第5章 豺狼の城
第74話
山奥の厳しい沢。
祖父に命令されて、一人の少年が魚の腹を裂いていた。
――あれは、子供の頃の俺か?
「人は、他の生き物を殺してでも生きていくんだ。分かるな、
夢を見ている。随分と、懐かしい夢だ。
頬を叩かれ、
「任務前だって言うのに、よく眠れるわね、お寝坊さん」
開口一番に、皮肉が飛んでくる。どうやら、叩き起こしたのは、ルナのようだ。
「……すいません」
明智は思わず謝る。
「もうすぐ目的地だ。しっかりしてくれよ、マコト」
一方で、助手席の
やがて、明智達が乗っている車が目的地近くに到着した。一同は車を降りると、それぞれの武装を手に徒歩で目的地へ接近する。
「こちらアルファ。配置に着いた」
勝連達は、雑木林の陰から数十メートル先の榊原記念病院を観察していた。
榊原記念病院は、構造上三つの建物に分かれている。「外来棟」「中央棟」「入院棟」の三つの施設が、中庭を中心としてL字型に配置されていた。
外来棟は待合室と各科の診察室で構成された四階建て。中央棟は主に院長室や職員のための休憩室に会議室、各種検査室が集中している建物で三階建てだ。入院患者のための入院棟が一番大きく、八階建てである。入院棟のすぐ近くに、関係者用の立体駐車場があった。
勝連率いるアルファの人数は六人。敵の本拠地を攻めるに当たり、全員が重装備で駆けつけた。闇夜に紛れる漆黒のタクティカルスーツの上から、セラミック製の防弾プレートに予備弾倉や爆発物を納めた各種ポーチを装着している。当然、武器も普段の作戦とは段違いに豪華だ。
まずは勝連。普段から使用している7.62mm口径の大火力ライフル、M14の近代改修バージョン。夜戦、中距離戦に対応できるように、狙撃用の高倍率スコープではなく暗視装置付きのダットサイトを装着している。
予備武器として、H&K UMP短機関銃に、スプリングフィールドM1911クローンを装備。弾薬共有のため、どちらも45口径弾対応モデルだ。
次に、
そして、拳銃はS&W社のロングセラー
さらに、愛用の村正の小太刀を左腰に差していた。素手での格闘戦でも大抵の相手に遅れは取らないが、これがあればまさに鬼に金棒である。
そこに、もう一丁武器を追加で持ってきていた。コルトM79グレネードランチャー。ベトナム戦争の頃に開発された発射器で、M16ライフルやM4カービン等へ装着されるM203ランチャーの前身ともいえる代物だ。ライフルへ取り付けは不可能だが、構造が簡単なためか故障知らずの一品で、未だに世界中の戦場の第一線で使われ続けているという。予備含め三発のグレネード弾を三連ポーチに入れて身につけていた。
サイドアームは、ロシアの最新短機関銃KBP PP-2000。これは大型拳銃とほぼ変わらない大きさのサブマシンガンで、9mmパラベラム弾の他に専用の7N31徹甲弾を使用する。この新型弾薬は二〇〇mの距離からケプラー繊維の防弾ベストを軽々と貫通できる。さらに愛用のCz75拳銃も所持。
左右のヒップホルスターにPP-2000を二丁、ショルダーホルスターにCz75を二丁納め、ライフル含め計五丁の銃火器を雲早は装備している。
さらに今回は接近戦用にナイフ、そしてトンファー型警棒を持ってきている。敵から奪った木製の物ではなく、特殊カーボン製だ。軽くなって打撃力の低下を防ぐため、中にはチタンの棒が仕込まれた特注品である。
さて、
室内戦であるため、軽量小型のB&T MP9短機関銃もスリングで下げておく。拳銃は、太刀掛から借りているコルト・ローマン。強力なマグナム弾を六発撃てる小型の回転式拳銃だ。
そして、得意である接近戦のため、銘の潰れた脇差し――村正と、ルナから受け取った折り畳み式の
勝連達から一番近いのは、外来棟の救急患者搬入口だった。ホームレスのふりをしたヤクザが三人、見張りについている。外来棟の屋上にも見張りが歩き回っており、スーツ姿で中国軍のアサルトライフルを構えていた。廃墟のはずだが、照明装置が灯り、周囲を照らしていた。気付かれないようにこっそり進入することは不可能だろう――もっとも、勝連側には、そんな考えは微塵もないのだが。
『ブラボー、配置につきました。いつでも行けます』
無線から
「よし、チャーリーは?」
勝連はこちらに向かっている最中の、第三のチームへ問いかける。
『こちらチャーリー。予定通りの行程。到着まで三分切りました』
「よし、仕掛けるぞ!」
勝連が号令を掛けた。
「待ってました!」
勇海はM79ランチャーに、グレネード弾を装填する。それを合図に、他のメンバーも一斉に薬室に初弾を込めた。
『こちらブラボー。合図を!』
再び、ブラボーから通信が入る。
「よっしゃ、いっちょ派手に行くぜ!」
勇海は宣告と共に、M79ランチャーのトリガを絞った。四〇mm口径の砲弾が飛び出し、狙い通りの軌道を描いてから炸裂する。その爆風が、搬入口のドアと一緒に三人の見張りをまとめて吹き飛ばした。
爆発に驚いた、屋上の見張り二人が、屋上の縁に駆け寄って状況を確認しようとする。
「三流が」
勝連が短く吐き捨てると、無防備な見張り目掛け、M14ライフルを二連射。夜の闇を鋭い銃声と発射炎が切り裂く。暗視装置を兼ねた照準器越しに、二人の見張りの頭が弾けたのが確認できた。
――そこは、近付くんじゃなくて伏せるのが常識だ。
アルファは雑木林を飛び出すと、扉を吹き飛ばしたばかりの搬入口から外来棟へ突入を開始した。
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