第10話 以仁王の令旨

 清盛様が法皇様を幽閉して、犯罪者のようにされてしまった後白河法皇の第三皇子の以仁王もちひとおうが1180年に『以仁王の令旨りょうじ』を出します。


 有名なあの『以仁王の令旨』です。

 日本史のテストに出るかもしれません。


 『令旨』は皇太子や皇后、親王などの命令で、以仁王はそれを出すことはできなかったのですが、「大事なことだから」と令旨にしたそうです。でも朝廷側も令旨としていいのか否かというのでもめてるみたいです。


 すっごく面倒くさい。

 それは置いておいて、簡単に言うと以仁王の令旨は「平家を討て」という命令です。


 学校で習う時は、けっこうサラっと流された感じします。

「天皇になれる道がなくなった以仁王が、打倒平家で立ち上がります」と教わった気がします。


 こう聞くと、以仁王を源氏の人たちが持ち上げて平家と戦ったのかな? と思ってしまいます。「以仁王を天皇にするぞ~」とボクが平家と戦ったみたいなイメージを持つ方も多いのではないでしょうか。


 ボクは一瞬、そう思っちゃいました。

『あれ? そんな感じだったっけ?』と授業中に思いました。


 それでよく聞くと、以仁王は「天皇よりも平家の方がでかい顔をしている」と言って『以仁王の令旨』を源氏の人たちに出して、自分でも挙兵しようとしたけれど、その前に平家に抑えられてしまったそうです。


 調べてみたらなんかひどい。

 まず天皇になれる天皇家の人なのに、臣籍降下させられて(臣下が勝手にそんなことしたら怒られるんじゃないの?)源の苗字を与えられたとか。なんか、源って名前の扱い、悪くない? 罰みたいになってるし。皇室の人に付けられる名前だから悪いわけじゃないんだろうけど悪意を感じます。源氏のボクはなおさらそう思ってしまいます。


 それで土佐に流されることに決まって、でも以仁王は逃げて討たれちゃったそうです。でも『以仁王の令旨』だけ生きてたみたいで、兄上や木曽義仲さんとかが挙兵します。


 先生のお話を聞きながら、

「令旨を出した人がいなくなっててもいいんだ」

と、思いました。


 ただの口実だったのかもしれません。

 それに、出発する場所って、大事なのかもしれないです。


 攻める対象の近くだとすぐに攻撃できるけど、それは相手(敵)も同じです。以仁王は平家方にすぐに気づかれてしまいます。西国さいこく(関西とか四国とか九州とか)は平家に味方する人が多いです。


 でも東国とうごく(関東とか)は違います。

 目が届かなかったのでしょうか? 東国は源氏に味方してくれる人が多かったです。北条氏とか平氏なのに兄上の後見人みたいになってるし。


「兄上が挙兵したならボクも行くぅ~」

と、ボクも言っていたのですが、東北の奥州平泉(現在の岩手県)にいたので出遅れました。知らせが届くまでが遅い。電話とかありません。四国にいた希義兄ちゃんは兄上が挙兵しただけで討たれちゃったのに。


 でも「源氏として挙兵するなら討つ!」とボクに向かって言う人は、平泉にいたボクの周りにいませんでした。むしろ協力してくれます。


 だって、戦なんかしなくても豊な土地でした。

 金とか出たし。源氏物語とは違うキラキラ、ピカピカです。物理的にキラキラ。しかもそのキラキラがなんか地味。発掘してきた感じの金がゴロゴロ。地味にひっそりキラキラ。


 だから血気盛んな感じはなく、奥州藤原氏の秀衡様は「危ないからそんなのやめなさい」と言ってくださっていました。「若い子が戦場そんなところに行くものではありません」みたいな。


 でも、ボクはどうしても行きたかったんです。

 父上の仇を取るためではなくて、「兄上が挙兵するならボクも行く!」「兄上がすごいって言ってるから父上も悪源太兄ちゃんもすごい人!」になります。

 今、改めて考えてみると、「ナニこのお子様は……」と思います。


 行くと決めた時も秀衡様は佐藤兄弟が同行するのを認めてくれたし

「いつでも帰っておいで」と言ってくださいました。


 そういうことを言ってもらえると、嬉しいです。

 秀衡様、本当にありがとうございます。忠衡ただひら君も泰衡やすひら君もありがとう!




***




 兄弟が挙兵しているのだから、ボクも行かなきゃ。という感じです。

 こういうのって、タイミングが大事です。


 たまたまだとは思います。

 あれです。一本だと弱いけど、三本だと折れないってヤツ。戦国武将の毛利元就さんが言ってたっていう。ウチの源氏は6本ありました。


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。

 誰かが残って、清盛様を倒せれば、父上パパの仇は討てます。


 ボク(ついでに範頼兄ちゃん)はたまたま当たった矢です(矢は折る物ではなく、つがえて射る物です)。


 そして兄上は、父上の仇を取る以上のことをしました。


 それまでの世界とまったく異なった価値観を持つ、

 鎌倉幕府を作りました。


 ボクが兄上を尊敬する理由、ありすぎです。


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