第2話 はじめに

 先ほどから当たり前のように語っていますが、源九郎義経みなもとのくろうよしつねです。

 よろしくお願いします。


 平治の乱があった1159年に生まれ、文治5年うるう4月30日に死にました。死んだ日を西暦に直すと1189年6月15日になるそうです。


 享年(亡くなった年齢)31歳です。

 計算を間違えているわけではなく、数え年なので、実年齢よりもちょっと上になっています。数え歳は生まれた時にすでに1歳で、1月1日になると全ての人が1つ歳を取ります。


 ボクの年齢を満で考えると、誕生日がわからないので29歳か30歳で死んでます。4月30日だと、3分の2の確率で29歳です。また、とあるドラマで母上が平治の乱に出兵する父上に「生まれました」と赤ん坊のボクを見せていたから、12月生まれなのかもしれません。ますます29歳の可能性が上がります。平治の乱は1159年の12月ごろに起きたらしいです。さすがに生まれた時のことは知りません。


 父は河内源氏の棟梁(いちばん偉い人)の源義朝みなもとのよしともで、母は当時の京の都の美人コンテストで1位だった常盤ときわ御前ごぜんです。パパの義朝の九男だから九郎と呼ばれていました。河内源氏は清和源氏から出ている源氏で、河内は関西の地名だそうです。


 そして、鎌倉幕府を作った源頼朝みなもとのよりともの弟で、「平家にあらずんば人にあらず(平家じゃないなら人間として扱わねーよ)」とまで言った平家を滅ぼしちゃった源氏です。


 だから『加害者』です。


 平家が滅んだ1185年のだんうらの戦いの時は総大将をしていました。ボクが海の総大将で、陸は範頼のりより兄ちゃんが総大将です。

 なんで総大将が二人? と思っても、深く突っ込まないでください。大人の事情なんじゃないの? 詳しくは知らないけど。

 非日常的な状態だったので、超法規的措置みたいな感じですです。たぶん。


 そして、鎌倉に居た兄上は総大将よりも偉いです。パパの嫡男(跡継ぎ)だからです。頼朝の兄上が主犯で、範頼兄ちゃんとボクが実行犯的な感じです。鎌倉から兄上が指示して、ボクはそれに従うみたいな。でも手紙だから指示が遅いです。


 当時はだいたい範頼兄ちゃんが主力部隊を動かして、ボクは遊撃隊みたいな感じでした。お兄ちゃんが大部隊を率いて大変な思いをして戦っているところへ、横っちょからエイって突っ込んで大手柄を挙げてしまうのがボクらです(からめ手という作戦だそうです)。多少の解釈の違いがあったのかもしれませんが、言われたことしてただけです。現場に着いて状況を見て『ここ突けば勝てるじゃん』という所で戦っていただけです。ボクの役目がそうだっただけです。

 すごいけどすごくないぞ。ちょっと自慢はするけど。


 範頼兄ちゃんの方が重く扱われてました。兄ちゃんだし。年上だし貫禄あるし。でも人気があるのはボクです。偉い人に気に入られる傾向もありました。だから、そこそこな人から嫉妬されて面倒くさかったです。


 兄上の弟で源氏の棟梁のパパの息子だから「総大将をしてください」って言われるわけで、それはしょうがないと思いませんか? 「いやいや、ボクなんかにムリです」と言っても「弟なんだから行けよ」って雰囲気になります。勝手に持ち上げられるだけなのに、それまで兄上の家臣だった人よりも上になっちゃうわけです。


 しかもそれで勝ちます。

 もちろん、ボクだけの手柄ではありません。ボクに付いてくれる人がすごかったです。そんな人たちのおかげでそこそこ目立っちゃってボクだけ有名になっちゃっていまだに語り継がれています。


 ボクが主人公のお話はたくさんあるけど、範頼兄ちゃんが主役のは聞いたことがありません。800年も前の話だし、細かい所は伝わらないようですね。ボクの方が人気と聞いて、ボクも「そっか~」と思いました。

 そこは深く語りません。


 でも、範頼兄ちゃんも頑張ってました。

 むしろ兄ちゃんの方が大変だったのではないでしょうか?


