第2話
ところで動画って、なんのことだろ。
私は学校からの帰り道、昼休みの一ノ瀬くんの慌て顔を、頭の中で再生していた。
そういえば、最近YouTubeがどうのこうのってのもよく聞くような気がする。何か面白い動画でも見つけたのかな。
「ただいまー」
玄関を抜け、リビングを通過して、二階へ。
「お、おかえり」
お姉ちゃんが隣の部屋からひょこっと顔を出して言った。
「なに、考え事?」
「んー、ちょっとね」
私はそうごまかして、自分の部屋へと逃げ込む。
私のお姉ちゃんは妙に鋭いところがあるから、ちょっと困る。
3年生になった初日に「クラス替え良かったんだね」とか言ってくるし、4日目には「なに、彼氏できたの?」とか聞いてくるし。
「え、できてないよ」
「じゃあなんでそんな幸せそうな顔してんのよ」
そう言って、お姉ちゃんは「最近の朱莉から出る幸せオーラがヤバい!」と笑った。
私、そんな顔に出てるかな。
ポチポチ。ポチ。
夕ご飯を食べてお風呂から上がった私は、1人リビングのソファに横になって、スマホをいじる。
溜まってたラインの返信をしてから、YouTubeのアプリを開いた。
何か面白い動画あるかな。
そう思って開いてみたものの、何を検索すればいいのかが私には分からなかった。
仕方なく、よく聞く音楽のpvを眺める。
そういえば一ノ瀬くんはどんな音楽が好きなんだろう。
私はお気に入りの歌を口ずさみながら、一ノ瀬くんのことを考えた。
一ノ瀬くんは何を聞くのかな。
一ノ瀬くんはどんな動画を見るんだろう。
一ノ瀬くんは何が好きなのかな。
一ノ瀬くんは、
一ノ瀬くんは……。
気付いたら、私は「一ノ瀬くん」とYouTubeで検索していた。
わ! 無意識に「一ノ瀬くん」と指が勝手に動いていた私は、冷静になって自分の行動が恥ずかしくなる。
「なに、水泳の練習?」
足をバタバタさせて恥ずかしさを紛らわせていた私にお姉ちゃんが言った。
言いながら、私のスマホを覗き込む。
画面には、よく分からない一ノ瀬くんという名のキャラクターたちが表示されていた。
「勝手に見ないで」
私はさっと、スマホの画面をオフにする。
「なに、YouTube?」
「うん」
「好きなことで生きていく!」
唐突にお姉ちゃんが宣言をした。
「あれ、YouTuberのCM、知らない?」
あ、聞いたことある。
「知ってる」
私はそう答えながら、ひょっとしてと思う。
ひょっとして、一ノ瀬くんはYouTuberになりたいのかも。
それだと最近の私には理解不能な会話も、動画のネタってことで説明がつくような気がする。
「YouTuberすごい人気だよねー。てか、うちの高校にもYouTuber目指してる人いるくらいだしさ。あ、でも、その子の動画クソつまんないだけどさ。多分あれは黒歴史になるよー」
お姉ちゃんは哀れみの声で言い、苦笑いを浮かべた。
「私、先に寝るね、おやすみ」
部屋に戻って、スマホの画面をつける。
YouTubeの検索欄には、まだ「一ノ瀬くん」とあるままだった。
私には手がかりがこれしかないから。私はそこにこう付け足す。
「一ノ瀬くんは道端の草を食べる」
検索。
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