第4話エロいクラビングナイト、その1

 この男が理央りおの存在を独占するのか。

 クラブで理央から彼女のフィアンセである俊介しゅんすけという男を紹介された。ホテルの部屋みたいなVIPルームに丸尾まるお、理央、俊輔そして僕がテーブルに着いている。4人でドイツのビールを飲んだ。室内はホール側の壁がなく手摺てすりのついたさくになっていて一階がのぞける。下のフロアでは何も知らない若者たちがテクノミュージックに合わせて身体を揺らしていた。

「初めまして俊輔です。東京でピアノ弾いてます。お二人のことは理央から色いろうかがってます。お世話になってます」

 俊輔は僕と丸尾に丁寧ていねいなあいさつをした。育ちの良さがうかがえる。でも容姿ようしは意外と普通だった。こんな男のどこがいいんだろう。そして彼はジャケットの内ポケットから小さなカリンバを取り出し、き始めた。

 俊輔によると、カリンバとはアフリカの民族楽器なんだと。スマホみたいな木箱に十数本のひらたい金属棒が片方だけ固定されて並んでいる。その金属棒を両手の親指ではじいて音をらすのである。

 俊輔はカリンバを両手に取り、一階ホールから流れてくるテクノミュージックに合わせて器用きようにオルゴールのような音色ねいろかなでている。

 しかし、どうしても納得できない、なぜ理央は僕じゃなくこいつを選んだのだろう。僕は理央に無視されてるような気がして腹が立った。

「新しいビジネスをしようと思うんだ」

 丸尾が自慢じまんげに言った。俊輔を意識してるのがバレバレだ。

身寄みよりのない年寄としよりから会費を集めて彼らが死んだあとの面倒めんどうを見てやろうと思って……孤独死こどくしする老人の後始末あとしまつするんだよ」

「興味深いですね」

 丸尾のビジネスプランに俊輔がマジで反応した。僕も「丸尾は面白いこと考えるなぁ」としみじみ思った。

「そろそろ私の出番でばんだわ」

 室内の固定電話で理央が呼び出された。一階フロアのブースで彼女が音楽により若者たちを上げたり下げたりする時間がやって来たのだ。

 理央がこの街でDJプレイをする最後の夜だ。


 クラブはかなり混んでいる。暗がりに暖色だんしょく寒色かんしょくの光が交錯こうさくする。僕たちが一階に降りるとフロアにいる連中れんちゅうは皆すでに出来上がっていた。そのまま外に出ると低体温症ていたいおんしょうで死んでしまいそうなファッションのガキどもが派手な音楽で踊っている。

 俊輔、丸尾そして僕は正面にあるDJブースがのぞけるちょうどいい場所を探した。人混ひとごみをかいくぐってる途中、僕は明らかに女子中学生とわかる美少女と肩がぶつかった。彼女は僕を振り返りウィンクをして「あら、ごめんなさい」と言った。腕にはたくさんの注射のあとがあった。なぜか僕は中二のとき付き合っていた彼女を思い出した。

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