第84話

 外来棟では、激戦が続いていた。

 敵の武器弾薬を吹き飛ばした後、勝連かつら太刀掛たちかけ勇海ゆうみ明智あけちの四人がそれぞれの銃を手に飛び出す。

 そこへ、敵が銃撃を始める。ここを守っているのは、主に黄鱗おうりん会――幹部のウェンが飼い慣らしている中国軍崩れ達だ。空挺部隊をリストラされた彼らの主武器は中国軍の制式突撃銃QBZー95、採用名95式自動歩槍。銃床内に機関部を収めてコンパクト化したブルパップスタイルのライフルで、5.8mm口径の高性能弾薬を使用する。

「散れ!」

 勝連が指示を飛ばしながら、二階のスロープから撃っている敵にM14ライフルの銃口を向け、発砲。頭を撃ち抜かれた死体が欄干を越えて一階に落下する。

 そこへ、爆発で生じている炎を飛び越えてきた敵がいた。

 即座に太刀掛の持つレミントンM870ショットガンが火を噴き、蜂の巣にする。

 爆発炎を回り込んで来る敵が、左右から現れた。

 勇海のSG552カービンが胸に5.56mm弾を叩き込み、明智の左手に握られたMP9サブマシンガンがリズムカルに銃声を鳴らして9mmパラベラム弾を四、五発撃ち込む。

 四人を狙っている敵が二階の雲早くもはや、ルナの援護射撃で倒れた。



「敵が分かれるぞ! 一人ずつ囲んで討ち取れ!

 妛尤しゆう、戦闘準備! 銃撃に誘われているところを確実に始末しろ!

 二階にも二人来ているぞ! 二階の部隊のうち一班を回せ! そいつらを優先して仕留めろ!」

 外来棟の部隊を指揮するギン・ロウが、三階から通信機で次々と指示を飛ばす。

 敵は大胆にも十人に満たない人数で正面から突撃してきた。はっきり言って、正気とは思えない。

 だが、その正気から程遠い敵に、何人かすでにやられているのも事実だった。

「ロウ!」

 声を掛ける者がいた。

 蒼狼そうろう会のいぬい吾郎ごろうだ。彼の後ろには、部下がぞろぞろと付いてきている。

「援軍に来たぞ。状況は?」

「敵に突入された。一階に四人、二階に二人展開されている。しかも、準備していた武器がやられた影響で、位置の把握が難しい」

 来たばかりの蒼狼会にロウが状況を説明した。

 一階ロビーの中央では、未だに爆発した武器庫の炎が燃え盛り、視界を乱し続けている。その混乱に乗じて、敵は動き回り、浮き足立っているこちらの兵士達を討ち取っている。

「二階の敵には一班――九人程回している」

「そうか。鷲尾わしお!」

 乾が、自分の若頭の一人の名を呼ぶ。

「二階の部隊に協力してやれ」

「分かりました」

 中国軍の81式自動歩槍を構えた鷲尾が、数名の腹心を連れて離れる。

「一階の連中の始末に俺達も加わる。ロウは引き続き状況を見て指示を出してくれや」

「いいのか?」

 ロウが乾に尋ねる。

「この場の指揮官はお前だ。無論、俺の組には俺から指示を出すが、俺を含めた全体の指示はお前が出せ」

「承知した」

 ロウが頷く。

「行くぞ、鷹見たかみ

「……はい」

 若頭の鷹見が応えた。先の戦いで撃ち抜かれた右耳の上から、大型の止血用ガーゼが貼られ、傷口を隠している。痛々しく見える一方で、彼自身の戦意はまったく衰えていない。

 乾が自分の武器を確認する。蒼狼会の精鋭達の武器は、黄鱗会以外にも付き合いのあるロシア、朝鮮、東南アジアのマフィアから購入している。

 乾自身は、韓国マフィアから横流ししてもらったK1A1アサルトライフルを装備していた。韓国で開発された、サブマシンガンサイズのコンパクトなライフルだ。

 鷹見が装備しているのは、イスラエル製のマグナム弾仕様自動拳銃デザートイーグルを二丁。さらに背には対物ロケット砲のRPG-7を担いでいる。

 これで活路が見えた、とロウは思った。所詮敵は少人数。まだまだこちらが多い上に援軍が到着した。大丈夫だ、返り討ちに出来る。

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