第5話
YouTuberの一ノ瀬くんを応援し始めて、1ヶ月が過ぎた。
多少贔屓目はあるかもだけど、一ノ瀬くんの動画のクオリティは、日に日に高まっていると思う。
何の手も加えられてないホームビデオみたいな動画から、カットとか文字とか入れて手の込んだものになってきた。
私としてはカットなんてしなくて、無添加の一ノ瀬くんを見ていたいんだけど、そんな私の思いとは反比例して、一ノ瀬くんの動画はコンパクトになっていった。
そして、チャンネル登録者、再生数が少しずつ伸びていく。
そのことを、私は、まるで自分のことのように嬉しく感じる。
あ、再生数増えた! 高評価ついてる!
私はそれを逐一確認しては、1人舞い上がっている。
チャンネル登録者が1人増えただけで、私はニヤニヤが止まらないようで、
「やっぱ、最近の朱莉、気持ち悪い」
お姉ちゃんが笑いながら、私に突っ込みを入れた。
多分顔を真っ赤にして、睨みつけると、
「いや、いい意味でだよ、いい意味で」
そう言って、お姉ちゃんは爆笑した。
もう! 全然フォローになってないし!
いい意味で気持ち悪いって言われても、私少しも嬉しくないし、リアクションにも困るんだけど。
声に出す代わりに自分の部屋へと引き篭もる。
まあ、でも。およそ5分おきにYouTubeを開いては動画が更新されていないか、何か変化はないかと確認してしまう私は、はたから見たら確かに少し気持ち悪いかもしれない。
私の最近のマイブームは、昼休みの一ノ瀬くんと清水くんの作戦会議を盗み聞きすることだ。そして、その日に上がる動画のタイトルを予測すること。
「人間から出てる穴は全て繋がってるよな」
ある日の昼休み、一ノ瀬くんが言った。
「穴?」
清水くんが問う。
「だから、穴だよ。穴。鼻とか口とか耳とか」
「耳とか?」
「あと、おしり、とか」
若干言いずらそうに一ノ瀬くんが言った。
一瞬私の方を見た気がしたけど、多分周囲を警戒したのだと思い至る。
「だから、レベル1は口から入れて鼻から出すみたいな。で、どんどん難しくして、俺はどこまでやれるのか、てきな」
「レベル1で根を上げるに一票だな。レベル0は口から入れて、おしりから出すのか? それなら俺にもできそうだ」
清水くんはそう言って笑った。
「くそー見てろよ、ケツから入れて、耳から出してやるからな!」
悔しそうな表情で清水くんを見ながら、そう意気込む。
一ノ瀬くんはアホだった。
でも、そんなとこも含めて、一ノ瀬くんの全部が私は好きだ。
ちなみにその日の動画のタイトルを私は「耳と鼻は果たして繋がっているのか」と予想したのだが、正解は「大腸は偉大だった」ということで、残念ながら外れてしまった。
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