 勝手気ままな弟をいさめ、鎌倉にいる兄上にお小言を言われ、中間管理職の板挟み状態。


 もちろんボクだって大変でした。それなのになんで範頼兄ちゃんのフォローまでしないといけないわけ? 兄ちゃんがヘボと言っているわけではありません。兄ちゃんもちゃんとやってたと思います。ボクは違うところに居て見てなかったけど。だって総大将が二人そろって戦ってたら意味ないです。別々なところにいて別々な部隊を率いてないといけません。だから人づてに聞いて、すごいなあ、がんばってるなあと思っていました。本当ですよ。


 歴代の作家さんたちもですけれど、現代人の見る目がないだけです。範頼兄ちゃんを主役にしたお話が作りにくかったのかもしれません。


「大丈夫だよ、兄ちゃん。探せばあるから。こないだ浮世絵で兄ちゃんの絵を見たよ。でっかくて兄ちゃん一人だけ描かれてたよ」

 でも、浮世絵に描かれた数はボクの方が圧倒的に多いと思います。カリスマ指導者と稀代の英雄の間の六男が範頼兄ちゃんです。


 現在なら範頼兄ちゃんも多くの人たちから共感得られそうな気がします。『苦労人、源範頼』とか『源氏の中間管理職、その名も源範頼』というお話はどうですか? 大ヒットは無理か?


 それは置いておいて、兄ちゃんは現場に行って、ちゃんと動いていた人です。真面目で実直でいい人です。『いい人』って、褒め言葉ではないかもしれませんが。

 鎌倉にいて、安全な場所でうだうだ言ってくる連中とは比べ物になりません。


 兄上のこと言っているのではありません。兄上は根回しめちゃめちゃしてくれました。それだって大変です。それがあったから、ボクが活躍できました。いや、「活躍するな」と言われてましたけど。


 でも、待機していると、ものすごくいいチャンスが転がり込んでくる感じでした。やっぱり兄上はすごいです。『待て』というお達しが来て待っているだけでコロコロといろいろなチャンスが転がってきました。ボクはそれをちょいちょいと拾っていただけです。


『戦は始まった時は終わりが見えていなければならない。勝てないのなら戦ってはいけない』という感じです。勝ちが見えたから行っただけです。


 転がってきたから取りに行ったら「違う」と言われました。ボクじゃなくて他の人に拾わせたかったのかもしれませんが、遅いんだもの。待ってたら負けちゃうよ。源氏が勝ったからいいんじゃないの? 結果オーライだと思うんですけどダメなんですか?


 ちなみに頼朝兄上が義朝パパの三男で範頼兄ちゃんが六男、それでボクが九男です。河内源氏というかパパの息子は3の倍数が有名かもしれません。会ったことはありませんが、長男の悪源太という呼び名を持つ(悪は強いという意味です。とっても強い源氏の長男という名前です)義平兄ちゃんも意外と物語があります。


 もしかして偶数が地味? 範頼兄ちゃんも地味だから、3の0乗(=1)の長男義平兄ちゃん、3の1乗(=3)の兄上、3の2乗(=9)のボクが有名? 次が3の3乗で3×3×3=27男。そんなに男の兄弟がいない。そこに法則を見つけるのは無理があるかな?


 ボクの大切な兄たちのことは置いておいて。

 どこかで言うかもしれませんけど。



 話を戻して自己紹介をします。

 ボクはというと、すぐに調子に乗って、墓穴を掘ります。


『ノリで生きてます!』みたいなところがあります。

 それが原因なのかもしれません。


「合戦で勝手なことをするな」とよく言われました。でも、空気読んで行動していただけです。


 そもそも『調子に乗ってる』わけではありません。勝てそうだなと思うことを直感でやっていただけです。勝てる戦で負けるようなことしてたらダメですよね。現場の空気を読んで動いていただけです。


 現場、最高! デスクワーク苦手。もちろん、机の上で考えることも大切ですが情報量が違います。話を聞いただけでは判断に必要な情報が少ないことがあります。人の命がかかっているのだから(もちろん自分のも)現場に行きます。


 煙たがられることもありますが、わかることも多いです。そして、勝てる道を見つけなければいけません。それが総大将の役目です。「行けるから行こう!」と言って、トップが見本を見せれば、仲間がなんとかしてくれます。


 そういう場面はよくありました。無我夢中で自分がやるべきことをやっていると、気づくと仲間が手伝ってくれていました。「困った総大将だな」と思いながらやってくれていたのかもしれません。何か大きなことをするときは、そういう仲間を作りましょう。


 それなのに『ちやほやされて調子に乗って、兄上を怒らせて身を滅ぼした』みたいな評価がついてまわっています。確かに兄上を怒らせました。でも、ボクが悪いわけではありません。ちょっと報告が遅れて、その間に自分に都合のいい解釈を交えた事実と違う報告をしていた誰とは言わない梶原景時かじわらかげときがいただけです。


 でも景時の名前がよく上がってくるだけで、他にもたくさんいました。ボクのことを気に入っていない人。景時は平家物語でも悪役っぽく現れることがありますが、都合よく名前を使われただけかもしれません。


 自分がうまくいかないからって、人の足を引っ張んないでくれないかな。困った時はみんなで助け合わないといけないのに「あいつだけいい目を見てる」とか言って邪魔しないで欲しいです。


