第22話 40過ぎのおっさんの困惑
公達さんが波打ち際まで戻ってきたところを、直実さんに馬から引き下ろされて砂浜にたたき落とされて馬乗りにされます。直実さんはずっと戦ってきたんだから強いです。
そういう判断はもっと早いうちにしなければなりません。逃げる機会はいくらでもありました。その判断を誤った公達は、直実さんに首を取られることになります。
(ボクだったらもう切ってると思うけど)直実さんは公達の顔を見てしまいました。目が合うと
しかし、敵が逃げ出していて、手柄を立てるために敵を探さないといない状態。
時間があったのでしょう。
直実さんは公達の顔を見てしまいます。
そして、困惑してしまいます。
「なんと若い」
年の頃は十七、八歳。数え年なので満で考えると十五歳か十六歳です。中三から高一くらいの子です。息子の小次郎と同い年くらいじゃないか。と思い、直実さんは手を止めてしまいます。
猛者な直実さんが呼んだのなら、十中八九は逃げられます。百回呼んでも九十九回は逃げられるかもしれません。直実さんです。猛者です。敵が戻ってくるはずがありません。
でも戻ってきたということは、腕に自信がある大将軍のはずです。ボクなんかが戻ってきたら、それは勝つ気十分なはずで、ほぼ「貴様の命はないと思え」状態です。
そんな状態、めったにありませんけどね。
ボク、そんなに強くないので。
でも負けると思ったら行くはずありません。
直実さんはそれを望んでいました(だから危険人物です)。
ところが公達はあっさりと捕まってしまいます。
肩透かしだったと思います。
小次郎くんもこの戦に出ていて、直実さんと一緒に一番乗りしたは良いけど怪我を負ってしまっています。『熊谷の二度掛け』を読んだ感じだと大した怪我でもなさそうだけど、ここにいないということは、大けが負ってるかもしれません。
ついでに言うと、小次郎くんはこの四年後にボクを擁護してくれた奥州藤原氏と戦って手柄を上げる不届き者です。ボクの家臣じゃなくて、兄上の家臣だからしょうがないのですが。
平家の敦盛より、小次郎や平山季重の方がイラっとしてきた。
どうして元上司がお世話になった家を滅ぼすかなあ。
………………話を戻します。
この公達、美形でした。
あまりに麗しい顔をしていたので、直実さんはどこに刃を立てたらいいのかわからなくなったそうです。
……殺やるか殺やらないか、顔で決めるのやめてください。源氏は無骨な人が多いから、雅な物に弱いです。そこを利用していたところがなきにしもあらずなボクが言うのもなんですが、冷静な判断をお願いします。
公達は、お歯黒を塗って薄化粧をしていました。
……お歯黒って、薄化粧なの? 歯を真っ黒にしてたってことだよね? パカっと口を開けると怖い顔になる。がっつりビジュアル系顔負けなお化粧してるよね? 薄化粧じゃないよね。しかも男子だよね? 中三のガキが、化粧して合戦に来てた?
なんだ、それ……。そんな暇がどこにあった? 総大将で二十五歳のボクは山ん中、一晩中走ってたんだけどぉ~。化粧をしないと美しいと言われないなら、出てくんなよ。
公式の文書じゃなくて、皆さんが楽しむための物語です。と、自分に言い聞かせてみる……。
話を本文に戻します。
直実さんは首をかっ切ろうとしている手を止めてしまいます。
切る気なくすよね。ボクなら力抜けるよ……。そんな敵、見たことないもん。みんなすっごい顔してこっちに突っ込んでくるもん。切った後もどんな顔してるかなんて確認している暇ないし。もう、半端ないんだよ。後から後から。思い出しちゃったよ……。辛かった~。切ってるときは必死だから感情もなくしてるけど、我に返った時が地獄です。
それは関係ない話なので、隅に寄せときます。
とにかく、直実さんはその公達に話しかけます。
「失礼ですが、あなたのご身分とお名前を教えていただけませんが? お助けしたいと思います」
毒気を抜かれたのか直実さん、何言ってくれてるんですか?
直実さん、義朝パパの元家臣だったんだよね。パパが亡くなる直前、琵琶湖でパパの言葉を聞いていた直の家臣だよね?
「付き従いとうございます」って言ってたんじゃなかったっけ? それでもパパに説得されて、パパと別行動をとることになって、その後にパパ、亡くなったんだよね? 頃は平治の乱! それで、時が経ち、兄上の家臣になったんだよね?
パパの恨み、晴らそうとか思わないの? ボクはパパに会ったことないんだよ。会ってたとしても、赤子だったからボクは覚えてないんだよ。
そのパパの言葉を、直に聞いてたんだよね。ボクはパパはこんな人だったんだよという話を、悔しい思いをしてきた人たちから聞いて、パパの無念を晴らすぞって、平家を滅ぼすことになったんだけど。
直実さんには、そういう想いはないの? ボクより悔しい思いをしてないの? だから兄上の家臣になったわけでしょ?
これも、ちょっと脇に置いておきます。
ふ、ふふふ……。作り話だから、これ、作り話だからと、自分に言い聞かせるのが大変です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます