主人公は、空から落ちてきた。

俺は今現在、引きこもりである。

理由は現実の壁。

大好きだった剣道で、壁を感じてしまい、それ以降何をやっても上手くいかない。

だから努力しても無駄なのでは、と思い絶賛引きこもり中だ。


「兄さん…入ってもいい?」


扉越しに弟の声が聞こえてくる。


「いいよ、ご飯にはまだ早いと思うけど」


「あっ…えっとね分からないところあって教えてほしいんだ…」


ドアを開け、白髪・赤目の弟・白雅(はくが)が入ってくる。

弟は兄が引きこもりになろうと軽蔑せず、接しようとしてくる。

差別も感じないし、良い弟だが…


「…多分分からないところだぞ?」


「えっ…でも見てみて…」


はぁ…こいつまた…


「いい加減学校で友達作れと言っただろう?」


「うぅ…努力してるけど、やっぱり怖くて…」


こいつはいわゆるアルビノで、その見た目からいじめられたり、体質的にも結構苦労している。

昔から守ったりと結構大変だった。


「はぁ…仕方ないなぁ…」


「わーい!」


軽蔑云々のことは置いといても、弟ながら可愛いもので、ついつい甘やかしてしまうのがキズだ。

内容的にはギリ教えられる範囲で、白雅は笑顔で部屋から出て行った。

あいつなりにいつ復帰してもいいように、と思っての行動だろう。


「そうだ、兄さん」


用事があったのか、白雅は戻ってきた。

先ほどの笑顔とは打って変わって、深刻そうな表情をしながら


「今度の日曜…大丈夫?」


「…あぁ大丈夫だ」


「…そっか…話はそれだけ」


再び白雅は部屋を出る。

日曜…日曜か…


俺には幼馴染がいた。

同い年で像夢 雛花(しょうむ すいか)という。

小さいころから自分の世界を作るのが好きで、小説とか漫画とかいろんなものを作っていた。

ただ小学5年生の時、交通事故で亡くなった。

今度の日曜、それが雛花の命日ということだ。


雛花のことは好意を抱いていたし、事故のことはそうとうショックだった。

何年も傷が癒えないまま過ごしていたら、今度は剣道で壁にぶつかった。


正直、心がボロボロだった。

だからもう、考えるのはやめてしまいたかった。

何も考えないで、日々を過ごしたかった。


だから俺は引きこもりになった。


…さて、ご飯まで時間があるか、その間少し寝よう…

時間になったら、かわいい弟が起こしに来てくれるしな。


そう見慣れた天井をを最後に目をつむり、寝ようと思った。


何分か、何時間か、時計を確認しようと目を開けると、そこは空だった。

見慣れた家の天井ではなく、空、しかもとてもいい晴天だ。


家の天井でも吹っ飛ばされたのか、と思ったが背中から伝わる感覚で違うと気付いた。


これは落ちている。

俺は今、空から落ちているのだ。


わずかに伝わる生暖かい感触と何かを切る音、それと、次第に遠くなっていく空模様。

上手くすれば体制を逆転して、近づいてくる地面を拝めることができるだろう。

流石にそれを見る勇気はない。


空から落ちている、ということは何時かは地面にぶつかるということだ。

だが、以外と不安な気持ちはない、この気持ちはどんな気持ちなのか一切分からないが。

もちろんもう一つの可能性、ずっと落ち続けるということも忘れてはない。


なぜここまで安心して推測ができるか?

だってこれは夢だろう?

目を開けたらいきなり空にいて、落ちている。

こんな非現実的なこと起こるわけがない。

しかも感触がある、ということは恐らく明晰夢だ。


なんでこんな夢を見ているのだろうか?

そういえば夢には意味がある、とどこかで聞いた。

空から落ちる夢? 何かに落ち続けるのだろうか?

実際人生は落ち続けてるとは思うが…どっちにしろ良い意味なんてないだろう。


夢と確信したなら一度目をつむろう。

もしかしたらこっちで寝たら、夢が覚めるのかもしれない。


俺は目をつむり、聞こえてくる風切り音で状況を確認する。

少しずつ、落ちていくスピードが速くなっている気がする、きっとこれは地面が近いということなのだろうか?