「それで平家が倒せるか!」という気持ちによくなりました(というか言いました)。そんな感じで怒るくらいの気持ちの熱さと、それを諫めて助けてくれる仲間、そしてなんだかんだ言いながら冷静沈着な行動力と笑顔がボクを英雄にしたんじゃないの? 違う? そうですか。


 そういうボクの本音は置いておいて、何で兄上に怒られたのかよくわからないです。ホントにマジで。やっぱ、ボクが愛らしすぎて強すぎて賢すぎたのが悪かったのかもしれません。今も昔も嫉妬という感情はどこにでもあります。兄上はボクに嫉妬するような小さな男ではありません。そこは間違えないでください。


 兄上はもっと大きな流れを見ていました。だから、ボクはそれを実現させるために全力を出しました。悔いはないです。ほんのちょっとだけしか。


 人気者と言われつつ、いろいろな場所で嫌われる九郎義経です。



 てか、人気者になってるなんて、ホント、マジで知らないんだけど。死んだ後に持ち上げてんじゃねーよ。生きていた時は、散々な目に遭わせておきながら、死んだとたんに英雄ですか?


 失礼いたしました。たまに暴言をはくかもしれませんがご容赦していただけると嬉しいです。

 たまにか?




***




 小さい頃は牛若丸と呼ばれていました。天狗さんに稽古をつけてもらって強くなったという昔話にもなっています(ほんとに天井知らずってヤツだよね。どこまで話を盛る?)。遮那王と呼ばれることもありました。


 でも『天狗』と呼ばれている人には稽古をつけてもらっていました。だからそこそこ強いけど、化け物じみてはいないです。ボクの家臣っていうか、仲間の方が化け物でした。彼らは人望があって頼りになりました。ボクみたいな頼りないのが頑張っている姿を見て、助けてあげようと集まってくれた人たちです(たぶん)。


「兄上が平家を倒すって言ってるんだって。協力したいから手伝ってほしいなっ」

と言ったら手伝ってくれました。それで平家を倒しました。自分で誘っておきながら、できると思ってなかったです。兄弟とかが旗揚げとかしてるみたいだから行っとく? みたいなノリでした。それなのに、まさか平家が滅んでしまう日が来るなんて。


 それくらい平家は大きな存在でした。コツコツやれば、意外とすごいことはできるのかもしれません。でも、誰かがやってきたコツコツを、ボクがまとめる係になっただけかもしれません。

 歴史上の英雄なんてそんなもんです。



 平家からみたら、ものすごく悪い人だと思います。合戦の時も終盤になると会った瞬間「おのれ~!」と襲われていました。はじめはそうでもなかったんですけどね。あの人誰? みたいな扱いを受けていました。たぶん、今も恨まれているんじゃないかな……。


 そんなボクが解説をしていいのか? とも思いますが、頑張って解説したいと思います。鎌倉の連中が書いた物より、ずっと良いと思います。全部見てたわけじゃないけど、その場に居たので。


 とは言っても、ボクは人間なので源平合戦のあった日本中を空から見るということはできません。ボクはボクの目の前で起きたことを語ることしかできません。なので、ボクの知っていることを混ぜながら、現代まで伝わっている『平家物語』を解説しようと思います。


「誰にでもわかるように」を目指してがんばります。

 見てなきゃ書いちゃいけないとは言わないけど、伝言ゲームで伝わってきたことを当て推量で書いた物よりも、その時の空気を知っている人間が話す方が伝わると思いませんか?


 当時も合戦の様子を見てきた人が話して、それを書物として書いていた吾妻鏡なる公式文書があるらしいのですが、鎌倉の人たちが書いたわけでしょ? ボクからすると不満です。ムカつくから吾妻鏡は読んでいません。


 聞いた話によると、ボクが出っ歯で色黒でぶっさいくと書いてあるとか? 公式文書にそんなこと書いてんじゃねーよ。そんな本、誰が読むんだよ。ボクは愛想ヨシオ君なんだよ。第一印象なら好感度高いんだよ。


 すみません。話が脱線しました。ボクも現場にはいたけれど、ずっといたわけではなく「木曾義仲さんが平家に勝って京の都で暴れているからなんとかして」って兄上が後白河法皇に言われて兄上の指示で行ってからです。


 そもそも、平家物語が流行っていたのは鎌倉時代からで、その頃ボクは死んでます。だから当時の琵琶法師の平曲を聴いていたわけではありません。


 だから間違ってても怒らないでください。一応、学校の教科書や参考図書を中心に、ネットなどでも調べつつお話しています。

 平家物語は人々が楽しんだ娯楽です。だから、事実を元にしたフィクションになっています。それを、いろいろな角度から考えてみます。


 そんな感じで『平家物語』について、大ざっぱに説明します。





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