3話目「大通りの人気者」
フィリピーヌは純正のハルピュイア
つまりハーピーである。
元々は山の奥深くでひっそりと暮らしていたが、時々来る人間を捕食してしまうため、それを止めたいと常日頃思っていた。
フィリピーヌは成体のままでいると捕食の欲求が高まるため、幼体に姿を変えた。
しかしその姿は人間とは非なるものだった。
成体だったら隠せばいけるのだが、成体のまま人間の中に潜り込むのは一番迷惑がかかる。
苦悩していたフィリピーヌに突如好機が訪れた、それが妖怪が少し認知されてきた世界である。
幼体に戻り、山を飛び出し都会へと足を運ぶ。
そしてそこであったのが 人深 紗羽と虚奥 霊である。
そしてそのフィリピーヌは今、交番にた。
「まーたやってしまったなー」
「ねーまーたやっちゃった」
フィリピーヌの向かいには警察官がおり、ファイルに綴じてある書類を眺めながら話を聞いていた。
「あー、でも我慢できたの最長記録だなー頑張ってたな」
「最近嬉しいことがあったから、少し油断しちゃった…えへへ」
「へー、何があったんだー?」
そう聞かれると、自慢げに胸を張りながら
「えっへん!ついにフィリにも後輩ができたのだ!!この街に来たばかりで吸血鬼って言ってた!」
「おー、…そういえば新しい妖怪がきたーって言ってたなぁ」
警官は机の後ろにある棚から1つのファイルを取り出し、それを開いた。
「りーにぃそれなぁーに?」
「んー?もし妖怪が襲ってきたらどう対処すればいいのかのしおりだ、お前もこの街にきたときに、どう対処すればいいのか?って聞かれたろ?」
「あーそういえば聞かれたかもー」
武器を持たない人にとって、妖怪は凶暴な動物と同義だった、そこでこの街ではどのようなときに襲われるか、一般人からしてどう対応すればいいのか、ということをその妖怪自身から聞き出し、一般人に配布しているのだ。
今では一家に一つは置かれているらしい。
「これも新しくなるんだなーって吸血鬼は初めてきたからなー」
「へぇ~~~」
警官がしみじみとしていると、ふと何かを思い出したように
「っと、あんまり長話になるのはいけないな、バイト帰りだったんだろ?」
「ハッ!そうだった!フィリお家帰らなきゃ!!」
「よし、じゃぁこう書類には…こうかいて…っとよし帰っていいぞー」
バインダーに止めてあった紙にそれらしいことを書き、フィリピーヌに向かって帰れというジェスチャーを取った。
「フィリがいうのもなんだけど、そういうのってちゃんと書かないとダメなんじゃないの??ぶちょさんはこわーーーい顔して聞いてきたよ?」
「俺は部長じゃないからなー、だってフィリは人を襲いたくて襲ってるわけじゃないんだろ?本能には抗いにくいしさ、でもそれでも抗って我慢してる時もあるんだ、そういう頑張り俺は分かってるから、いいんだよこれで」
「そっか…そっかー!」
フィリピーヌは警官の言葉を聞き、一層喜んで交番を出ると、一人の女子高生がフィリピーヌに気が付き、
「あれー?フィリちゃん捕まっちゃったの??」
「えへへ~そうだよ~~」
「そっかぁ~フィリちゃんはちゃーんとおまわりさんの言うこと聞いてえらいな~~!よーーし!なでなでとおかしをあげよー!」
「わーーーい!!!」
カバンからペロペロキャンディーを取り出し、それをフィリピーヌにあげ、空いている手で頭をなでていた。
「…フィリ!」
それを見ていた警官の声にフィリピーヌは警官の方を向き、
「お前はこの大通りのアイドルだよ!だから、笑顔で元気にな!」
「…うん!!」
その言葉をうけ、フィリピーヌはにこやかな笑顔で答えた。
フィリピーヌが女子高生と別れ、家路についている頃、交番には少し若めの警官が巡回をしていたのか、帰ってきた。
そして机の上のバインダーを見て
「あれ?フィリちゃん来てたんですか?」
「おう、人襲いそうになってた」
「あららー最長記録更新してたのに」
そういいながら自分の机に付くと、若手警官がふと疑問に思ったのか
「そういえばフィリちゃんってバイト帰りずっとこの大通り通りますよね、誘惑が多いなら裏道通ると思ったんですが…」
「ハーピーの欲求って人数多い少ないに関わらず人間を見たときに出るんだと、そりゃぁいっぱいいた方が誘惑は多いとは言ってたが、人通りの少ない所だともし襲ったら、誰にも見つからず捕食しそうだから、人目の多い所を選んでるんだってさ」
なるほど、と若手警官が納得していると続けて
「最初こそ怖がられていたが、今ではフィリの捕食はこの大通りの名物だし、フィリ自体アイドルだからな、もし人に何か危害を加えたら俺らは実力行使でフィリを抑えなきゃいけないし、良くて追放、悪くて死刑だ。フィリが見られなくなるのは大通りの人たちも嫌なんだよ、だからこそ自衛力もあるし、フィリを正気に戻そうと止めようともする、荒れてた大通りだって今では空気の読めないごろつきが来るぐらいだしな」
警官はふと扉の向こうに見える大通りの風景を見てそう答えた。
「確かに荒れていた時期が懐かしいぐらいですもんねぇ…」
若手刑事がそうしみじみとしていると、外へ通じる扉とは反対側、つまりは建物中へと通じる扉から一人の男性が現れた。
「おい」
そのこれはドスの聞いたような声で非常に重く、刑事も若手刑事も嫌な予感を感じながら恐る恐る男性の方を見る。
「おやぁ部長~!どうしました~?」
「また、ハルピュイアがきてたそうだな?」
「えぇ、久しぶりに人を襲ってしまったそうですよー?」
警官は空気を和ませようと、軽い口調で部長と受け答えをする。
「人を襲った…まぁ今はそれは置いておこう、本人がいない中では話合えないからな」
「あーちょうど帰っちゃいましたね~」
「ならお前にしかできない話をしてやろう」
部長は先ほどまで警官の机の上にあった、バインダーを手に取り、警官に見せつけながら
「調書はきちんと書けと言っただろう魂佐ァ!!!!」
「すみませんでしたっ!!!!!」
魂佐 李剣(こんさ りけん)はその後、みっちりと部長に怒られたそうだ。
だが、彼がきちんと書く気配は全くなかった。
スペクターストーリーズ 港龍香 @minatoRK
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