『平家物語』を加害者が解説してみた

玄栖佳純

1章 はじめに

第1話 祇園精舎の鐘の声

 祇園精舎ぎおんしょうじゃの鐘の声

 諸行無常しょぎょうむじょうの響きあり


 沙羅双樹さらそうじゅの花の色

 盛者必衰じょうしゃひっすいことわりを表す


 おごれる人も久しからず

 ただ春の夜の夢のごとし


 たけき者もついには滅びぬ

 ひとへに風の前のちりに同じ


「平家物語」より



 平家物語のオープニングです。

 この文の大まかな意味は「どんなに栄華を誇っていたとしても必ず滅びます」です。「いいことが、ずっと続くわけではない」というたとえをいくつも挙げてるだけっぽいです。




***




『平家物語』という話をこれからみなさんにわかりやすく解説をしてみようと思います。そう聞くと「え~、ムリ」と、子供だろうと大人だろうと、ほとんどの人がそう思うのではないでしょうか。国語とか古典とかさらに歴史まで関わっているとなると、それだけで読むのが嫌になります。


 もちろん、そうでない人もいると思います。でもボクがそんなに好きではありません。じゃあなんでこんな話をしているのかということは、少しずつお話していければと思います。……言わないかもしれないけど感じてください。


 現代人にとって悪夢のような古典ですが、『平家物語』は鎌倉時代からずっと人々を楽しませてきた話です。今でも時代劇として楽しまれていて、大河とかアニメにもなってます。


 大昔の人たちは、ラジオもテレビもパソコンもインターネットもありませんでした。だからと言って何の楽しみもなかったわけではありません。その時代にはその時代に合った楽しみ方がありました。


 平家物語は琵琶法師というお坊さんがいろいろな人たちに聞かせて楽しむ話でした。琵琶は楽器です。ギターっぽいヤツです。「ベベン」という音を聴いたことあると思います。その琵琶で奏でる曲に合わせて話していたそうです。平家物語の曲なので『平曲』と呼ばれていました。弾き語りみたいな感じですか?


 さて、この『平家物語』を分かり易く、『加害者』の立場から解説していこうと思います。『分かり易く』と言っていますが、本当に分かり易くなっているのかはボクにはわかりません。そういう見出しで「全然わかんないし!」というのもあります。

 分かり易いなんて、人によって違いますから。でもボクにとって分かり易いつもりです。


 細かいところをいちいち面倒くさくツッコミます。ざっと読んでみて「おい、これ、どういうことだ? なんかおかしいだろ?!」と思ったところを指摘していきます。皆さまが楽しむためにできたお話なので、実際にあったことが元になっていますがフィクションが多いようです。


 古典や歴史のテストに出るところが多いとは思います。しかし、ボクの独断と偏見も入るので、テスト用紙に書く時は教科書で勉強した通りに書いてください。

 

『こういう考え方もあるよ』くらいに楽しんでいただければ嬉しいです。

 では、次から平家物語の冒頭部分を、面倒くさいけれど解説します。




***




 いちばんはじめに書いてある文章は、高校の古典の教科書に書いてあったのを少しだけですが写してみました。言い忘れていましたが、平家物語は八百年くらい前の源平合戦のことを元にした物語です。

 古典の教科書に載っているだけあって、出だしの部分からすでに意味が解りません。


 これでも日本語で書かれています。だから『きっとわかるはず、同じ日本語なんだから』と念じて読んでみましょう。知っている文字もあります。声を出して読んでも大丈夫そうな環境にいるのでしたら、周りに迷惑がかからないことを確認して声を出して読んでみてください。


 あわてずにゆっくりと読んでみてください。

 少しだけわかったような気分になれます。


 さて、じっくり見ても声を出して読んでもわからない人が多いと思うので説明します。




***




 オープニングでは「いいことがずっと続くわけではない」という例えをいくつも挙げているだけです。カッコつけたかったのかもしれません。たしかにカッコイイ感じです。


 アニメやドラマの主題歌みたいなものです。これを聴いて「平家物語がはじまるよ」となります。声を出して読むときに、ちょっとだけカッコつけて読んでみると、きれいな音のような気がしませんでしたか?


