第92話
銃を手放していた太刀掛を襲ったのは、
小太刀で迎え討つ太刀掛に対し、二人ともに右手に打刀、左手に脇差しの二刀流で斬り掛かってきた。二人の戦闘スタイルが酷似していることから、同じ流派かと太刀掛は見当を付ける。
太刀掛は、黒田の打刀による一撃を小太刀で逸らし、脇差しを切っ先が触れるスレスレで回避した。
そこを狙い、時間差で迫る竹中の斬撃。
今度は、竹中の右腕を太刀掛の左手が掴んだ。白刃が、太刀掛の首に届く前に止まる。竹中が脇差しで刺そうとしたが、太刀掛の小太刀がそれを押さえ込む。
そこへ、黒田が再度斬り掛かった。
太刀掛は左手で握った竹中の刀で、その振り下ろしを止めた。刃同士がぶつかり火花が散る。
「もらった!」
黒田が、左手の脇差しを突き出す。
太刀掛の右手は竹中の脇差しを押さえており、左手は竹中の腕を掴みながら黒田の打刀を受け止めている――無防備だと判断したのだろう。
しかし、相手は太刀掛を侮り過ぎた。
太刀掛は小太刀を握った右手を動かす。竹中の脇差しを弾き、黒田の脇差しの切っ先を小太刀の
突然の重い衝撃で、黒田の手から脇差しが落ちる。
太刀掛の右手は止まらず、握られた刃が、竹中の右腕を斬り裂いた。竹中の手から、打刀が放れる。
太刀掛は左手で打刀の柄を掴み、黒田の刀を逸らすと、上段に振り上げた。竹中が残った脇差しで応戦しようとするが、遅い。
左手一本で振り下ろされた刀が、竹中の眉間を両断した。
「おのれ!」
黒田が、残った打刀を両手で構え、打ち掛かってきた。
太刀掛は、左手の打刀と右手の小太刀を交差させ、その斬撃を受け止める。
「ふっ!」
短い気合いと共に、両腕に一瞬力を込め、太刀掛は相手の刀をあっさりと押し戻す。
黒田が後退し、再度仕掛けようとするが――
「ぐぬぅっ!」
黒田が、苦悶の声を漏らした。その胸には、刀の切っ先が突き刺さっている。
太刀掛は、先程竹中を倒した際に奪った打刀で黒田の鳩尾を突き刺し、止めに右手の小太刀で黒田の首を掻っ斬る。
黒田が倒れた。その近くには、竹中が虚ろな目で息絶えている。
「あとは、組長の
「そいつは倒しました」
太刀掛が声に振り向くと、先程別れた明智が、こちらに駆け寄るところだった。
「大丈夫か?」
太刀掛は思わず尋ねた。
明智の身体の所々が切り裂かれ、血が滲んで布が変色している。
「掠り傷です」
「いや、そうは見えんのだが」
そこへ、
「おいマコト、ボロボロだぞ!」
「大したことない」
「……とりあえず、勇海、明智に応急処置してやれ」
勝連が命じ、勇海が応急キットを取り出して明智の治療を行う。
その間、勝連と太刀掛が向かい合い、情報を共有する。
「先程、
「こちらも、明智から乾を討ち取ったと報せてもらったところです」
「ふむ……勇海、明智の具合は?」
勝連が問う。
明智の防弾ベストから砕けたセラミックプレートを抜いたり、傷を消毒・止血をしていた勇海が「大丈夫です」と答えた。
「本人の言う通り、内臓や骨には異常ないですね。防弾装備がもう役に立たないことを除けば、戦えるでしょう。まぁ、俺は専門じゃないんで、戻ったらメディカルチェックをした方がいいでしょう」
そう言い、最後に服の上から包帯を巻き付けて止血を済ませてしまう。
勝連は報告を受けた後、無線で別の班とやり取りした。少し考えると、
「よし、ならば中央棟に向かう。まだウェンと
中央棟の二階と三階を繋ぐ階段では、銃撃戦が行われていた。
レイモンドと
まとめていた中国軍崩れが、一気に突入することを命じようとした。その時、別の方向から銃声と弾丸が飛んできた。
勝連のスプリングフィールドM1911と、太刀掛のS&W M10が次々と撃ち抜いていく。
中国軍崩れが慌てて勝連達に95式自動歩槍を向けた瞬間、階段から匠の投擲したナイフが、首を貫いた。動きが止まったところを狙ったように、匠のFNハイパワーから放たれた9mmパラベラム弾が、胸と頭を撃ち抜く。
もう一人がライフルを階段に向け直すが、ちょうどライフルに勝連の弾丸が命中した。拳銃を抜こうとした男の顔面に、階段から跳び降りたレイモンドが跳び膝蹴りを叩き込む。
「龍村、弦間、
合流して早々、勝連は尋ねる。
「三階で拘束しています」
レイモンドが答えると、
「あれ、お二人だけ? 他の面々は?」
と、勝連と太刀掛しかいないことを訝しむ。
「雲早と綾目は念のため外来棟に生き残りが居ないか捜索。勇海と明智は――」
一度、勝連は切り、二階の廊下の奥を睨む。
「――ウェンを始末しに行った」
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