第11話 従兄の木曽義仲くん

 以仁王の令旨それを受けて関東の武士を中心に旗揚げした人がいました。旗揚げは人を集めて「戦うぞ~」と宣言することだそうです。宣戦布告みたいなモノのようです。


 兄上の源頼朝や、木曽きそ(現在の長野県)に住んでいた源義仲よしなかなどです。


 よく名前があがるのはこの二人です。

 他にもいるはずなんですけど、それを調べるのも楽しいかもしれませんが、ボクが解説したいのは『平家物語』です。


 できるだけ横道に逸れたくありません。

 逸れに逸れまくってますけど、本題に入る前に長くなってますけど、平家物語を読むための基礎知識じゃなくなってるかもしれないけど。


 どうしてこの二人なのかは、一番はじめに平家を京の都から追い出したのが義仲くんで、最終的に頼朝あにうえが平家を倒して鎌倉幕府を作ったからだと思われます。




***




 京の都にいた平家を追い出したのは木曽義仲くんです。

 これ、すごいことなんです。「そんなことできちゃうんだ」みたいなレベルの出来事です。つまり、絶対王者に一番初めに黒星をつけたのが義仲くんでした。


 でもその後、義仲さんご一行は、京の都でとても行いが悪かったようです。平家よりもタチが悪いと言われるようになってしまい、後白河法皇から兄上に「義仲を倒して欲しい」という要望がありました。


 行いが悪かったと言っても、木曽の人たちが京の都の勝手がわからなかったという程度のものだと思います。どちらかというと、誰を天皇にするかという話に義仲さんが口出ししたのが後白河法皇のお気に召さなかったそうです。


 そういうことが書いてあると、「ああ、納得」って思ってしまいます。

 タヌキだから、あの法王様。味方だと思っていると手痛いしっぺ返しを食らいます。


 食らったボクが言うんだから間違いないです。


 でも、何か理由があったのでしょう。

 他人ひとを奈落の底につき堕としてでも、守らなければならない何かが。




***




 義仲くんはボクのパパの弟の源義賢よしかたさん(ボクの叔父さん)の次男で、ということはボクの従兄です。でも義賢叔父さんは6話の河内源氏の人々で語った、悪源太兄ちゃんが討った叔父さんです。


 この流れで行くと、パパの息子で悪源太な義平兄ちゃんの弟である兄上・範頼兄ちゃん・ボクのウチの源氏にとって、義仲さんが京の都から平家を追い出したのは都合が悪いです。仲の悪い親族は他人の敵よりタチが悪いです。


 仲が悪いというか親の仇?

 もしかしなくても、ボクらにとっての清盛様の平家一門みたいな感じなのかも?


 えっと、そこへ後白河法皇様のお達しです。

 渡りに船でボクと範頼兄ちゃんが義仲くんを討ちに行きました。


 大変でした。

 ボクの人生で一,二を争う大変な戦だったんじゃないかな?


 しかもこれ、ボクの初陣だったんです。

 初っ端から大軍率いて戦ですよ……。


 ふつう、初陣って言ったら、もっとなんか父上がいて兄上がいて、「よし、ボクもがんばるぞ~。えいえいおー」みたいなノリなんじゃないんですか? 元服(昔の成人式。大人になると髪を切ります。だいたい十五歳くらいが成人の年齢です)したてのはしゃぐ子供に、それを心配そうにみつめる保護者たちみたいな。


 そういうのもあると思います。至れり尽くせりで後ろでちんまり守られている幼い大将というのも。でもボクは、元服したてでもなかった23歳だったので、意識飛ぶくらいに来たら切る、来たら切るを繰り返す感じでした。


「殺す気だよね? 義仲くんじゃなくて、ボクのこと殺す気だよね?」みたいな感じでした。兄上は「後ろの方で大人しくしていろ」って言ってたのに、なんかそれを覆すような目に会いましたです。


 兄上は守ろうとしてくれていたけど、それ以外の人たちがボクを殺そうとしているような気持ちになりました。「兄上がいれば、お前らなんてけちょんけちょんに怒られるぞ。お覚えとけよ!」って思ってました。そう思ってないとやってられません。


 でも天狗さんに鍛えられていたから、自分では気づいていなかったけど強かったんです。「天狗さんならよけるのに、なんで切れちゃうの?」みたいな感じでした。天狗さんがとてつもなく強かったと知った瞬間でした。


 どんなにがんばっても、天狗さんは切れないんです。こっちがマジになっても敵わない。天狗さんは片手間みたいな感じでよけちゃいます。体中の神経を研ぎ澄まして、心技体が合わさって「これでもかっ」ていうのでようやく合格点をもらえるような感じで、でもそれでも当たらない。

 自分が強いなんて思えなかったです。


 それに、やっぱり味方が一騎当千でした。

 時代に無視された、それでも力があった人たちが味方になってくれていました。


 血筋に力があるのではありません。

 生まれはどこでも、頑張った人に力が付くのです。


 当時は血筋よりも才能が下に見られていました。

 平家に生まれたというだけで、地位を与えられていた時代でした。


 でも、才能は誰にでもあって、その才能を生かせる場所にその人を置けば、ものすごい力が生まれます。天才はその人が持つ才能を、最も効果的な場所で発揮できた人のことです。


 誰でも天才になれます。

 そしてボクの周りには天才がいっぱいいました。だからボクは結果を残せました。


 ただ、戦いが終った後の、血のように赤い太陽が目に染みました。




***




 義仲さんと戦っている間に、京都を追い出されたはずの平家は福原で勢いを取り戻しつつありました。


 あんなに強かったんだから、義仲さんと協力してたら、もっと早く平家を滅ぼせたんじゃないかと思いますが……。


 でも、仲良くできる、可能性はあったのでしょうか?


―― 共通の敵(平家)を倒すために、親の仇の親族と手を取って戦う。

 ボクにはわかりません。歴史はそうなりませんでした。


 ボクは噂とかじゃなくて、直接相手を見て決めたいと思っています。

 平家の人たちは嫌いだったけど、清盛様はそういう感じではありませんでした。


 「友だった」と寂しそうに笑って、父上のことを話してくださいました。



 会ったこともない父親のために、誰かを殺す。

 平家一門を根絶やしにする。


 ボクは、兄上がそうしなければと言っていたから、自分もそう思いました。会ったこともない父親の仇を取るために、好きだったわけでもないけど会ったことがある平家の人、そしてその家族と戦う人たちの総大将になっていました。


 義仲くんはどう思っていたのでしょう。平家を倒し、ボクたちとも戦って、どちらが上かを決めたいと考えたのでしょうか。


 ボクにはそれを知る方法がありません。

 本人がいないから、聞くこともできません。


 それに、いたとしても怖くて聞けないです。

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