 いい感じに聞こえる言葉を並べているだけに思えます。文字を眺めているだけで、意味はわからないけれどカッコイイような気がします。


 それでいいじゃないかとも思いますが、細かく見てみましょう。



「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり」

 長くずらずらと書いてあると目が滑りますが、これだけになるとほんの少しだけわかったような気分になりませんか? 気分でわからないかもしれないのでがんばって教科書を読んでみました。


 祇園精舎はお釈迦様が説法をしたインドのお寺だそうです。ちなみにお釈迦様は仏教を作った人です。「説法」は仏教を教えることだそうです。お説教と同じ意味らしいです。お説教と聞くと嫌ですけれど、偉いお釈迦様のお言葉はきっと違うのでしょう。


 偉い人が言ったと聞くと、それだけでありがたい気がしますね。でも実は大したこと言ってないかもだから、それは自分で確かめましょう。


「諸行無常」は、「この世界にある物体は時間が経てばどんどん変化していつまでも同じ姿をしていない」という意味です。なんか仏教ですね。


 この『祇園精舎の鐘』は、病気のお坊さんが亡くなる時に「諸行無常」と鳴ったそうです。そういう話は知らなければわかりません。お寺の鐘はゴーンだと思いますが、もしかするとインドのお寺だから、インドの言葉でそう聞こえたのかもしれません。『大きな古時計』の三番のように、おじいさんが亡くなるのを教えてくれた感じをイメージすればよいのでしょうか?


 この鐘が鳴っているということは、出だしから不吉な予感しかしません。

 琵琶がベンベン鳴っていたとしたのなら、さらに不吉感が漂います。



「沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理を表す」

 お釈迦様が亡くなる時、床の四方にそれぞれあった一双 (二株)の沙羅の木が、ことごとく白に変わったそうです。


 お釈迦様が亡くなったのだから、嬉しいことではありません。そのことを持ち出して「盛えた人も必ず衰えます」と言っています。沙羅双樹の色が変わることがどういう意味を持つのかを知らなければわからないです。


 また、平家が赤い旗、源氏が白い旗を持って戦っていたので、こっそりと『源氏が勝ちました』と言っているのかもしれません。その辺りは、自分で考えてみましょう。読むのではない。『感じろ』です。



「おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢のごとし」

 これはなんとなくわかりますね。前の部分が漢字ばかりだったので少しほっとします。


 ほぼそのままです。おごれる人というのは、いい気になってしまった人です。そんな人も、いつまでも笑っていられません。春の夜の夢のように長くは続きません。と言っています。


 春の夜の夢は素敵な感じですよね。「いい時って、夢見てるみたいだね」ということかもしれません。



「たけき者もついには滅びぬ ひとへに風の前の塵に同じ」

 強い人も滅んでしまいました。平家の人たちは風の前にあるチリのように、いつ飛ばされてもおかしくなかったと言っています。


 後世から見ると、勢いがあった人たちでも、それがあれよあれよと廃れていく様子がわかります。一文字一文字をよく読んで考えると、なんとなく意味がわかるような気がしますね。


 そんな感じで良いと思います。

 『読むな、感じろ』でなんとなくわかるような気がします。




***




 平家物語は絶対王者だと思われていた平家が、あれよあれよという間に滅んでいく様子が描かれています。

 オープニングではこんなことを言っていたんですね。だから勉強しないといけないのかなあと少しだけ思います。


 この後にも続きがあって、本文省きますけど、隣の大陸(中国)を見れば、秦の始皇帝・漢の王莽・梁の朱异・唐の碌山。これはおそらく、国の名前とその国のトップになったであろう人の名前が書いてあります。


 秦の始皇帝は歴史で聞いたことはありますが、他はわからないし何をした人かもわかりません。漢も唐も中国らしいので、きっと梁も中国っぽいですね。


 彼らはたぶん、まつり(政治)を行うような偉い人たちでしょう。「政治をちゃんと行わず、面白おかしく過ごすだけで、世間の意見に耳を貸さず、人々が困っていることなど考えもせず、忠告も聞かずにいれば落ちぶれます」というようなことが書いてありました。


 責任のある人は真面目に働きなさい。周りを見て人々(庶民)の苦しみを取り除く努力をしないのなら、その地位を追われますよ。という教えのようなものが書いてあるみたいです。


 そして、次は国内の成り上がって調子に乗って、足元をすくわれて落ちぶれた人を挙げます。平将門・藤原純友・源義親・藤原信頼。……全員、よくわかりません。みなもととかたいらとか藤原ふじわらとか多すぎだし。


 でも平将門さんはなんとなくわかります。平将門の乱をした人ですね。今回の源平合戦に直接は関わっていませんが(時代が違うので)、清盛様の遠いご親戚のようです。


 きっとみなさん、いろいろとやらかしたのでしょう。とにかく、これらの方々の名前を出して、最後に平家物語の中心人物の平清盛たいらのきよもり……、ボクはこのお方の呼び捨て無理です。えっと、清盛様のお名前が挙がります。


 つまり「政権のトップに立って、政治と関係ないことをしていると、庶民から反感を買って、蹴落とされますよ」みたいなことを、例となる人を挙げて言っています。


 これは、なんとなく、現在にも通じる様な気もします。過去から学びましょう。歴史の勉強は意味がないと思っている人も多いようです。

 ただ、せっかく歴史で「こういうことをした人はこうなった」ということがわかっているのだから、それを参考にして自分の行動を決める方が楽でいいと思います。


 誰かがしたのと同じ失敗を繰り返すのはムダが多いです。考え方は人それぞれなので、ボクはとやかく言いませんけど、もしも興味があるのなら、これらの人たちを調べて共通点と相違点をそれぞれ挙げてみるのも面白いかもしれません。


 それやってると平家物語にならなくなってしまうのでボクはやりませんけど。




***




 オープニングで散々な言われ方をしている清盛様ですが、ボクはそこまでひどい人だとは思いません。親切なおじいちゃんでした。若くて元気な頃の清盛様を知らないからかもしれません。


 いつの時代も、誰か悪役を作らないといけないのかもしれません。そうすることによって、誰かが得をします。その誰かは、一人かもしれないし、もっと多くの人かもしれません。


 それは置いておいて、次に清盛様の血筋について語られます。

 清盛様は桓武天皇の子孫です。ただし、天皇家ではありません。


 桓武天皇の子が臣籍降下して「平」の苗字になりました。天皇には苗字がないので苗字をもらって普通の人になります。


 ざっくりとした説明ですが、天皇家は高天原にいた神様の子孫だと言われています。だから特別な血筋です。すごい血を引いている天皇家にいたけれど、有力な後ろ盾がないような皇子みこは姓を与えられて天皇家から離れ、身分は臣下になります。


 これが桓武天皇の子が先祖なので桓武平氏です。ついでに言うと、清和源氏もそうです。清和天皇の子が臣籍降下をして、源の姓を名乗るようになりました。


 ここで少しだけ平氏と平家について。臣籍降下で『平』の性をもらうと平氏ですが、『平家』というわけではありません。平氏をお上品に呼ぶと平家になるのではなく、平家は清盛様に近い一族だけです。平氏の人たちの中に平家があります。


 有名な人で例を挙げると、北条氏は平氏です。室町時代を作った足利尊氏は源氏だそうです。江戸幕府を作った徳川家康も源氏だそうです(彼らはそう宣言をしています)。つまり、平家は壇ノ浦の戦いで滅びましたが、他の平氏はちゃんと残って歴史に名前を残しているらしいです。


 そして、ご先祖様が天皇だったとしても(臣籍降下しているのでそういう扱いではなくなっていますが)、のほほんとしていると生活ができなくなります(切実です)。清盛様の平家も同じで、清盛様のお父様の平忠盛さんの前の六代ほどのご先祖様は殿上人(偉い貴族)になれなかったそうです。


 でも忠盛さんがようやく殿上人になれたそうです。殿上人というのは、朝廷の偉い人という意味です。


 少しだけざっくりと殿上人の説明します。当時の位は三位以上を公卿くぎょう、五位以上を殿上人てんじょうびとと言いました。殿上人でないと、宮中には上がれませんでした。

 数字が少ない方が位が高いです。


 その時、かなりいろいろ言われたようです。「武士が殿上人になるなんて」みたいな感じです。ご先祖様が桓武天皇じゃないの? と思ってしまうかもしれませんが、臣籍降下しているし、当時は藤原氏全盛です。


 それが、息子の清盛様は臣下として最高位の太政大臣(従一位)になりました。ということがこのオープニングといえる(巻の一)で語られます。




***




 ものすごい快挙でした。しかも清盛様は藤原氏のお株を取るように孫の安徳天皇を即位させ、天皇の外戚になり、平家を栄えさせました。


 その成りあがった平家がいろいろな人から反感を買い、源氏に滅ぼされる姿を描いたのが平家物語です。

 ……それが涙を誘う美しい物語だと言われています。


 散り際の美学というものでしょう。

 平家物語は日本で鎌倉時代から好まれている物語です。


 琵琶という楽器を奏でながら語られる『平家物語』は、日本で800年前から好まれています。成りあがった平家がいろいろな人から反感を買い、源氏に滅ぼされます。


 ……………………ひどくね?

 現在も好まれている物語なんだろうけど。不幸になった人の話、好きだよね。


 成り上がった平家の人たちが落ちぶれていく様を娯楽として楽しむ。いい趣味してますね。いくら感じ悪かったとはいえ、その平家の人たちが落ちぶれて滅亡するのが面白いんですか?


 以上が平家物語のオープニングの簡単な解説と、ちょっとだけボクの感想でした。

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