第72話
ほとんどの一般車両を抜き去り、相手の車と二人の乗るバイクが一直線に並ぶ。相手の車は、拉致した
すると、片方のセダン後部の窓からイングラムM11を持った男が上半身を外に出した。バイクに向かってフルオートで弾丸がばら撒かれる。
明智はバイクを左右に振って何とか回避した。
だが、背後に置いてきた一般車両には、流れ弾が容赦なく襲い掛かった。フロントガラスに皹が入り、それに驚いた運転手がハンドルを切るか、急ブレーキを掛ける。そこへ追突する後続車両達。
「あいつら!」
明智が怒りを露わにする。無関係な人間を巻き込んだことに対する怒りだ。
「マコト! 何とか弾丸を避けつつ近づいてくれ!」
勇海が指示を出す。
その右手には、SIG社製ガバメントクローン、GSRが握られていた。
「タイヤにぶち込んでやる!」
「分かった!」
明智はさらにアクセルを噴かせる。行く手を阻むセダンの左手に寄せようとした。
弾倉交換をしていたのか、一度引っ込んでいた敵が、再度イングラムを明智の操るバイクに向けた。
「遅い!」
そこ目掛け、勇海の持つSIG GSRが火を噴いた。二発の.45AUTO弾が放たれ、一発目が男の短機関銃を弾き飛ばし、二発目が右肩を撃ち抜く。
ここで助手席の敵が窓を開けようとしたが、その前に勇海が照準を切り替え再度拳銃を連射。窓ガラスを割り、そこから飛び込んだ弾丸がフロントガラスを赤く濡らす。
止めに弾倉内の残りの弾を前後のタイヤに撃ち込み、バーストさせた。コントロール不可能になったセダンが離脱する。
「よし、まず一台!」
勇海が喝采を上げる。
ここで、明智は嫌な予感がし、咄嗟にアクセルを緩め、ブレーキレバーを引く。
離脱し掛けていたセダンの影から、もう一台のセダンが高スピードで横に寄せてきた。体当たりで吹き飛ばす算段だったのだろう。
明智の咄嗟の判断により、何とかぶつかることは防げた。だが、ワゴンと明智達の間に、再度セダンが割り込んだことになる。
明智は何とかもう一度横からセダンを追い抜こうとするが、相手は巧みにバイクの進路を塞いでくる。
「ちっ、二回も許しちゃあくれないか」
スライドが後退したままのGSRに新しい弾倉を挿し込みながら、勇海が愚痴る。
「こいつの弾倉、これでラストだ」
「どうする?」
「ありったけの弾丸をぶち込む!」
勇海は左手も明智の身体から放すと、愛用のS&W M686回転式拳銃を抜いた。
明智も、左手をハンドルから放し、ショルダーホルスターからコルト・ローマンを抜いた。親指で、撃鉄を起こす。
「タイヤを撃つと後ろの俺達もヤバい! 窓撃って運転手をやるぞ!」
勇海が両手の拳銃を構える。
明智も、ローマンの狙いを後部ガラスに定める。
三丁の拳銃が、ほぼ同時に射撃を開始。強力なマグナム弾と四五口径弾が、数発でリアガラスを粉々に砕いた。後部座席の連中は危険を察知したか頭を引っ込めている。
そのうち、相手は手と銃だけを出し、割れた窓から反撃の銃撃が始まった。まともに狙って撃ってきているものではないが、一発でももらおうものなら転倒して大惨事だ。
明智は右手一本でハンドルを操り、何とか直撃を避けようとする。その間も射撃は続いた。二人の狙いがぶれ、弾丸がハザードランプを割り、シートの一部を抉る。
後ろの勇海が両手の銃を撃ち切った。
明智は、六発目にてようやく命中させた。ローマンから放たれた.357マグナム弾が、後部の窓から飛び込み、運転主の頭を貫通する。霧吹きのように鮮血がフロントガラスに大量の赤い雫をぶちまけた。
絶命した運転手がハンドルに倒れ込み、クラクションを鳴らしながら、徐々に右へ逸れていくセダン。
二人のバイクは、セダンを左から抜き去り、ワゴンを再び追いかける。
そのとき、ワゴンの窓から、ハンヨンが手を出し、投擲してきたものがあった。
「フラッシュバ――」
勇海が明智に警告を送るが、間に合わなかった。
閃光手榴弾が炸裂した。激しい光が、一時的に明智の視力を奪う。ただでさえ片手による不安定な運転が、より危険なものに変わる。
「ブレーキ!」
勇海からの指示を聞き、咄嗟に明智は右手のアクセルを放してブレーキレバーを思いっきり引き、ブレーキペダルも踏む。
急ブレーキを掛けたものの、時速八〇km近いスピードが出ていた上に、左手を離した運転だったことで、最終的にはバイクが右に転倒した。
幸いなのは、勢いのままに搭乗者が放り投げられるような事故ではなく、タイヤの方が進行方向にベクトルが向いたまま倒れてから、乗っていた人間の身体が道路を転がりながら離れていくタイプの転倒だったことか。バイクはそのまま激しい火花を散らしながら赤信号を無視して交差点まで進み、横から発進したトラックの下敷きになった。
明智と勇海はアスファルトを転がったことで擦り傷や打ち身を起こしたが、頭は何とか守ることができ、骨折などの命に関わる怪我を負わずに済んだ。
ようやく明智の視力が戻ったが、痛みですぐに立ち上がれない。勇海も同様のようだった。
「くそが……」
そこへ、武装した集団が近付く。先程運転手を失ったセダンに乗っていた連中だ。セダンが激突して使い物にならなくなったため、二人が倒れている地点へ自分の足で駆けてきた。その数三人。
まずい、と思うが、身体が言うことを聞いてくれない。
「死ね!」
一人が、短機関銃の引き金を絞ろうとする。
銃声が響いた。
短機関銃を撃とうとした男の頭が、割れたスイカのように弾ける。
他の二人が、銃声をした方向を向いた。
釣られて明智も視線の先を追う。
一台のオープンカー――マツダのロードスターが近付いてきた。運転しているのは、諜報部の
そして、助手席には、ライフルを構えながら立つ、諜報部の長、
持っているのはロシア製自動式狙撃銃、KBP SVU。ロシアを代表する狙撃銃SVD――通称ドラグノフ狙撃銃をブルパップ式に改良したモデルだ。
二発目が、放たれた。今度は二人目の胸に命中。心臓を射抜き、爆発的な鮮血が道路を真っ赤に染める。
「うおぉぉぉ!」
三人目は、近付いてくるロードスターに向け、持っていたイングラムM11を連射する。
放たれた弾丸の一発が、邑楽の髪を掠った。半ばから千切れた黒髪が宙を舞う。
しかし、己の近くを弾丸が掠めても、邑楽は涼しい顔を崩さない。全く臆することなく、冷静に三人目に狙いを絞り、引き金を絞る。
眉間を撃ち抜かれた死体が倒れるのと、ロードスターが明智達の近くに停車するのは、ほぼ同時だった。
「無事――ではなさそうだし、間に合わなかったけど、最悪の事態は回避したようね」
やはり、表情を崩さず、邑楽は言ってのけた。
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