かなりの高さから落ちているみたいだから、地面とぶつかった瞬間、ただではすまないだろうな。

…いや、それぐらい頭を強く打たないと直らないのかもな…おれの引きこもりは。


そう考えてるうちに、背中に別の感触が伝わる、おそらくこれは地面だ。

その瞬間激しい轟音が響き、地面には俺を中心にヒビがはいっている。


死にはしなかったが、正直痛くて動けない。

というかあの高さで死なないというのは奇跡なのか?

夢だから不死身にでもなっているのだろうか。


痛みに少し慣れた頃、話し声が聞こえた。


「なかなか大きい音だったなー」


「遠くで何か落ちているのは見えた」


「えっ…見えたの?すごい視力だね…」


声の感じから、男1人、女2人の3人組。

もちろん声からだからもっといるかもしれない。


「おっ、本当だ、何か落ちてる隕石か?」


「宇宙の神秘は素晴らしい」


近づけば足音も聞こえてくるが、どう聞いても2人分の音しか聞こえない。

一体どういうことなんだ?

誰かスピーカーで通話でもしているのだろうか。


「ざーんねん隕石じゃなくて人だわ、もしもーし生きてるー?」


「生きてない方が良かったか?」


「ほう、あの高さから落ちて生きてるとは、お前なかなかしぶといな」


「いや…それより怪我してるよ?そっちを心配しよう?」


俺を覗き込むように声の主である3人は現れた。

お察しの通り男1人、女2人の3人

足音が2人しかいなかったは、そのうち分かるだろう。


「結構な高さだったよなぁ…ほらよ」


「助かる」


男は手を差し出し、俺を起こした。

まだ痛みが引いてるわけじゃいから、上半身を起こすのがやっとだ。


すると女の1人が背中へ回り込み、何かぶつぶついうと途端に痛みが引いていった。


「…何をしたんだ?」


「えっ…回復魔法ですよ…?」


…魔法?

こいつは中二病か何かなのか?

しかし、痛みが引いたのは現実だ。


「魔法を知らんのか?この世界でそういうのを見るのは始めただな」


「いや世間知らずなだけだろ」


ようやく周りを確認でき、状況を理解する。


まずここは荒野だ、しかも広大な。

こんな光景、日本ではまずないだろう。


その次に足音が少ない理由が少しわかった。

女の1人は椅子に座っており、それを宙に浮かせて存在していた。

きっとあのまま移動もできるはずだ、それならば足音が1つ少なくてもおかしくないだろう。


その三に3人の衣服が少しおかしいことになっている。

いうなればRPGの服装と同じ。

鎧、なんてものなくても鎖帷子を着ていたり、魔女の帽子をかぶっていたり


夢だとしても、これはおかしいだろう。

空から人が落ちて、そこに人が集まって…?しかもその人物は冒険者の恰好をしている。


これはどこのゲームの世界なんだ?


「おーい大丈夫かー?」


男が俺の顔の前で心配そうに手を振りながら聞く。


「あ…あぁ、いやちょっとビックリして…すまないが周りが見渡せるような所はあるか」


「え? あぁ、ここまっすぐいったところだよ」


俺が今、向いてる方向とは逆の方向を指さし、俺は立ち上がって駆け足でその場所へ急ぐ。


案外その場所は近く、崖だった。

正直もう少しちかければ落ちた衝撃で、さらに落ちていたかもしれない。


そしてそこから見える風景で、俺は確信した。


見覚えのない風景、明らかに現代とは考えられない景色。

そして、見たこともない生物が空を飛んでいること。


これは夢じゃない、いやもしかしたら夢なのかもしれない。

夢だと思いたい。


どうやら俺、弧堂 燐斗(こどう りんと)は異世界へ迷い込んでしまったらしい。

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契約の祭壇 港龍香 @minatoRK

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