第43話 耳なし芳一

 『耳なし芳一ほういち』は小泉こいずみ八雲やくもの「怪談」に収録されているホラーです。


 小泉八雲さんは日本人の奥さんを持つ、ラフカディオ・ハーンという日本に帰化したギリシャ生まれのイギリス人です。


「怪談」は日本の古典・民話を取材して書いて、アメリカで話題になったそうです。

 日本でも有名な話です。


 ボクはストーリーはあまり気にせずに怖いと思っていました。

 最近読み直して、血の気が引きました。


 ……こんな話だったなんて。

 以下、絵本を読んだあらすじと、ちょっとだけ解説と、微妙なボクの感想です。




***




 壇ノ浦の戦いから何年も経ち、源平合戦もとっくの昔になってしまっていた頃、琵琶法師になりたての芳一という目の見えない男性がいました。琵琶法師は琵琶をかきならして歌を歌う人だそうです。『歌う』ではなく『語る』だそうですが。仏の教えを語る人と、平曲へいきょく|(平家物語)を語る人がいたそうです。教えを広めるために分かり易く楽しく語っていたそうです。


 芳一は平曲が得意で、その中でも壇ノ浦の話をするのがとても上手だったそうです。だから赤間あかませき(現在の山口県下関市)の阿弥陀寺あみだじの和尚さんに気に入られ、そのお寺で暮らしていました。


 和尚さんが法事で出かけ、芳一が琵琶を弾きながらひとりで寺にいると、芳一の前に侍が現われます。「主君のために、琵琶の弾き語りをしてほしい」とのことで、芳一は侍の後をついて行きます。


 位の高そうな、お金の匂いがします。

「運が巡ってきた」と芳一は内心喜びます。


 豪華な屋敷に連れていかれ、大勢の高貴な方々に囲まれ、平家物語を語ります。

 平家が滅ぶ『壇ノ浦の合戦の段』をリクエストされます。

 ボクが海の総大将をしていて、すみません、ごめんなさいな場面です。


 芳一の見事な語りに、高貴な方々は賞賛を送ります。

 平家の人々が海に身投げをする場面では、あちらこちらからすすり泣きが聞こえてきます。


 そして、感極まったのか、悶絶の叫びをあげる程です。

 芳一の方が驚いてしまうほどでした。


 よくそんなところに居られたよね。

 そうとう怖いと思うんだけど。ボクだったらのんきに琵琶弾いてないで逃げるけどな。もちろん、琵琶は弾けませんけど。話を戻します。


 6日間来てほしいと言われ、2日目も芳一は迎えの侍について行き、琵琶の弾き語りをして帰ってきたのですが、この時、和尚さんに気づかれてしまいます。


 和尚さんに呼ばれ、どこに行っていたのか聞かれるのですが、芳一は答えません。お侍さんに言うなと言われていました。


 3日目も侍が迎えに来ます。芳一はそれについて行きますが、和尚さんは寺の者に後をつけさせます。一度は見失うのですが、探し回って阿弥陀寺に戻ってくると、墓場の方から琵琶の音が聞こえてきます。


 和尚さんたちが琵琶の音を頼りに真っ暗な墓場に向かうと、安徳あんとく天皇のお墓の前で、鬼火に囲まれた芳一が、壇ノ浦の合戦の段を語りながら、琵琶をかき鳴らしていました。


 安徳天皇は壇ノ浦の戦いの時に亡くなられた平家の血を引く天皇です。

 周囲は鬼火でいっぱいです。


 そんなところで、芳一は我を忘れたように琵琶をかき鳴らし、壇ノ浦の合戦の段を語っています。お寺の人たちが芳一を止めに入りますが「邪魔立てするな」と怒られてしまいます。


 芳一は悪霊にたぶらかされていたので、お寺の人たちは芳一をひっつかんで連れ帰りました。つまり、芳一の語りが素晴らしかったので、怨霊たちに魅入られてしまっていたのです。


 祟られちゃって、本人が気づかないうちに行動がおかしくなっていたというやつですね。憑依されるとそうなるとか。


 このままでは芳一の命が危ないということになり、和尚さんは芳一の身体にありがたいお経を書きます。有名な場面ですね。


「侍が迎えに来ても、動いてはいけないし、返事もしてはいけない」と言われます。

 そうすれば芳一は助かります。


 それを守らなければ、芳一の命はどうなるかわかりません。

 そして和尚さんが出かけてしまい、芳一がひとり残されます。


 この怪談を聞いた時思ったのですが、どうして和尚さんはお寺に残ってくれなかったのでしょうか。本当に心配なら、でかけるのをやめるんじゃないのかなと。


 やっぱり、和尚さんも怖かったのではないでしょうか。やだよね、そんなの。だから用事を見つけて出かけたのではないかとボクは思っていました。


 それはいいとして、夜になり、あの侍が迎えに来ました。


 芳一は息を殺し、じっとしています。

 侍は芳一の名を呼び、芳一の周囲を探し回ります。


 こわいです。

 真っ暗なわけでしょ?


 芳一は言われた通り、動かないようにしています。

 けれど、心臓は鼓動を速め、全身はわななきます。


 それでも芳一は何も言わず、動きません。

 そして侍が言います。


「琵琶はあるが、芳一はいない。耳が二つ、あるだけだ。しかたがない、この耳だけを持ち帰ろう」

 侍は芳一の耳を引っ張り、それだけを持って去っていきました。


 それでも芳一は声を上げることも、動くこともしませんでした。

 和尚さんが戻ってくると、耳があった部分から血を流した芳一がいました。


「悪かった芳一、耳にお経を書くのを忘れてしまっていた」

 言いつけを守った芳一は、耳は失いましたが、命は助かりました。


 よいお医者さんに見てもらい、傷も癒えると、その話は広まり、芳一は有名になりました。たくさんの貴人も芳一の琵琶を聞きに訪れ、お金もいただけるようになりました。




***




 世にも恐ろしいホラーです。

 自分ボクが倒した一族が総勢で化けて出てくるという……。


 でも、この後、芳一は裕福になれたらしいです。

 ホラーとしては、珍しいタイプなんじゃないですか?


 やっぱり教えの部分が多いのかもしれません。

 ちなみにこの話の舞台になった阿弥陀寺は現在の赤間神宮だそうです。

 





参考文献:「耳なし芳一」作 小泉八雲,絵 さいとうよしみ,訳 舟木裕,小学館

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