第6話 河内源氏の人々

 ボクのひいおじいさんは八幡太郎義家はちまんたろうよしいえです。

 本名は源義家ですが、石清水八幡宮で元服したから八幡太郎と呼ばれていたそうです。


 ひいおじいさんのお父さん、つまりボクのひいひいおじいさんの源頼義よりよしさんと前九年ぜんくねんえきに行ってたそうです。

 前九年の役は奥州で起きた安部氏の反乱で、ひいひいおじいさんはそれを陸奥の守として平定したそうです。


 後三年ごさんねんえきは前九年の勝者、清原氏の内乱で、後三年の役で義家ひいおじいさんが源氏の頭領としての地位を確立したそうです。この清原氏が後の奥州藤原氏で、そのご縁もあって、ボクは平泉でお世話になりました。


 秀衡ひでひら様からひいおじいさんのお話をよく聞いていたから、ボクにとってはなじみのある人です。平泉に行ったのは、ボクが数えで16の時です。今の年に直すと、中2くらいです。


 平治の乱が終わって10年と少しくらい過ぎた頃です。

 ボクは平家の公達バカぞうとひと悶着もんちゃく起こし、京の都にいられなくなりました。若かったと反省する事もありますが、でもそのおかげで平泉に行けたから、ボクはのびのびとできる生活を得られました。ホントによかったよ。


 母上の再婚相手の一条(藤原)長成様のご親戚が秀衡様で、そのご縁でお世話になることになり、平泉に行きました。


「八幡太郎義家殿のひ孫様をお迎えできてうれしい」と、秀衡様はとっても歓迎してくださいました。


 それに、秀衡様だけでなく、いろいろな人が、源氏のことを教えてくれました。

 源氏は平家にひけを取らない立派な一族で、だから平家にくみする必要はなく、自分の意思で好きな所に行って良いのだと言われました。


 そんなこと言われたことなかったので驚きました。「あ、そうなんだ……」と目からうろこが落ちました。京都では、ボクを普通に扱ってくれる人と、これでもかというくらいひどいことをする人の両極端な扱いを受けました。


 それは、ボクが平家の人間ではなく、源氏の血をひいていたからでした。「身の程をわきまえろ」と、平家の人たちからはよく言われました。源氏のボクは、彼らと同じではないらしいのです。


 差などないと思って振る舞っていると、物凄くいじめられます。でもボク、清盛様の義理の息子のようなものだったんです。小さい頃は清盛様から「好きに振る舞え」みたいなことを言われて「は~い」ってニコニコしていたら、「身の程をわきまえろ」です。ちっちゃくてかわいらしいお子ちゃまに向かって言う言葉ですか?


「ワシを父だと思え」と清盛様は言ってたのに、清盛様がいないところで「お前に平家の血など流れておらんわ」ですよ。幼気いたいけないわらしに言うことですか?

 挙句の果てに母上から離されて寺です、寺。鞍馬寺に入れられて「僧侶になれ」です。


 心に物凄いトラウマが刻まれました。

 兄上に比べたら大したことないとは思いますが、それまで下にも置かない扱いを受けていたのに、奈落の底につき落とされたような気持ちでした。


 それしか知らなかった世界が、自分がいていい場所ではなかったのです。

 生まれて直ぐは、光源氏が過ごしていたような世界にいたんです。キラッキラですよ。キラッキラ。


 光源氏は皇子から臣下になってしまったのでそれでも下に行ってしまった感はありますが、キラッキラなんです。だから御上の婚約者を寝取って須磨に流された時の嘆きはすごいんです。光源氏は子作りができるくらい大人になってからですけどボクは4歳とか5歳です。え? 10歳……じゃなくて14歳? ボクが鞍馬山に行ったのいくつ?


 何歳でもいいけど、読経が響く寺で下働きです。朝もはよから雑巾がけみたいな感じです。

 今では寺、好きですよ。わびさびあって渋いです。でも、童にはその良さがわかりません。秀衡様からはお寺の良さを教わりましたが、童にそれはわかりません。そんな境地になれるのは、派手を極めた人だけです。


 ただ、鞍馬寺に入ると、それまで平家に囲まれていた環境から、少し隙ができます。もちろん京都にいるのでそれなりの縛りのようなものがありました。でも、平家に良い感情を持っていない人がチラチラ現れます。


 そういう人たちは、自分が何者かを語らず、何かを思いつめたような目をして、武術を教えてくれました。よく考えれば、ちまっこいジャリに夜中にマンツーマンで武術を教えるなんておかしいです。


「いつか役に立つから」と教わりました。

 子供なんて、大人の言うこと聞いちゃうんです。


「平家はすごい家なんかじゃない」という教育を受け、武術を習い、反骨精神を持ち始めた頃にちょっと街中に行き、平家の公達に絡まれて、やらかしました。中二病はダメだよ、やっぱり。


