第28話 いろいろなところで影を落とす例の御仁


 実際の記録では、敦盛くんのことは直実さんの出家にあまり関係がないように思えます。この話の流れだと、一ノ谷の戦いが終り、源平合戦の最中に出家してしまったのか、という勢いです。


 ボクもきっとそうなんだろうと思ってネットで調べました。

 直実さんの出家は1193年だそうです。……ぇ


 一ノ谷の戦いが1184年なので9年後です。

 平家が滅ぶのは壇ノ浦の戦いがあった1185年です。


 源平合戦、終わってるよね?


 ボクが平泉で自害したのは1189年で、直実さんはその後も兄上に仕えていたようです。直実さんは兄上の家臣なので、ボクと鎌倉方の対立が表面化してくれば、ボクとの関わりはなくなります。


「ついて行きます!」って言ってくれれば「はいは~い、ど~ぞ~」って言います、たぶんですけど。でも、それはなかったようです。ついてこなくて正解だと思いますけど。


 1193年に直実さんは直実さんの伯父さんと領地争いをして「どうせ景時と伯父は仲がいいから、自分には不利な助言しかしていないだろう!」と、頼朝の兄上の前でタンカを切って、家に帰る途中で髷まげを落とした(お坊さんになった)そうです。


 景時? なんで?

 そういう時の悪役って、みんな景時になってないか?


 でも、目に浮かぶようです。

 景時アイツのせいか……。


 景時は実力があって真っ直ぐな人を蹴落けおとす傾向にあるように見えます。ボクは実力重視だから、真っ向から対立します。


 ボクの周囲には使える人しかいません。というか、考え方の違いかな? 何が大事かという考え方が違っているのかもしれません。


 人の得意分野は、それぞれ違います。

 ボクは長けている部分を伸ばせばいいという考え方をしています。


 ボク自身、欠点はたくさんあります。

 力が弱いとか体力ないとか弓が苦手とか。


 そこも利用はしますが。

「体力ないんだっ、だからやって?」みたいな?


 弱点をうまく利用できれば、他の部分は悪くないのです。

 性格は別に悪くないと思いますよ。人当たりいいし。


 それはともかく、まんべんなく人並にこなす人を集めるより、他が人より劣っていても、何かのエキスパートを集めた方が結果を出せます。


 誰かの苦手は、それを最も得意とする人に任せればいい。

 そうすればその集団の力は、秀でた人の能力のレベルになります。


 最強です。

 それは、歴史が証明してくれています。

 思いっ切り話がそれました。



 景時と仲が悪いと言うことは、直実さんはいい人なのかもしれません。敵の敵は味方の論理。ボクとしては、兄上の元にまともな人が一人でも多く残ってほしいというのはあります。景時みたいなのばかりだと、こちらの意見がますます伝わらなくなります。


 しかも、直実さんは息子の直家くんや平山季重すえしげさんのように、奥州合戦で手柄を立ててなどいません(←かなり根に持ってます)。


 直実さんは、武芸には秀でていたけれど、口下手だったそうです。

 親近感がわきます……、ボクは口下手じゃないけど。余計なことを言っちゃうだけ?


 そんな、直実さんが主役を務めた『敦盛の最期』

 ずっと武士していた猛者の直実さんが、「賞金首、どこだ~!」から、袖を顔に押し当ててさめざめと泣いてしまうようになります。


 大きくまとめると『戦争って嫌だね』というお話でした。




***




 ちょっとだけ、言いたいことがあります。

 ボクは自分の意見があって、でもそれが絶対に良いというわけでもないと思っています。景時の考え方が良い時もあるし、ボクの考え方が良い時があります。

 誰にどんなことが必要なのかは、その時々によって違うからです。


 でも、ボクは景時と合いません。

 景時が得意としていることは、ボクには必要ありません。


 たとえば、ハッタリは実力があってはじめて意味を成します。

 実力のないハッタリは、ボクは怖くてできません。


 面白いハッタリならいいです。

 皆で楽しくなるようなハッタリです。


 でも、面白くないハッタリは危険です。

 眉をしかめてしまうようなハッタリは、上手くいったように見えても、どこかに傷を残します。


 ただ、そういうことも境界線は難しいです。

 どこまでが楽しいハッタリで、どこからが楽しくない悪いハッタリか。


 ボクはしませんが。

 できると思わなければ、しません。


 ハッタリは要するにウソです。

 ハッタリウソなどではなく、フツーに面白いことをすればいいのではありませんか?


 自分たちが楽しいでは、いけないことは確かです。

 でも全ての人に良い結果というのは、そうそうありません。


 平家に良いことは、源氏には悪いことです。

 源氏によいことは、平家には悪いことです。


 戦って、血を流している相手同士で、両方に良い結果などありません。

 あったとしても、ボクはそれを見つけることができませんでした。


 平家を完全に滅ぼす、源氏の勝利。

 結果的にボクがしたのはそれでした。


 戦には勝ちましたが、ボクに与えられた二つ名は『悲劇の英雄』です。

 でも、源氏の復興のためには必要だったと思っています。


 本当の勝者は誰だったのでしょう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る