第20話 そんなに丁寧に言う? 

 ここからはフィクションが多めです。

 そもそも平家物語の中では(ボクの行動も含めて)フィクションが多いです。


 八百年も経っているのでしかたがありません。

 でも、読んでみるとボクがカッコよく書かれてて嬉しいです。


 頭の固い鎌倉幕府の人たちと違って、一般大衆の方々はボクのことを好きでいてくれてよかったです。ありがとうございます。生きてる時は散々な扱いを受けていたから心の底から嬉しいです。


 生きてる時は散々でしたけどね。平家滅ぼした後でもひどかったですけどね。

 すみません。話を戻します。


 一の谷の戦いは、源氏の勝利になりました。平家側の人たちは、沖に舟を用意していました。それに乗って、西にある屋島に行こうとしています。


 ただ、舟に乗ろうとして海に入り、おぼれてしまった人もいたそうです。それは、舟に人が集まりすぎると重くて沈みます。沈んだ舟にいた人は沈んでいない舟に乗ろうとします。


 でも、その舟に人が集まるとその舟も沈んでしまいます。

 タイタニックを思い出します……。えっと、氷山にぶつかった豪華客船の話ではなく、小舟です。でもタイタニックも救命ボートが足りなかったらしいですけどね。また関係ないことですみません。


 だから「偉い武者は乗せて雑兵ぞうひょうは乗せない」ことになり、雑兵な人たちは乗せてもらえません。それでも乗ろうとすると、乗ろうとした手を切られてしまったそうです。そして、手だけが波間を漂っていたそうです。


 そういうの、やめて……。平家の方が雅なんじゃないわけ? やり方が荒っぽすぎない? 雑兵(一般の人)は捨てていく平家というイメージをつけたいかのような話です。


 平家の人たちは今までいた福原の城郭も焼いてしまいました(ボクが焼いたという話もあるようですが)。そして、もっと西に逃げようとしていました。




***




 その様子を見ていた熊谷次郎直実さんは

「平家の公達、助け船に乗らんと、みぎわの方へぞ落ちたまふらん。あっぱれ、よからう大将軍に組まばや」と、思います。


 何を言っているのかわかりません。

 でもがんばって訳してみました。


「平家の公達が助け船に乗ろうと波打ち際を逃げている。よっしゃ、手ごろな大将軍(有名な武将)と出会って戦いたい」


 この時はまだ敦盛を見つけていません。だから誰でもいいから手柄になりそうな人と戦いたいという感じです。

 ちなみに公達きんだちは男女問わず、高貴な家の子(青年)という意味らしいです。


「波打ち際にカモがいるぞ! どいつが賞金首か? 金になるヤツ出てこい!」

 直訳を意訳にしてみました。一気に品がなくなります。でも直訳は理解しにくいですが、意訳にするとスッと入ってきます。


 ボクのイメージだとこんな感じです。

 平家方は戦う気ゼロで、源氏方は生活が大変。おそらく、この頃の武士は歩合制だったのではなかったのかと。手柄を立てればたくさんお給料(ご褒美)をもらえるけど、立てなければそうでもありません。


 だから、手柄を立てることは死活問題です。すごい人(平家の公達)を倒して名を上げる、つまり有名になれば、ご褒美がたくさんもらえる。だから必死になって手柄を立てようとしています。


 ボクは給料をもらう、もらわない以前の問題でした。「源義朝(パパ)の息子なんだから戦え」でした。源氏で兄上の弟で、戦わざるを得ない感じです。それ以外に生活の道がありませんでした。


 仏門とかに入ったとしても、「戦おう!」という方向に持っていかれます。影が薄いけど今若・乙若兄ちゃんとかそうだったんじゃないのかな。


 今若兄ちゃんは影が薄いと思ってたけど、なんか生き残ってたみたいです。政子さまの妹さんの阿波局あわのつぼねさんと結婚してたってどういうこと? 全然記憶に残ってないです。阿波局さんの方はうっすらお名前を知ってます。


 それはいいとして、寺とかでうろうろしていると

「キミ、武士の子だよね。平家、嫌だよね。何? 源氏の棟梁の息子? なら戦うしかないね!」と、言われ「はいっ!」と答えたら大変です。


 ボクはたまたま強い人が味方についてくれたからいいけど、そうでなかったら死にます。たとえ話とかじゃなくて本当に。


 ボクは他の兄弟と比べたら恵まれていて(多分)、奥州平泉の藤原秀衡様が守ってくださいましたから、嫌なら戦わなくてもよかったみたいです。


 秀衡様は「平泉にいなさい」と言ってくださいました。けれど他の人から「このままだと平泉も源平合戦に巻き込まれるから」と言われて鎌倉に行きました。

 だから平泉の佐藤兄弟もボクと一緒に来てくれました。


 いるんです。平家に対抗できそうな人を見つけ出して殺そうとする人や(それで褒美をもらいます)、その反対に担ぎ上げようとする人が。


 何より、兄上が戦っているのに自分だけ安全な平泉に隠れているなんてできません。兄上をお助けしたかったんです。


 そもそも、ボクのパパはすごい人ですが、兄上が鎌倉幕府を作らなければ、パパはすごい人と言われなかったんです。ある意味ボクだって悲劇の英雄って言われていません。だから兄上はすごいんです。何度でも言いますよ。ボクなんておまけです。