 あれだね、不用意に子供に武術を教えちゃいけないよね。

 善悪なんてわかってないんだから。


 それで平泉に行くことになりました。

 八幡太郎義家さんのひ孫だからと、平泉では温かく迎えていただきました。

 ひいおじいさんのおかげです。


 そこで、ひいおじいさんの話も聞くことができました。

 ひいおじいさんは、家臣想いの人気者だったみたいです。頭が良くて強いと、かっこいい説話も多く残っています。




***




 義家ひいおじいさんの孫がボクのおじいちゃんの為義おじいちゃんです。それだと「義家さんはひいおじいさんではない」と思うかもしれませんが、おじいちゃんは義家ひいおじいさんに育てられ、養子になったそうです。

 そうすると、義家さんはひいひいおじいさんではなく、ひいおじいさんになります。


 おじいちゃんも跡目争いではいろいろあったみたいです。おじいちゃんは義家ひいおじいさんの二男の義親ほんとのひいおじいさんの六男だそうです。

 義家ひいおじいちゃんは為義おじいちゃんを気に入っていたみたいで、跡継ぎにするために養子にしたみたいです。

 

「ひい」が何個もあってわけわかんなくなりつつあります。とりあえず、ボクはこの人たちの血をひいてます。


 義親ひいおじいさんは、長男の義宗……、ひいおじいさんのお兄さんだと、大々伯父さん……? なのかな? えっと、義宗大々伯父さん? が早くに亡くなっていたので跡継ぎになっていたそうです。


 義親ひいおじいさんは、頭も良くて武勇にも優れ、でも気性は荒いというちょっと他人とは思えないというか他人じゃないからという評価がついてます。

 自由奔放な義親ひいおじいさんは京に送る官物を滞らせるなどのことをして追討令が出されたそうです。


 そこまでする? と、ちょっとボクも思いました。でも、その追討を命じられたのが義家ひいおじいさんです。義親ひいおじいさんのお父さんに、「息子を殺してこい」ってことです。そのためなのか、義家ひいおじいさんは心労がたたって亡くなってしまいます。

 それで、結局平家の人に義親ひいおじいさんは討たれてしまいます。そのおかげで平家は栄えたそうです。


 ちょっと、納得がいきません。


 それで、義理の父親でもある義家ひいおじいさんが亡くなったわけだから、おじいちゃんが跡を継ぐ可能性って少なくなっちゃうんだけど、義家ひいおじいさんは遺言を残します。


 次の頭領は四男義忠、えっと……、大叔父さん? おじいちゃんの叔父さんだから、大叔父さんだね。あれ? 違う? 大叔父さんはおじいちゃんの兄弟になるはずだから、えっとえっと……。


 義忠大々叔父さん? だよね、義宗大々伯父さんの兄弟だから、同じ代ってことだよね。を次の頭領にして、その次は為義おじいちゃんを頭領にって遺言だったそうです。義忠大々叔父さんにもお子さんはいたそうですが、おじいちゃんが跡継ぎになります。ただ、ここでもちょっと問題が……。


 義忠大々叔父さんは、何者かに殺されてしまったそうです。それで、犯人は義家ひいおじいさんのすぐ下の弟の義綱……、大々叔父さん? もうヤダ。が犯人にされて、おじいさんは追討に行ったけど、大した抵抗もなく、義綱さんは息子さん共々亡くなられたそうです。


 でも、真犯人は義家ひいおじいさんの次の弟、義光さんだったそうです。義光さんは佐竹・武田・小笠原さんのご先祖だとか。


 ……この時、おじいちゃんは14歳だったそうです。小六か中一って頃です。それで、おじいちゃんは河内源氏の頭領になりました。




***




 もうここ、読まないで飛ばしていいよ。

 どこかのHPを読んで、確認してください。ボクも適当に写しただけだから。


 河内源氏が保元の乱でどうして別れて戦ったのかってわかればいいから。ボクもこのあたりは詳しく聞いてないし。というより、前九年後三年の話になってるし……。


 あと、ここからが大事な予備知識。保元の乱の前の話ですけど、おじいちゃんが河内源氏の棟梁になって、このおじいちゃんの長男がボクのパパ(義朝)で、パパはおじいちゃんと仲が悪くて一人だけ関東に追っ払われたそうです。


 でもパパは関東の豪族をまとめちゃって、そこで偉くなります。すごいねパパ。やっぱりボクのパパはすごい! じゃなくて……。


 えっと、おじいちゃんがパパの弟(ボクの叔父さん)を関東に送って、それをボクの一番上のお兄ちゃんの悪源太兄ちゃん(源義平)が倒したそうです。ちなみにその叔父さんが木曾の義仲くんのお父さんだそうです。


 みんな、親戚なんだから仲良くしてよ!



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