第3話
「下校中の草を料理して食べてみたwww」
一ノ瀬チャンネル・視聴回数15回・24分前
おそるおそる画面を見ると、トップに表示されたのは一ノ瀬くんの姿だった。
ポチり。
私は中央の三角の再生ボタンをクリックする。
「こんにちは一ノ瀬です……!」
いつもより元気で、だけどちょっと恥ずかしそうな一ノ瀬くんの挨拶で動画は始まった。
服装はいつもの学生服で、ボタンを1つ外して着崩している。
「今日はですね、下校中の草だけで、飯を作ります! ちょっと、不安だけど、多分野生味溢れる味になってくれるはず」
一ノ瀬くんはそう言うと、帰宅しながら草を集め始めた。
「これなんか、どうよ」
一ノ瀬くんは視聴者と会話するように喋る。
「ほらこれなんかさ、めっちゃ新鮮そうじゃん。まあ、どれも新鮮なんだけどさ」
一ノ瀬くんは真剣に吟味しながら採取していた。
「これだ! この大地を、自然を生き抜いた感じ」
道端に発見した縦長の草を、まるで高級魚でも手にしたかのように扱う。
一ノ瀬くんの顔から笑みが零れる。
「うーん、メインはこれだな。スープはこの草からだしをとって」
家に帰った一ノ瀬くんは料理にとりかかった。
一ノ瀬くんの家のキッチンは綺麗に片付いていて、雑草を調理するには似つかわしくない気がした。
時々テレビの音が聞こえてくる。
一ノ瀬くんは真剣な顔で調理していたが、出来はかなり酷そうだった。
スープは草をお湯で煮て醤油を加えただけだし、メインは黒焦げになってふにゃふにゃしてるし、デザートは凍らせただけ。前菜に至っては、何の手も加えず、お皿に形のいい草がでん、と置かれているだけだった。
どの草料理もただの雑草にしか見えぜず、食べるまでもなく絶対においしくない。料理とは呼べない。
そう思いながらも、今画面越しにある草たちなら食べてみたいと思ってしまう私は、自分で自分が変だと思う。
「げろマズ!」
一ノ瀬くんの第一声はそれだった。
勢いよく、前菜の草が口から吹き飛ぶ。
そして吐き出した草を、また強引に口の中へと押し戻す。
「う、口の中が猛烈に拒絶している!」
一ノ瀬くんはそう言って悶えた。泣きそうな顔になる。
なんか可愛い。
「これは人間が食べる物じゃないな」
食卓に広がるフルコースに、忌々しい視線を送りながら一ノ瀬くんは言った。
「一体なんの罰ゲームなんだ」
「原始時代だって、もっとまともなもんを食べてるに決まってるんだ」
とかなんとか言いつつも、一生懸命完食した一ノ瀬くんを私は愛おしく感じた。
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