエージェントだからね」
「そう、そのエージェントとは何ですか」
獅子神が使った妙な行動が気になっていた。
手の中に拳銃が一瞬で現れ一瞬で消えたように見えた。
「エージェントとは悪魔と契約した者の通称」
「あ、悪魔と契約?」
「天死と戦う能力を悪魔と契約し行使する、それがエージェントだ」
「そ、そんな事が可能なんですか」
麗華の知る悪魔との契約とは自分の命を担保に悪魔に願い事をかなえさせるものだ。
「悪魔は追放された天死で人類滅亡を防ごうとした者と先ほど話しただろう。悪魔は結界により直接この世界に干渉できないし天界にも干渉できない。天死のように扉を使うことも可能ではあるが、それでは人類を救うという名目で多くの人間の魂を使う事になる」
「確かに、でも大事の前の小事ということも」
「そうかもしれない、そこで悪魔は人類に特有な力を与えることを考えた。昔から魔法とか超能力とか言われてはいるが、悪魔と契約した者の力がそれだ」
「じゃあ、彼もその力を使っていると」
「彼だけじゃない、僕もその1人だ。この力にはレベルがある、条件もね」
以下が彼の話したレベルと条件だ。
レベルは1~13。
最大13種類の能力が使えるという意味だ。
レベル1~3は同時使用可能
レベル4以上は同時使用不可だが、レベル1~3とのみ可能。
つまり、レベル1~3を使用しつつレベル4以上を使用することはできる
レベルがあがるほど次回使用までのインターバルが必要。
発現させるにはその数字を表す媒体が必要。
ほとんどは数字の彫られた宝石を使いブレスレットやネックレスにしている。
また、使える能力は同じ能力でも契約した本人の資質などで差がでる。
能力は影響範囲が広いまたは強力なほど高レベルとなる。
現在、レベル11を行使できるエージェントが最高位でレベル12以上を行使できる者はいないとのこと。
エージェントランクは行使できる最高位のレベルで決められている。
レベル5以下はエージェント3、ほぼ戦闘に参加はしない後方支援的な役割が多い。
レベル6以上でエージェント2、対天死やヨハネとの戦闘要員。
レベル10以上でエージェント1、対高位天使も可能な組織の最高戦力。
それ以外にも悪魔と契約をせずに働く者が世界中にいるとのことだ。
「私も悪魔と契約できるんでしょうか?」
「いや、君は……無理では無いが止めておいた方がいい」
遠山が返答に少し困った。
「どうしてですか? 身を守るには能力があった方が」
「聖痕者はすでに天死に印を付けられた存在だ、そこに悪魔と契約となるとリスクが高い。悪魔と契約することにはリスクも存在する。レベル5までは健康な者であれば何の障害も残らない僕もね」
遠山が指で自分を指した。
「だが、レベル6からは【精神的障害】が必ず発生する」
「精神的障害……」
「味覚や聴覚、視覚などの感覚の一部を失う場合が多い。失わないにしてもたとえば色を認識できないなど何らかの問題が発生する。これは高いレベルを行使できるものほど大きな障害が現れる」
「では彼は……」
「獅子神はレベル9まで使える。彼の障害は感情損失だ」
「え? 感情損失?」
「ああ、獅子神は喜怒哀楽を現すことができない。笑わない、泣かない、楽しいと思わない、悲しいと思わない、彼は人が表現する普通の事ができない」
「そんな、では何の為に天死と戦っているんですか、何の感情も無いのに!」
「わからない。同じ質問を投げてみたことはあるが、答えは。わからないだ。自分で表現ができないんだ。だが、戦わなければならないことだけはわかると言っていた」
今後、天死と戦うからには力は欲しい。だが、聞いたリスクが高すぎる。
「精神値が僕より高い君が契約すればこの障害は必ず発現するだろう。それに君には聖痕がある。場合によっては低級悪魔が憑依してしまうことも考えられる。その場合、君は君でなくなるんだ」
自分が自分でなくなるのは最悪だ。
「この場で結論をださなくてもいい。とりあえず今日は帰って休むといい。ただし、君は今日付けで公安へ急遽移動した事になっている。これを……」
そう言って遠山は麗華にスマートホンを渡した。
「青に白で○が描いてあるアイコンを押せばここのオペレーターにつながる。何かあれば、私を呼び出してもらえばいい」
麗華は電源を入れて確認する。
「そして、赤に○のアイコンは緊急用だ、2回続けて押す事で応援を呼べる。一定時間ごとに君の位置は本部に送られているから、もし君との通信が切れてもこちらで応援を送る事が可能だ」
「なるほど、捜査一課に挨拶は行っても?」
「かまわない。ただ上司にはいい顔されないだろうし、私物は全て公安へ移動済だから。この地下フロアの5番の部屋に君の荷物は引き取った。公安が突然押し掛けたんだ、君の上司は青ざめていたらしい。自分の経歴に傷が付くのがよほどいやなんだろうね」
「マンションの部屋は……」
ここまで用意周到だと自宅まで引き払われている可能性もある。
「そこは手をだしていない。ただし、周辺の調査はしてある。後、上下左右の部屋はこっちで押さえた」
住んでいる隣人には迷惑をかけたようだ、どんな手段で部屋を借りたかが心配だった。
「一応、護衛をこっちで手配してあるから安心して休むといい」
「護衛ですか……見張りでは?」
「そうとも言える。君から我々の事がもれるとマズイからね」
誰かに話しても信じてもらえないだろう。
天使と戦う機関?
超能力?
精神科送りが関の山だ。
「幸いと言っては申し訳ないが、君に家族がいない事は良かった。場合によっては悲しませる事になったからね」
麗華の父親は幼い時に海外で事故にあいこの世を去った。母親も自分が成人してすぐに癌でこの世を去った。兄弟姉妹もいない。
親類とはもう10年以上会っていないし連絡もとっていない。
恋人も仕事に没頭してしまう性格から今はいなかった。
寂しいと思うこともあったが今は昔ほどそれを感じない。
「まだ頭の整理がつかないだろう。少し冷静に考えて返事をもらいたい。ただ、君をこのまま放置できない事は理解してもらえたと信じるよ」
「わかりました。少し時間をいただきます」
「いい返事を期待してるよ。エレベーターは階押せば動くから」
麗華は何も答えずに立ち上がり頭をさげて部屋を出ていった。
麗華が部屋を出た事を確認すると独り言のように呟いた。
「父親と同じ世界に足を踏み入れるとは、運命というか何というか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます