第141話
その隙を突いて、
相手が一気に押し込むことに決めた時には、三丁のH&K G36Cが火を噴いていた。
狙撃から逃れるようにM4カービンを撃ちながら突撃してきた男を、里緒が引き付けつつ、正確に胸と頭へライフル弾を叩き込む。
登崎がワゴン左後方の窓から撃ち続ける敵へ、銃口を向けて引き金を引く。頭を撃たれた男が、窓から身を乗り出すようにうなだれ、動かなくなった。
二人が撃つ間に、久代は短連射を繰り返しながらワゴンの運転席に接近した。
運転席と助手席の男が短機関銃を持っていたが、
「遅い」
の一言と共にフルオートで撃ち込む。フロントガラスが蜂の巣になり、二人分の返り血で内側から真っ赤に染まった。
援軍が片付いたところで、トラック側の人員にも動きがあった。
二人が、トラックの運転席へ向け駆けてくる。その内一人は、先程の
「懲りないな!」
匠が再度FNハイパワーを連射した。
短機関銃を持つ敵に再び命中し、今度は短機関銃を撃つ前に地面に落とす。
すると、もう一人の敵が、撃たれたばかりの味方の死体を盾にした。匠が射撃を続けるが、死体に当たるだけで効果が出ない。
弾が切れたタイミングで男が運転席に着く。ドアを開けて運転手の死体を外に降ろすと、中に入る。
匠は弾倉交換を終え、運転席へ銃撃を再開した。
だが、相手は姿勢を低くしていて当てることが出来ない。
仕方なく今度はトラックのタイヤを撃った。パンクさせれば最悪遠くに逃げられない、と思ったが、こちらも効果がない。丁寧にもタイヤにまで防弾処理が施されていた。少なくとも拳銃弾程度ではダメージにならないようだ。
手間取っている内に、トラックが動き出す。
荷台の方では、激しい撃ち合いが続いていた。
レイモンドの持つPA3ショットガンからばら撒かれた散弾が、MP7サブマシンガンを持った敵を倒す。
ここで、トラックが動き始めた。
荷台の方に残っていた指揮官ともう一人の隊員が荷台に乗り込む。
その瞬間に、
「急げ!」
最後に残った指揮官が、通信機越しに運転席の部下を叱咤する。
トラックが徐々にスピードを上げた。
行く手を遮るSUVを弾き飛ばし、逃走を図る。
匠達も指を加えて見ているわけではなく、カービンを運転席に向けて撃ち、久良木も狙撃を試みていたが、運転手が頭を上げることなく運転しているせいで一発も当たらない。
やがてMDSI隊員達を置き去りに、トラックが高速で離脱する。
後ろから相手が必死に撃ってくる姿を確認しつつ、指揮官は胸をなで下ろす。
――ろくな軍隊も持たない島国に、ここまでコケにされるとは。
今回の作戦での最大の誤算は、相手の能力を過小評価しすぎたことだろうか。いや、装備は十分すぎるほど整えた。ブラックオペレーションにおいて切り札となりえるHPMまで使ったのだ。普通なら、ここまで苦戦することはないはずだ。
しかし、結果は残酷だ。大勢の部下がやられてしまった。
この手の作戦を敢行する際、万が一を考え、彼らは身分を記すようなものは何一つ持たない。この指揮車両さえ処理が終われば、こちらが関与した証拠は何一つ残らない――そこは徹底しておいて正解だったといえよう。
(防衛省特殊介入部隊、だったか。秘密裏に作られた対テロ用の部隊と聞いていたが。将来、我らの障害となるだろうか)
指揮官は、戻った際には奴らの驚異を上層部に訴えた方がいいと考える。
もっとも、その思考を元にした報告が届くことはなかった。
通信機越しに運転席から絶叫がし、直後にトラックは横転したのだ。
MDSI隊員、
走り回っている内に、何台か走り去っていくワゴン車に遭遇した。身を隠しながらそれらのナンバーをスマートフォンで撮影し、諜報部に添付画像と共に解析依頼を出す。
大方終わり、合流を考えていると、別隊が攻撃中のトラックが、ちょうど梓馬がいる方角へ逃げてくる。
梓馬は、背中のバッグからFN P90サブマシンガンを取り出した。スリングで肩掛けにする。
ハンドルを握りしめ、一気にアクセルを噴かせ、バイクを加速させた。
トラックが、目の前に迫る。
このまま走っていっても、正面からトラックと激突すれば、バイクが一方的に吹っ飛ばされるだけなのは自明の理だ。
ゆえに、梓馬の方から、わざと左に逸れた。
否、ただ逸れただけではない。
一度道を外れ、草の中を走りながら、再度トラックに向けて進路を調整。
バイクとトラックのほぼ中間地点、そこにやや大きめの石がある。
梓馬がバイクの前輪を跳ね上げた。
後輪が石を踏む。
ウィリー走行の状態で、バイクごと梓馬が宙を飛んだ。
梓馬の左手がハンドルから離れ、P90サブマシンガンを構える。トラックの運転席をやや見下ろす形で、P90が火を噴いた。
フロントガラスが割れ、運転していた男が高速弾に撃ち抜かれる。
絶命した男が横倒しに倒れ、握ったままのハンドルを切った。
バイクが通過した空間を通りながら、トラックが横転する。
一方で、梓馬の方は跳んだ側と反対の草むらに着地した。空中でハンドルを握り直し、姿勢を整える。着地の際に、前後の車輪が激しく土を抉り、千切れた雑草が舞った。
それでも勢いを殺し切れず、バイクが倒れ、二筋のタイヤ痕上に梓馬の身が転がる。
「おい、大丈夫か!」
どのくらい時間が経ったか、いつの間にか駆けつけていたレイモンドが、梓馬に声を掛ける。
「なんとか」
そう答え、上体を起こす梓馬に、里緒が肩を貸す。
バイクから身を投げ出されたものの、着地が終わっていたことが幸いした。着地前に空中で放り出されていたら、軽い打ち身や擦り傷程度では済まなかっただろう。
レイモンド達が問答している間に、英賀達がトラックを包囲していた。
開いた荷台の扉から、中を覗く。
中には大型のPCや通信機といった機材が整然と積まれていたのだろうが、横転したことで見る影もなく散乱していた。一部切れた配線がスパークして火花を起こしている。
逃走の際に乗っていた男が、崩れた機材の下敷きになっていた。
「これ解析出来るのか?」
「ハードディスクさえ無事なら、なんとか情報は引き出せるでしょう」
登崎の疑問に、
「しかし、どうやって引きずり出すか、だな」
力石が方法を模索する。
英賀がどうしたものか、と視線を巡らせた時だった。視界の隅で、動いている影がある。
「総員、退避!」
英賀が叫ぶ。
緊迫感を宿した指示に、全員が従った。一斉にトラックから離れる。
英賀が見たのは、下敷きになっていた男が、左手だけ動かし、スイッチらしきものを取り出したところだ。
その親指が、スイッチを押し込む。
僅か一秒後――
荷台の中で、爆発が起きた。炎が機材を巻き込みつつ、荷台の入り口から噴き出す。燃える破片が舞い、衝撃波で周りに停めていたSUVの窓ガラスが割れる。
囲んでいたMDSI隊員達は、寸前のところで爆炎から逃れられた。
「こいつは、もしかしなくても――」
「証拠隠滅でしょう。迂闊でした」
地面に伏せたまま、登崎と英賀が言い合う。
闇夜の中、トラックを燃やす炎だけが辺りを照らしていた。
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