第27話 公達の名前

 そして、ようやく公達の名前が敦盛だと判明します。修理大夫しゅりのだいぶ経盛つねもりの息子で、大夫たいふ敦盛。歳は17。満でいうと15歳で、やっぱり中三くらいですね。教科書にもあらすじっぽいところにサラッと書いてあります。


 文学全集では、この公達が何者であるかを知るために直実さんはボクのところに首を持ってきた、ということになっていました。手柄がほしいためではないそうです。


 それくらい、直実さん、気落ちしています。

 『熊谷二度の先がけ』は、お話としてはイマイチな感じがするけど、あの意気揚々とした感じとの対比が素晴らしいです。


 それになんかコメディタッチでクスっと笑える感じがします。

 源氏方の人たちが誰が一番乗りをするかで、心理戦をしています。


 日本人の伝統なのでしょうか。

 運動会で「一緒にゴールしようね」と言っていたのに先に行かれてしまうような物語ストーリーです。


 800年経っても、日本人の基本は変わらないのかもしれません。

 そんなあるあるが一般の人にも、殿上人にもウケたのでしょう。


「賞金首、どこだ~! 俺様はまだ手柄を立ててねーぞ!」

と言っていたのがウソのよう(そこまで言ってない)。


 ちなみに、修理大夫は宮中を修理するところの長官だそうです。実際にトンカン修理をしていたわけではないそうですが、かなり高い位のようです。敦盛自身の『大夫』も、それに次ぐ高位の役職です。


 くらいがよくわからなかったので、ざっとネットで調べました。


 ボクは手柄を立ててようやくもらったのが『検非違使けびいし』で五位だそうです。これをもらうと宮中に入れるようになります。兄上に「位なんてもらってんじゃねえ!」と怒られたアレです。


 ボクは位なんて、どうでもよかったです。交渉するために必要だったというだけです。後白河法皇に「来て、お話しようよ」と言われて宮中に行ったのに「位がないので庭までです」ってことになりました。


 でも法皇さまには「来てって言ったのに、どうして来てくれないの?」と言われます。ボクが行く度、法皇さまにお出ましいただくわけにもいかず、便宜上もらっただけの位なのに、兄上にめっちゃ怒られたという。納得いかない……。


『大夫』が検非違使とほぼ同格の五位で『修理大夫』がこれよりも高い四位だそうです(ネット調べ)。平家に生まれたというだけの17歳が、これを持っていました。納得いかないんだけどな……。


 役職は、能力で決めてほしいです。

 実力がある方は私も応援したいですが、笛の音が美しいだけでは、政治はできません。と、政治力からっきしと言われたボクが言ってみる。


 平経盛は清盛さまの弟で、経盛さんの三男が敦盛さんだそうです。

 経盛さんも壇ノ浦の戦いで亡くなりました。


 直実さんが言っていたように、息子の死を嘆かれたのかもしれません。

 家族を大切にする平家と言われていました。


 でも、誰だって、近しい人間が亡くなることを、喜ぶはずがありません。

 ただ、それを表に出してしまえば、全体の士気が落ちます(ボクは出しまくったけどね)。


 表に出さなかっただけで、皆、悲しい想いをしていました。源氏だって『褒美よこせ、褒美よこせ~』ばかりじゃありません。やりきれない思いを褒美という方向に持って行こうとしてただけかもしれません。平家だけではないはずです。悲しみに暮れるか、悲しみを怒りに変えるか。でも、怒りに変えたとしても、その結果は……。


 それまで、貴族のような生活をしていた平家は、どうやって乗り越えたらいいのかわからなかったのかもしれません。


 ボクの家の源氏とは違う光君ひかるきみの『源氏物語』などでは失恋しただけで生きる気力をなくして死んでいます。

 ……貴族って、それだけで死ぬの? と思います。


 源氏物語では、お父さんの桐壺帝の奥さん(義理の母親)を寝取った光源氏が、それから時代が下り、自分の(それほど)好きでもない奥さんを寝取ったお友達(義理の兄)の息子(光源氏の甥)をねちねちいじめ、お友達の息子さんはそれで思い悩んで亡くなってしまうという。ドロドロにも程がある……。そんな平安時代から鎌倉時代にしようとしていたボクら、偉くない?


 ……戻しますです。

 そして、敦盛くんが持っていた笛は、祖父の忠盛ただもりさん(清盛様と経盛さんのお父さんで、1話の祇園精舎の下の方で、この方が武士で初めて殿上人になったと大騒ぎされた人です)が笛の腕を褒められて鳥羽院とばいん(崇徳院・後白河法皇のお父さん。5話に出ていた方です)からいただいた物だったそうです。


 この時代は、天皇が一番エライです。国民主権ではありません。天皇が一番偉くて、貴族がいて庶民がいます。カースト制度みたいな感じですか? とにかく身分が面倒くさい。だから、直実さんは身分でどうのと言ってます。ボクも身分が上がって面倒くさいことになりました。


 この時代は天皇が退位しても実権を持つことができました。退位した天皇は『院』『上皇』、出家をすれば『法王』と呼ばれました。


 後白河法皇なんて、退位した後、権力を使いまくります。それに、断るのが難しい言い方をしてくるんです。

「位がないと不便じゃろ? だから官位をあげるからもらっとき」みたいな?

 こっちも庭で待たされるのが嫌だから、「あ……、はい。じゃあ、ください……」という感じでした。


「持ってて何の損もないし」と、ニコニコ言われました。

「カード、作りませんか?」に、似ている手法です。「入会料無料、年会費も初年度無料」みたいなやつです。後でとっても面倒くさいことになる。使いすぎて、気づいたらカード地獄みたいな?


 その面倒くさい後白河法皇のお父さんの鳥羽院がくださった笛。

 だから『すごい笛だった』ということです。


 鳥羽上皇も、けっこう面倒くさい香りがします。ボクはお会いしてませんが、父上や祖父上・叔父上が迷惑を被ってます。保元・平治の乱の原因になった崇徳上皇と後白河法皇の兄弟の確執を作った方です。。


 ざっくり言うと、天皇よりも力を持っていた人がくれた物ということです。

 笛の名手だった敦盛の祖父が鳥羽院からいただいた笛を、笛が上手だったという理由で敦盛が受け継いだそうです。


『小枝』という笛だったとか。


 ペキっとへし折れそうな名前ですが、素敵な笛だったのではないでしょうか。

 小鳥が止まって美しい歌声を披露するような感じですかね。


 そして、熊谷次郎直実さんは出家を強く望むようになったそうです。

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