 もうちょっと余計なことを言うと、旗上げするとなると、お給料を払う側になります。平家を倒して天下を取りたいから働いてください。平家を倒せたら土地をあげます。土地から得られる食べ物があなたの物です(それで税金納めてね)。みたいな。


 ボクはそういうの得意じゃなかったから、誰にお給料を出すかというのは、そういうのが得意な人にまかせっきりでした。そういうのは範頼兄ちゃんがやってたんじゃないの? あっちの方が人数多かったし。


 もしかすると、この時に給料とか出してなかったから、ホントに困った時に誰も助けてくれなかったんじゃないかという説もあります。正義だけでは生活はできません。理想が高くても現実はちゃんと見ましょう。


 話がめちゃめちゃそれました。敦盛の最期に話を戻します。




***




 直実さんは、大金になりそうな公達を探し、波打ち際を馬でパカパカ走ってます(馬で走るんなら砂浜じゃなくて波打ち際だと思います)。


 すると、平家の公達が船を目指して浅瀬を馬で走っているのを見つけました(海の中に入っています)。身分が高そう、というか高価そうな身なりの公達です。三~四行ほどかけて、どれほど高価な物を身に着けていたかが書いてあります。敦盛の最期は四ページくらいしかないのですが、そのうちの三~四行って割合として多いです。


「そんな服を着ているからダメなんだろ?」

 ボクは地味にしてたら、義経だと思ってもらえませんでした。それで次からちょっと服装を改めようと思いました。「ボクは源氏です」というのが解り易くなるような格好を心がけました。

 また話がずれました。『敦盛の最期』に話を戻します。


 直実さんは、その公達に向かって叫びます。

「あれは大将軍とこそ見まゐらせ候へ。まさなうも敵に後ろを見せさせたまふものかな。返させたまへ」


 こちらは先ほどのカギかっことは違い、思っているのではなく叫んでいます。何を言っているのでしょうか。まず直訳してみます。


「あなたは大将軍とお見受けいたします。敵に後ろを見せるなんて見苦しいですよ。お戻りなさい」

 丁寧な口調です。


「武士が敵に背中を向けて逃げるのか! 戻ってこい!」

 ならわかるんだけど……。


 だって、直実さんは一番乗りを競って敵に突っ込んでいく武士だよ? こんなのんびりと「お戻りなさい」って言うのかな?


 ボクなら「あなたは人を率いる身分のお方ですよね? そのあなたが、我さきに船に乗ってもいいのですか? 戻ってボクと戦ってくださいませんか?」って言うけど(あれ? 同じ?)。


 それでボクを見て「こいつなら勝てそう」と判断してノコノコやってきた輩を討ちます。油断を誘って敵を討つ作戦です。ちまいボクがニコニコと手招きをして、後ろから弁慶が出てくるような構図を思い浮かべてください。……時間かかるからしないか。二対一で戦うのは効率が悪いです。自分で行って切るな、やっぱり。


 直実さんのような猛者だとこれはおススメできません。ひげ面の筋肉質のおじさんが、ニコニコ手招きしてたら身の危険を感じて逃げます(二度の先がけでは平家方の武士は出てくるのを止めてしまいました)。


 直実さんは猛者です。強いです。いろいろ調べていると、ちょこちょこ名前が出てきます。それなりの有名人です。


 ボクなら直実さんのような方を見かけたら「あ、やべっ」と思って、逃げます。正面から当たりません。もっと隙を見つけて攻めないといけません。


 どんくさそうなら行くかな? でも、戦場でしょ? よっぽど自分の身が安全じゃないと行かないよね。強い相手なら、弁慶と二対一で当たることも考えます。手柄を立てたいと考えているのなら、良いやり方じゃない気がするけど……。手柄を半分こしないといけなくなるし。


 己の外見を正しく判断して、直実さんの場合は「戻ってこい!」の方が成功率が高いんじゃないかな。でも、二度の先がけでそれやって出てきてくれなかったから方針を変えたのかも?



 てか、呼ばずに行けよ。

 戻ってきてもらおうなんて、無精ぶしょうしてんじゃねーよ。


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