第6話
最近の私は、家に帰り着くと、手早く夕ご飯を済ませ、シャワーを済ませ、YouTubeを堪能する時間を十分に確保する。
一ノ瀬くんの10分程度の動画を繰り返し眺める。
多分私だけで、一本あたりの再生回数は10くらい稼いでいると思う。
教室で一ノ瀬くんが隣にいる時間も幸せだけど、YouTubeで一ノ瀬くんを見る時間もそれと同じくらい私には幸せなひと時だ。
普段は真っ直ぐに一ノ瀬くんのことを見れない私も、画面越しでならずっと見つめあっていられた。
15センチ先で屈託のない笑顔で私のことを見る一ノ瀬くん。
触れられないけど、現実に私の前にはいないけど、一ノ瀬くんのことを想える、見つめあっていられる、私を素直にさせてくれる、その距離はもどかしくもあり適切な距離にも思えた。心地よいと思う。
けど。その先にいきたいという気持ちも、もちろんある。
「また、見てるの?」
お姉ちゃんは部屋に勝手に入ってきては、いつも私の幸せなひと時の邪魔をする。
でも、お姉ちゃんと2人で一ノ瀬くんの動画を見るのも、実はそんなに嫌いじゃない。
「……好きなの」
私が諦めて、お姉ちゃんにそう告げたのはもう2週間も前のことだ。
お姉ちゃんが私のことを気持ち悪いと言ったちょうど翌日のこと。
「一ノ瀬くんかあ、いいじゃん」
一ノ瀬くんの動画を見たお姉ちゃんは言った。
「バカっぽいけど、いい子そう」
そう一ノ瀬くんを評価したお姉ちゃんは、今、私の恋を応援してくれている。
そして今日、もっと先へいきたいという私の気持ちを、後押しするような発言をお姉ちゃんはした。
「もう本名でコメントしちゃえばいいじゃん」
「同じクラスの朱莉です。一ノ瀬くんのことが好きです。って」
お姉ちゃんはそう言って、YouTubeのコメント蘭を表示する。
「私、結構真剣なの。だから、そんな軽い気持ちで、告白はしたくない」
「じゃあ、普通に面と向かって告白すれば?」
「そんなのできっこない」
私は自分が告白する姿を想像して、お姉ちゃんの提案を即座に否定した。
「そっか。まあ、朱莉のペースでやればいいよ。相談あればいつでも乗るからさ」
そう言って、部屋を出た。このことに関して、あまり行き過ぎたことを言わないお姉ちゃんは、温かく私を見守ってくれているのだなと感じる。
「ありがとう」
お姉ちゃんが出て行ったドアを見ながら、私の口から小さく溢れた。
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